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戦鎚聖騎士、山を超える

 一旦神殿に戻った俺達は一夜を明かし、俺達は麓の町に戻ることにした。生き残った神官達も同行することになったのは、神殿内の備蓄がやられたのが大きい。それに祀る火の精霊が全部邪精霊の餌食になった今、残っていてもあまり意味はあるまい。


 皆が滑り落ちないよう慎重に下山していき、麓の町まで戻れた頃には日が傾きかけていた。生存者が戻ってきたことに町の皆が喜び、そして少なくない犠牲がでてしまったことに悲しんだ。


 俺達はそれぞれ教会と冒険者ギルドへの報告を済ませ、翌日には次の聖地を目指して出発した。特に魔物の襲撃などにもあわずに山道を越えると、見渡す限りの大森林が広がっていた。壮大な光景に思わず圧倒されてしまう。


「一体どれぐらいの規模なんだ……?」

「端から端まで歩いて数十日ぐらいってところかなー」

「それエルフ基準の話だろ。人間が迷い込んだらどれだけかかることやら」

「エルフの案内抜きに達成した人間はいないって認識だぞ」


 山道は大森林の端を貫く林道へとつながっていて、更に進めば人間の住む町があるそうな。エルフと交流する商人、旅人はそこの町を起点にするらしい。エルフの里を観光したいだけなら町に一番近い部族の里を訪れるといいそうだ。


 俺達の目指す聖地は大森林の奥深くに位置している。それはかつての魔王軍がそこまで攻め込んだ何よりの証であり、エルフにとっては大森林を死守した誇りであり、侵食を許した屈辱の歴史でもある。


「で、ここからどうやって聖地に行くんだ? 一旦町に寄るか?」

「そうですね。ここから直接向かってもいいのですが、表玄関から整備された道を進みましょう」

「ま、聖女一行がこそこそ勝手口から入るのも格好悪いしな」

「そうそう、胸張って堂々とお邪魔すればいいんですよ!」


 そんなわけで日が暮れ始めた頃に人の町に到着。さすがに大森林に一番近い町だけあって行き交う人類のうちエルフが占める比率が格段に高い。交易、出稼ぎ、親睦、様々な理由で人の町に足を運んでいるようだ。


 ミカエラと俺は教会に足を運んでこの地に来訪したことを報告、ティーナもまたこの町の冒険者ギルドに顔を出してエルフの森に入ることを告げた。イレーネは町を探索、独特の雰囲気を満喫したそうな。


「聖女様! ようこそこの町へいらっしゃいました! これもまた神のお導きか!」


 で、教会でミカエラを出迎えた神父は両手を上げて歓迎の意を示してきた。

 神父に従う修道士や修道女も救い主が来たとばかりに顔を輝かせてくる。

 何だか嫌な予感がしてきたなオイ。


「その歓迎は山の向こうの町でも受けましたけれど、何かあったんですか?」

「あぁ、向こうでは精霊が邪精霊めの手に落ちているそうですな。報告は受けています。この地まで魔の手は伸びてはおりませんが……エルフ達は森の奥が騒がしくなってきたと言うのです」

「森の奥……確かエルフは森の奥の方が大切なんでしたっけ」

「はい。この町に近いすぐ横の里は例外にしろ、奥に行けば行くほど自然が豊かになり精霊が好みます。エルフもまた位の高い者は森の奥に住む傾向がありますな」


 そんな森の奥がざわめいている。森の気配を見定めているのか、文字通りの意味で風の噂を感じ取っているのか。とにかく人間には知覚出来ないエルフならではの感覚で様子がおかしいと判断しているのだそうだ。


 大体の場合エルフの直感は当たる。森林火災、暴風雨、魔物の大量発生など、森の悲鳴の後には何かしらの災害級の異変が発生してきた。今回は邪精霊の一件もあり、魔王軍が密かに森を侵食しているのでは、とも危惧されている。


「聖女様が聖地巡礼の旅をなさっているのはお聞きしています。ですので、どうか大森林の異変を調査していただきたいのです」

「分かりました、と言いたいですが、さすがに広すぎますって。ここと聖地を結ぶ道中で何かがあれば対応しますけれど、道をそれてまで綿密に取り組むつもりはないです。それこそ大森林はエルフの庭、彼らに任せておけばいいんじゃないですか?」

「仰るとおりなのですが、エルフ達はどうも誇り高い気質もあってこちらに情報を下げてきませんので、気付いた頃にはもはや取り返しのつかない惨事に見舞われることも考えられます」

「あー成程。分かりました。じゃあ分かる範囲で調べてみますね」

「おおっ! 感謝いたします! 聖女様に神のご加護があらんことを!」


 と、いった具合でまたしても異変に巻き込まれることが決定した。何も起きないわけがないよなぁ。先の苦労を想像するだけで気が滅入ってくるが、ミカエラが「頑張りましょうね!」と意気込むのを見てこっちもやる気を奮い立たせた。

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