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戦鎚聖騎士、焦熱魔王を騙し通す

 熱い。呼吸をする度に肺が焼けそうだ。

 それでも気を失わないように呼吸を整え、身体に活力を取り戻し、前を見据える。

 戦いはまだ終わっちゃいない。


「大丈夫ですかニッコロさん!?」

「……おう、何とかな」


 心配する声をあげてきたミカエラに向けて手を振ってやった。

 ミカエラったらまだ帰還魔法を発動出来ないか……あれ?

 もしかしてアイツ――。


 火炎が止んだ向こうではイレーネが魔王剣を振り切っていた。ティーナは咄嗟に弓の弦を巧みに使って逸らしたものの、流石に鋭利な刃で傷ついたのか、弦が弾き切れてしまった。体勢が崩れて無防備になったティーナに容赦なく聖王剣が振り下ろされ――、


「かあっ!」

「!?」


 意外。ティーナの反撃は口から放たれた火球だった。


 いや、確かに魔法を手から出す必要は無い。卓越した魔法使いなら足裏や肘からだって放てるけれどさぁ。目、口、触覚から魔法を放つのはもう人類の在り方からかけ離れてるんだよなぁ。見た目が魔物や悪魔っぽいし。


 それでもイレーネの渾身の一撃を止められる程ではなく、爆発で吹っ飛んだのはティーナの方だった。しかしイレーネと間合いを離すことには成功しているので、おそらく始めからこうなると見越してたんだろう。


 仕切り直し。ティーナとイレーネが対峙する。イレーネが飛び込めばすぐさまティーナに斬り伏せられる距離で、イレーネが圧倒的優位に立っている。それが分かっているのか、ティーナの顔は若干引きつっていた。


「弦を張り直す時間を与えるつもりはない。ティーナの負けだ」

「ああっ、くそっ。インファーナルフレイムまで対処されるなんて凄いなー」

「白金級冒険者をこんなところで死なせたくはない。引き下がってほしい」

「それは騎士道精神ってやつかー? あいにく、ウチはそんな高潔じゃない!」


 ティーナが溜めの動作に入った。今度は弓矢を媒体とせず、純粋な火炎魔法を発動させるつもりか。させじとイレーネは大地を蹴り、敵へと肉薄、己の得物を幾重にも振り切り、ティーナをばらばらに引き裂く――。


「なっ……!?」


 驚愕の声を上げたのは俺か、イレーネか。

 どちらにせよ、イレーネの攻撃で決着とはならなかった。


 なんと、斬られた筈のティーナの身体は断面が炎と化したのだ。炎は直後にティーナを大きく包みこむように広がって激しく渦巻き、収まった頃にはティーナは何事もなかったようにその場に立っているではないか。


 イレーネの技で五体満足に済むはずがない。ティーナが肉片と化しかけたのは間違いなく、ティーナの傷口が炎になったと思ったら全身が燃え上がって、炎の中から彼女は無事生還してのけた。その様子はまるである伝説の存在を思い浮かばせた。


 不死鳥フェニックス。

 まさか、ティーナが自分にかけてたのはフェニックスの不死性を再現した火属性究極の魔法である……、


「復活魔法リヴァイヴ!?」

「ご明察! だけどもう遅いぞ!」


 しかしリヴァイヴは一度発動すれば効果が切れる。こんな戦闘中に片手間でかけ治せる程の集中力はもうあるまい。だからあと一撃でもティーナに食らわせれば俺達の勝ちなんだが、それを当の本人が許さない。


 ティーナが作り出したのは矢だった。弓は無いのに弓につがえて引き絞るように矢が作り出されている。そしてその矢はもはや炎どころではなく、真夏の太陽のように熱く眩く光り輝いていた。


 狙いは俺、ではなく後ろのミカエラや汚泥共。

 あくまでもティーナにとっての敵は邪精霊達なのか。


「シューティング・メガフレアぁっ!」


 全てを焼き尽くす一撃が放たれた。

 それは瞬く間に俺へと迫り、俺は成すすべもなく回避するしかなかった。


 俺の目の前を光が走っていった。

 光は流星のようにミカエラの方へと向かっていく。

 ティーナ渾身の一撃はミカエラの額めがけて飛んでいき……、


 そのままミカエラの頭部をすり抜けていった。


 矢はそのまま汚泥の沼の対岸にあった森林に着弾、大地を全て焼き払うのではと錯覚するほどの大規模な爆発と燃焼を巻き起こし、地獄へと変えていった。森林に住む生きとし生けるものはその業火で燃やし尽くされるだろう。


「どう、して……!?」


 仕留められずに呆然とするティーナ。イレーネが首筋に剣を当てても全く反応を示さない。このまま眺めてるのも一興なんだが、さすがに正気を取り戻して次の手を打たれても困るので、俺が先に踏み込んでやろう。


「いやー、引っかかってくれて助かったわー」

「っ! ウチの矢は確実にミカエラの脳天に命中したはずだぞ! ミカエラを起点に湖の汚泥を全部焼き払う筈だったのに……!」

「そうだな。ティーナはミカエラを狙ってたよな。俺がずっと後ろで守ってた聖女をさ。そういう立ち回りをしてたもんな」

「だったら……いや、まさか……!」


 ティーナははっと気付いて、次には悔しそうに歯噛みする。

 けれど今更気づいたってもう襲い。


 そう、聖騎士の俺が聖女のミカエラを守護し続ける、って先入観を利用させてもらったんだ。


 俺がティーナの狙撃を妨害し続ける間にミカエラはこっそりと移動、元の位置に幻影の魔法で自分を模した囮を作り出す。あとはミカエラ自身は隠蔽の魔法で隠れとけば、疑似餌にまんまと食いつく間抜けが釣れたわけだ。


 阿吽の呼吸、とか遠い東の国では言うんだったっけか。とにかく、ミカエラがティーナを騙そうとしてたのは分かったから俺は回避行動を取ったんであって、でなければ自分の全てをかけてでも食い止めてたぞ。


「タウンポータル!」


 そして、決着を知らせるミカエラの帰還魔法が発動された。

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