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戦鎚聖騎士、堕ちたエルフを目撃する

 観光客用の階段を登っていよいよ見学となった。所々でエルフが来訪者に案内と説明をしている。ここは生活空間なので外部の者は基本的に夕暮れ前には帰ってもらうのだが、それなりの金を払えば宿泊施設を使えるのだとか何とか。


 通路の脇には街灯が設置されていて、夜になると火を灯すらしい。てっきり火気厳禁かと思ったら、火の精霊の力を借りることで火の取り扱いを管理しているらしい。なので自分で火種を起こして松明やら暖炉を使えないみたいだ。


「なんかこう、森林浴したい気分だな」

「あー、それ分かります! 豊かな自然に囲まれながらゆったりと過ごす、贅沢な時間の使い方ですよね!」

「うちには日常過ぎて何が楽しいんだか分からないけどなー」

「ティーナ、それより今日はどこまで進むつもりなの?」


 エルフの里にさして興味なさそうなイレーネの問いにティーナは僅かに唸った。


「そうだなー。まだ日没まで時間あるし、一つ奥の里まで進んで一泊するかー。森の中での野営は無し、夜間も進まない、で行こうか」

「ここからはティーナの言うけもの道を進むんでしょう? 魔物と遭遇するの?」

「するぞ。此処から先はもう観光気分じゃあいられないなー」

「じゃあ、昨晩ティーナが仕留めたような堕ちたエルフ達とも会うかもしれない?」


 イレーネの発した言葉に周囲にいたエルフ達が過敏なほどに反応した。半分ほどが不安がり、何割かが森を汚されたことに憤りをあらわにし、残りは里を守ってみせるとの決意を秘めた固い面持ちになった。


 里を奥に進むにつれて観光客を見かけなくなる。時には衛兵と思われしエルフの弓兵に声をかけられるが、ティーナが白金級冒険者の証を見せると畏まって道を譲る。明らかに平時の雰囲気ではなく、剣呑な空気が漂っていた。


 里の反対側までやってきた。入口側と同じように城壁が張り巡らされていて、側防塔の上では見張りが目を光らせていた。本来外側からやってくるのにこの警戒、内側から迫る脅威に備えてだろう。


「……!?」


 門で手続きをしようとしたその時だった。ティーナは突如として跳躍し、壁を何度か蹴りながら側防塔の上へと行ってしまった。イレーネも彼女を追いかけて空中を蹴りながら塔の屋上に向かう。


 勝手にしてくれ。俺はここで待たせてもらうからな。

 ため息をはきつつ地面に腰を下ろそうとしたら、何かミカエラが目を輝かせてこっちを見つめてくるんだけど。


「ねえねえニッコロさんニッコロさん。久しぶりにアレやってくださいよ!」

「え? 普通に嫌なんだけど? アレすっごく疲れるし」

「ニッコロさんのちょっと良いトコ見た~い~!」

「分かった! 分かったから拗ねるなって!」


 くっそ、豚もおだてりゃ木に登る、とはどこの地域の諺だったか忘れたが、俺もミカエラにお願いされたら火の中水の中なんじゃねえのか? 冷静に考えたら情けない限りなんだが、これっぽっちも不満にならないのは不思議なもんだ。


 俺はミカエラを抱きかかえ、ミカエラは俺を抱きしめた。ミカエラって毎食ばくばく食ってるわりにはあんま体重無いんだよなぁ、と感想を思い浮かべながら横抱きしたミカエラをしっかり掴まえ、脚に闘気術をかけ、一気に飛び上がる。


「セイリングジャンプ!」


 急加速して高度が上がっていき、側防塔の上辺りで減速、上手く着地出来た。ひとっ飛びでやってきた俺にはさすがのイレーネとティーナも驚いたようで、ティーナなんか俺に拍手まで送ってきた。


「凄いなニッコロ! こんなことまで出来るんだなー!」

「僕もそこまで高く跳躍は出来ないよ。いや、奇跡や魔法を駆使すればあるいは?」

「さすがは我が騎士! 余も鼻が高いですよ!」

「褒めるな褒めるな。それよりティーナ、急にどうしたんだ?」


 褒められて有頂天になるのもいいんだが、そんな場合じゃないのはティーナの真剣な表情を見れば分かる。彼女は城壁より外、大森林の奥側を睨みつけていた。俺も目を凝らしてみるものの、特に何も見えやしない。


「魔物か? それとも例のコラプテッドエルフか?」

「今度もうちが仕留めてもいいんだけど、この際だから一目見せるのもありかー。こっち側の出入口の跳ね橋も上がったままだから、多分大丈夫だろ」


 脇では元々見張りに立っていたエルフが非難の声をあげてくるんだが、直後に軽快な音が森の奥から鳴り響いてきた。木の板に木片が何度も当たるような音色だが、確か田畑を荒らそうとする害獣の侵入を知らせる鳴子って罠がこんな感じか。


 実際俺の想像通りだったらしく、見張りのエルフが侵入者だと声を上げた。途端に城壁や側防塔にエルフが集い、各々弓矢を手にして待ち構える。俺達のパーティーにはエルフのティーナがいたおかげか、邪魔者扱いはされなかった。


「……何だ、アレ?」


 ようやく森の奥深くで蠢く何かが俺の目にも見えてきた。


 奴らはエルフだった。しかし決してエルフではなかった。


 目は見開かれてぎょろつき、開かれた口の中の歯は尖り、身体は肉が落ちて痩せこけ、肌の色は白かったり青紫色だったりと普通の生き物のようではなかった。こちらに向かってくる足取りもおぼつかなかった。


「アンデッド系モンスターのゾンビにでもされたか?」

「邪精霊の影響を受けて正気を失った第一段階だな。より堕ちると姿がエルフから離れるように変貌するぞ」

「つまり、あれがコラプテッドエルフか」

「ああ。彼らは犠牲者でもあり、もう森にいちゃいけない存在だ」


 ティーナは唾棄するように言い放つ。

 彼女の様子からエルフが連中をどう思っているか、ありありと分かった。

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[一言] セイリングジャンプときたら、あすへとべ ※年寄りの戯言です
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