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戦鎚聖騎士、獲物を横取りされる

 それにしても、教国連合内にも魔王ゆかりの聖地は幾つもある。ミカエラが目的地にしてる四箇所以外にも魔王が討伐された地は少なからずある。中には少し寄り道すれば行けるような場所もあった。


「なあミカエラ。何で行こうとしてる聖地はこの四箇所なんだ?」


 俺は出発頃にミカエラが赤丸を書き込んだ地図を荷物から引っ張り出した。で、隣でおやつをもぐもぐしてたミカエラへと差し出す。ミカエラは片手でおやつを持ちながらもう一方の手で地図を受け取る。


「そうですね。打ち明けますと、記録が怪しいからです」

「記録が怪しい……? つまり、歴史上の出来事として俺達が教わってる伝承が間違ってるかもしれない、って言いたいのか?」

「現にイレーネについても教会の嘘八百だったじゃないですか」

「ぐうの音も出ねえ事実を突きつけてきたな」


 ミカエラは片手で器用に地図を畳んで荷物にしまい直した。彼女はこぼれたおやつのカスを手で払い、手についたのは舐め落として、濡れた指を袖で拭おうとするんじゃない! ちょっと油断するとすぐこれだ。ほれ、手拭き。


「真実を暴いてどうするんだ?」

「別に。余の知識欲が疼くだけなので、社会を混乱させたり古の魔王をどうこうするつもりはこれっぽっちもありません」

「本当かよ……またイレーネの時みたいになるのはごめんだぞ」

「ニッコロさんは心配性ですねー。実は魔王はまだ生きてましたー、なんてことがそう何度もあるわけないじゃないですか」


 おい馬鹿止めろ。はるか東方には言霊って概念があってだな。言葉にしてしまうと力を持って事象に影響を及ぼす、的な考えだったか。特にミカエラみたいな存在がぽろっと喋ったら最後、本当にそれが真実として表沙汰になってしまうかも……。


「二人共、お喋りはここまでなようだよ」


 本気で悩む瀬戸際まで来た辺りでイレーネの指摘に我に返った。


 イレーネは僅かに顔を上げて空を見つめていたので俺もそちらを向いた。すると雲が漂う青空の中、何やら飛翔体がこちらへと向かっているのが分かった。最初は唯の鳥かと思ったが、それにしては図体が大きい。おそらくは魔物だろう。


「アレは……ヘルコンドルですかね?」

「少し向こうに森があるから、狩りに出かけた野生の個体かな?」

「どうやら余達を獲物だと定めて襲ってきそうですね」

「この距離だと斬撃を飛ばしてもかわされちゃうなぁ。もうちょっと近寄らせよう」


 高速で飛翔する魔物は人間には対処しにくい。地上だと左右と前後さえ気を配ってたまに上方向に注意すればいいだけだけど、空中だと常に上下を考えないといけないからな。魔法でも飛び道具でも回避されやすいのだ。


 なので一般的に連中の討伐方法は、ある程度近寄らせてから攻撃に転じるか、奴らが逃げられないぐらいの広範囲に渡る大規模魔法をぶっ放すか、だ。無論、魔法使いのいない俺達のパーティーは自ずと前者を選択する。


 さあ来い、と待ち構える俺達。地上を這う獲物に狙いを定めて狩りの準備に入る魔物共。それぞれが攻撃の機を窺い……均衡を崩したのはそのどちらでもなかった。


 どこからともなく飛んできた矢がヘルコンドルの頭に突き刺さる。

 あっけなく命を落とした個体はそのまま吸い込まれるように大地へと墜落する。


 甲高い鳴き声を発して最大限の警戒を顕にする魔鳥共だったが、飛び交う奴らに容赦なく矢が襲いかかった。そのどれもが見事なまでにヘルコンドル共と一発で仕留めていくではないか。


「凄い……当たって当然みたいな……」

「一体どこから射てるんだ……?」


 周囲を見渡し、最後の一羽を仕留める矢がかろうじて視界に映る遠くの森から放たれたことが分かった。目測でしかないが、明らかに当てられるような距離じゃない。もしかして魔法か何かで当たるよう補助していたか?


「いえ、その兆候は見られませんでした……。アレは完全に射手の技量です」


 さすがのとんでもなさにはミカエラも戦慄しているようだった。


 イレーネは警戒心をあらわにしつつ馬を駆ってヘルコンドルが落下した地点まで向かう。俺達も馬車を一旦置き去りにして馬だけを走らせて後を追った。


 イレーネが見下ろす絶命したヘルコンドルは見事なまでに頭部を射抜かれていた。突き刺さった矢を観察したものの、特に魔術的な要素も見られず、何の変哲もない代物だった。ミカエラが驚いたように本当にただの技術によるものだとしたら、とんでもない化け物……もとい、達人だな。


「どうする? 射手を見つけるべきかな?」

「いや、このまま待とう。冒険者だったら討伐達成の証拠確保のためにこっちに向かってくるはずだ」


 魔物の死体は仕留めた者のもの。これはもはや一般常識だ。横取りしようものなら泥棒として扱われ、冒険者ギルドから討伐指令が出る場合すらある。放置された死骸だろうとよほどの事情が無ければ捨て置くのが普通なのだ。


 思い思いの感想を述べて暇を潰すこと少しの間、やがて森の方角から人影が見えてきた。金の長い髪を揺らして駆けつける美女。高身長かつ恰幅が良く、腿や腕の太さや胸当てをしていても隠しきれない豊満な胸部もさることながら、広葉を思わせる耳が特徴的で目に入った。


「やーやーやー、驚かせちゃったかな? 悪いね!」


 それでありながら美女と美少女の中間とも言える幼さが残った若々しい顔つきはとても不均衡だと思った。


 エルフの射手。俺達の前に現れた彼女は正にソレだった。

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