戦鎚聖騎士、捕まる
「で、実際のところ聖女でも堕ちた森の住人達を元には戻せないのか? さっきはうち、当時の聖女の言ったことそのまま隊長さんに伝えちゃったけどさ」
「現実的じゃないですね。さっきのティーナの例えのとおり、蝶をイモムシに戻せって言ってるようなものですから。ああ、魔法で変態させてそれっぽく似せることは難しくないですけれどね」
「なんちゃってじゃあ意味がないな。精霊に見抜かれちゃうぞ」
「精霊ったら我儘ですねぇ。邪精霊も結構好き嫌い激しいですけれど、精霊ほどグルメじゃないですよ」
「僕からしたら底辺同士の争いにしか聞こえないんだけれど?」
最初の里を出発した俺達は俺を先頭にティーナ、ミカエラ、イレーネの順番で隊列を組んで進んでいた。本来なら土地勘のあるティーナが前に出るべきなんだが、俺が雑草を刈りながら進む破目になったからだ。
ティーナ曰く、人の往来が多い道なら雑草が生え茂ることはないらしい。なのに雑草が脇からびょんびょん伸びてくるものだから、短剣を振るって道を切り開いているわけだ。これが意味すること即ち、里と里との間の交流が途絶えているわけだ。
「エルフ達は里に閉じこもってるってことか。次の里に行っても入れてもらえるのかね?」
「一応さっきの里の隊長さんと里長さんに紹介状書いてもらったから、見てもらえれば大丈夫だろ」
「遠くから威嚇射撃されたらどうするんだ? 押し通るつもりか?」
「それなら冒険者らしく野宿するまでさー。交代で見張ってれば大丈夫だろ」
道中、ティーナは何度か矢を射た。遥か遠くで何か倒れる音が聞こえてきたから、どうやら俺達が気づかないほど遠距離の魔物またはコラプテッドエルフを仕留めているらしい。おかげでこっちは何にも遭遇せずに済んだ。
それにしても、小動物もさることながら鳥にも遭遇しなかった。森がざわめいている。確かに様子がおかしいと俺にも分かる。エルフにとってはこの変容ぶりは違和感の塊を通り越して気持ち悪いのだろう。
「あ、ニッコロ。防御よろしくな」
「は? 何を突然……」
突然ティーナが注意してきたと思ったら、前方から矢が飛来してきた。全身鎧で身を固めた俺とイレーネ、エルフのティーナでなく、よりによってミカエラを狙ってきやがった。すかさず盾をかざして矢を受け止める。幸いにも何の魔法も付与してなかったようで、矢は盾を貫通せずにその場に落ちる。
「そこの人間共! その場で止まれ!」
遠距離からの狙撃と気付いた時には警告を受けていた。透き通る、しかし鋭く吠えるような声だな。発信源が分からなかったが、ティーナが言うには風の魔法を使って遠くから空気を震わせて伝達してきているらしい。
俺はティーナを伺った。ティーナは手を下へ振る仕草をしてちょっと待つよう促してくる。なので俺もイレーネも武器を構えず、ティーナが前に出て彼らと交渉するのを見守ることにした。
「うち等は聖パラティヌス教国の聖女ミカエラとそのパーティーだ! 聖地巡礼の旅の途中でここの聖地に立ち寄った! 怪しい者じゃない!」
「帰れ! 我々はお前達を歓迎しない!」
「主語が随分とでかいなー! ほら、隣の里の紹介状は持ってる! 怪しかったら検査でもすればいいさ!」
「……少し待て! 妙な動きをしたら容赦はしない!」
随分と警戒されてるなぁ、と呆れていると、程なく若いエルフの兵士達がこちらまでやってきた。ただティーナが言うには狙撃手はまだ遠くで俺達を狙っているそう。そしてまだ大森林の外れに位置する里でここまで排他的になるのは珍しいらしい。
エルフの兵士達は武器をその場に置くよう促してきたので従った。それから身分証、紹介状の提示を求められたので見せてやった。エルフはいかにも険しい顔つきをしながらも渋々俺達のことを認めたようで、付いてくるよう指示してくる。
「ここまでされる謂れはないんだがな。大人しく野宿したほうがマシだったかも」
「我慢だ我慢。その代わりここの連中には状況をしっかり説明してもらおうじゃないか」
「別に聖地巡礼の邪魔にならないなら邪精霊共と関わらなくたっていいんだが?」
「そうもいかないだろ……。ニッコロ達にその気がなくても邪精霊共は絶対ちょっかい出してくるぞ。聖地は邪精霊共にとっても因縁ある場所だからなー」
不満を飲み込んで案内されたエルフの里は、観光地化された最初の里と異なって完全に木の上の村だった。堀や城壁はおろか、地上に建造物すら無い。はしごや縄梯子が無かったら完全に地上から分断されていたことだろう。
はしごを登った先の光景は先ほどの里とほぼ同じ。ただし観光施設は一切なく全てが生活に必要な家や店、そして公共施設のみだった。招かれざる客たる俺達に住人が向ける眼差しはとても冷たいか警戒心に溢れていた。
「寝床は貸そう。だが日の出と共に出て行ってもらおう」
「随分な待遇だなぁ。事情ぐらい説明してくれよー」
「お前もエルフなら学んだことはあるだろう。……あの忌々しい存在、コラプテッドエルフがまた現れたのだ」
「そりゃ大事じゃないか。だから里を封鎖して籠城してるってわけか。で、今はそれで凌ぐとして、打開策は何かあるのか?」
「森を捨てて冒険者となったお前には関係無い」
「あ、そ」
ティーナも素っ気ない態度で返し、会話は途切れた。




