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戦鎚聖騎士、エルフの里を観光する

 大森林の端にあたるエルフの里は一大観光名所になっている。直ぐ側に位置する人の町からは日帰りで旅行出来る距離だし、道路も整備されている。エルフにとっては人との交流の起点となる玄関に該当するのだ。


 朝食を取って身支度を整えた俺達は早速エルフの里に向けて出発した。大森林が不穏な空気に包まれる状況下でも人やエルフの往来は激しく、観光目当ての家族連れや貴族の馬車も見かけられた。


「エルフは元々は排他的だったんだけど、魔王軍の脅威に晒されて他の人類と手を結ばざるを得なくなったんだぞ。窓口はここと大森林の反対側の二箇所だな。ああ、別にそこを通らないと森に入れないってわけじゃないからなー」


 道中、ティーナが観光案内を引き受けてくれた。というより彼女の方から申し出があった辺り、大森林に潜むコラプテッドエルフの影を振り払うように明るく振る舞っているのだろうか。


「森林を切り開いて街道を作ったのは人の方だぞ。エルフは道を作るのに木を切ったりはしないし舗装もしない。よく通る道はけもの道みたいになるんだ」

「それだと大量の物を運ぶ時不便じゃないか? 荷車が使えないだろ」

「木と木の間に縄を張り巡らせて籠を運ぶんだ。索道って言うんだったかー?」

「そりゃ凄いな。一度見てみたいもんだ」


 彼女の案内は他の観光客にとってもありがたいらしく、いつの間にか少し距離を置いて聞き耳を立てる者も出始める。ティーナはそんな彼らを鬱陶しがらず、かと言って特段意識もせずに喋り続ける。


「あと、エルフは金属を好まないんだ。金属は森林と相性が良くない。特に朽ちたら森林には害だしなー。建物も武具も木、生き物の骨とか皮、鉱物でどうにかしちゃうんだぞ」

「ん? じゃあティーナが普段使ってる矢の矢じりは何なんだ?」

「うちの矢じりは主に黒曜石だなー。貫通力は術と技でどうにでもなるんだぞ」

「それであの超遠距離の狙撃を可能としてるんだから、凄いな」


 確かにティーナは一切貴金属を身にまとっていない。靴も胸当ても手袋も革製だし、肘当てや膝当ては骨か? しかし人間が作った金属製の道具を平然と使っているあたり、それほど嫌悪感は無いようだ。


 やがて俺達は広場にやってきた。幾つかお食事処や宿、土産屋の建物が並んでいるのと、馬車が整列している光景が珍しい。広場から先は開けておらず、森の中を突っ切る木道を歩くことになるんだとか。


「木道はエルフが人間のために作ったんだ。人間は森の歩き方がなっちゃいないからなー。ま、交流を深めるためにはある程度の妥協はしょうがないよな」

「恩着せがましいと思うのは俺だけか?」

「最初に行くエルフの里はみんな人間に友好的だから安心しろよなー。奥深くなるにつれて排他的になってくから、覚悟を決めておいてくれよ」

「そんな猛烈に行きたくなくなることは言わないでくれ」


 日差しが温かく眩しかったこれまでの道と違い、森林の中の道は木の葉で日光がある程度遮られていた。しかし決して暗くなく、晴れていれば日中歩くのに最適な明るさと言えよう。雨の日とかも今とは別の趣があるかもな。


 大森林って言うぐらいだから所狭しと木が生えてるのかと思ってたんだが、それなりに奥が見えるぐらいには開けている。ティーナによれば大切な森だからと自然に任せっきりにはせず、保護のために間引きなどある程度手入れしているらしい。


「余はエルフの里って見たことないんですよね。木の上に家を立てて住んでるって本当ですか?」

「ああ、本当だぞ。さすがに支柱は立てるけどなー。地表は森に住む生き物の生息域って考えから、エルフは地面に家を建てないんだ。あ、夜間の肉食動物対策って理由もあるんだけどな」

「じゃあ家と家との行き来は橋を渡して?」

「そうだぞ。木の上に村を作るんだ。それをエルフの里って呼んでるんだ」


 ティーナの案内を聞いてると俄然興味が沸いてきた。どんな感じなんだろうかとわくわくしながら歩みを進めていたら、やがて俺達の目には意外な光景が飛び込んできた。他の観光客も驚きをあらわにするぐらいだからよっぽどだろう。


 最初のエルフの里、とされた場所の周りは堀で囲まれていた。かなり幅があって飛び越えるには魔法や術の類に頼るしかないだろう。堀には水が流れていることから、おそらくは川から水を流し込んで作ったのだろう。


 そして、堀の内側には城壁が築かれていた。わりと立派な石造りで、側防塔がやたらと多いのは弓の名手たるエルフが多いためか。至るところに補修の跡が残っているので、長きに渡り活躍したことが伺える。


「これは人間とドワーフの技術を借りて作ったんだったか。大森林の端にある里は魔王軍みたいな外敵を食い止める役目があるからなー」

「跳ね橋もあって明らかに城塞都市って感じだな」

「圧迫感はあるけれど、中は普通にエルフの里だから安心してくれよな」


 俺達は堀を越えた後、門で身分証を提示して最初のエルフの里へと踏み込んだ。中は観光客で賑わっているものの人の町よりは静かで落ち着いていた。ティーナの言った通り木の上には家と通路が作られていて、本当に生活空間は高くにあるんだな。

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