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戦鎚聖騎士、堕ちたエルフを検死する

「な、何だ、奴らは……!?」

「嘘だろ……!」

「ば、化け物……!」


 この里のエルフ達は堕ちたエルフを見るのは初めてだったらしく、各々反応を示すものの、誰もが一様に驚愕や絶望に彩られていた。なまじエルフの面影が残っているだけに、その成れの果てだと思えてしまうのが悲劇だろうか。


 迫るコラプテッドエルフの連中は特に何の武装もしていない。それどころか里からちょっと抜け出したようにしか思えないほど普段着ばかりだった。普段通り生活していたら突然邪精霊の手に落ちたことが伺える。


「う、撃て! 奴らを里に近づけさせるな!」


 隊長らしきエルフが狼狽える部下達に号令をかけた。それにより正気を取り戻した守備兵達は一斉に侵入者達へ矢を浴びせかけた。コラプテッドエルフ達は回避行動や防御も取らずに前進するばかりで、その身に次々と矢を受けて倒れていく。


 結局堕ちたエルフ達は堀の辺にも到達出来ずに全滅。事態が収集したと見なした隊長エルフの指示により跳ね橋が降り、何名かのエルフの兵士が敵の亡骸を確認しに向かった。俺達もそれに便乗する形で最初のエルフの里から出発しようとして……。


「もし! そこの貴方! もしや白金級冒険者のティーナ殿ではありませんか!?」


 と隊長に呼び止められた。

 ティーナは隊長に背を向けた状態で露骨に嫌そうに顔をしかめ、駆け寄ってくる隊長へと振り向いた時にはいつもの様子に戻っていた。営業笑顔すごいですね。


「おー、うちがティーナで間違いないぞ」

「貴殿の評判は遠くこの大森林にまで届いておりますぞ。幾世紀にも渡る外界での魔の者の討伐、同じエルフとして大変誇りに思っておりますぞ!」

「どういたしまして、だな」

「では昨晩に森に走った稲光も貴殿によるものですか」

「まあな。不審な動きがあったからなー」


 隊長はどうやら人間が定めた冒険者の等級にも敬意を払っている。さすがに人里に最も近いエルフの里を守っているだけあって、人間社会での地位も重んじているようだ。こころなしか聖女や聖騎士の俺達も気にしているようだな。


 隊長はコラプテッドエルフ共の死体を確認するエルフ達の様子を伺う。彼らは吐き気で戻す者、嫌悪感から目を逸らす者、と明らかに作業が進んでいない様子だった。隊長は深くため息を漏らす。


「未知なる脅威に戸惑うのは分かるが、あれではいかんな。ティーナ殿、申し訳ないが、しばらく我々に付き合っていただけないか?」

「いいぞ。急ぐ旅じゃあないからな」

「かたじけない。何、そう時間は取らせませんぞ」

「だといいけどなー」


 隊長エルフに付いていく形で里から出た俺達。道端で倒れるコラプテッドエルフの死体を観察する。イレーネは趣味悪いとか呟いて興味なさげだったけれど、敵を知らんことには戦術が立てられんからな。イレーネみたいな勇者魔王とは違うんだよ。


「遠目からでも分かるぐらいやせ細ってるんだが、虚弱じゃないか?」

「邪精霊が馴染めば筋肉ムキムキになるぞ。体毛とか鱗が生えだすけどなー」

「歯が鋭くなったのは野生動物みたく獲物に食らいつくようになったからか?」

「それはあるかもな。連中は料理なんて文明的なことはしない」

「瞳孔は横長……馬とか羊がこうだったか。完全に別の生き物って感じだな」

「それは火の邪精霊の影響を色濃く受けた場合だなー。水とか風の邪精霊の影響を受けた場合は普通に丸っこいぞ」


 で、何故か俺が検死する破目になったので、頭のてっぺんから爪先までくまなく調べていく。エルフは特に人間と身体的特徴で変わった点は無い筈だから、コラプテッドエルフの変容ぶりが分かるってものだ。


「正直、この程度なら大した脅威じゃないんだが、過去では本当にこの連中に大森林が攻め落とされそうになってたのか?」

「こいつ等を見たんじゃあそう判断してもおかしくないなー。奴らの脅威はもっと事態が深刻にならなきゃ分からない」

「是非そうなってほしくないものだな」

「それは無理じゃないかー? 大森林の端っこに位置してるこの里で初期現象が起こってるんだ。内側はもっと進んでるはずだぞ」


 なんてこったい。聖地は大森林の奥深くにあるのに。俺達は危険の真っ只中に飛び込まなきゃいけないのか。かと言ってまたの機会ってことで出直す、なんて選択肢はミカエラにあるわきゃないし。覚悟決めるしかないか。


「ティーナ殿、こんな奴らは大森林で見たことがありません。やはり新たな魔王が現れて、魔物が大森林に忍び込んでいるのでしょうか?」

「おいおい、現実から目をそらすな。こいつ等は元々エルフだった者達だ。邪精霊の影響を受けて堕ちたエルフ、コラプテッドエルフ。聞いたことあるだろー?」

「まさか……。あの忌むべき存在が今の時代に再び現れたというのですか?」

「新たな魔王が過去を参考に再び同じ戦略を使ってきたってことだろ」


 おいミカエラ、不機嫌になるんじゃない。魔王軍が内部分裂してて反魔王軍派が暴走してる、なんてエルフに説明したところで納得してくれるわけないだろ。後で何か甘いもの作ってやるからこらえろって。え、二種類作れ? しょうがないなぁ。


 どうやらエルフ達には過去大森林を襲った顛末がはっきりと伝えられているようだ。おそらく歴史が風化して同じような悲劇を繰り返さないための教訓としているのだろう。大森林の奥側にも城壁と堀が張り巡らされてるのもそのためか。

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