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聖女魔王、戦鎚聖騎士を魔王城へ招待する

「ニッコロさん、今日時間はありますか?」

「ん。まあ、一応は」


 いよいよ聖地を明日出発することになった。


 大教会は何とかミカエラに留まってもらおうと説得を続けてきたが、聖地巡礼の旅を続けるのだと伝えて尽く断った。更にはイレーネも同行すると表明したことで大教会どころか聖地全体が阿鼻叫喚。今はようやく落ち着いてきてるが、明日出発する際はどんな騒動が起こることやら。


 俺は聖女達の事情なんて知ったこっちゃないので、粛々と旅支度を進めた。次の聖地にはどう行くか、途中どの町に泊まってどこで野宿するか、移動手段は、荷物はどこまで揃えるか、などやることは腐るほどある。


 それでも時間は捻出出来なくもない。俺はにこやかに語りかけてきたミカエラの誘いを受けることにした。買い出しか一日で出来る奉仕活動か知らんが、とにかくミカエラに付き合ってやろう。


「じゃあ今からいいですか?」

「随分と急だな。別にいいけれど、どこに行きたいんだ?」

「魔王城です」

「……はい?」


 自分の耳を疑って思わず聞き返す。

 しかし、彼女が次に発した力ある言葉が決して聞き間違いではないことを示した。


「タウンポータル」


 突如自分の足元に開いた闇の穴に真っ逆さまに落ちていく。闇に沈む、という表現は間違ってるな。こりゃあいきなり床が無くなって落下する、が正しい。そして底なしの闇へと落ち続ける、なんてことはなく、わりとすぐに底が見えた。


「い、てぇぇ……!」


 かろうじて上手く着地できた。体感的には二階から一階に飛び降りた感じか。でも人は膝ぐらいの高さしかない段差でもわりとあっさり死ねるから、とっさに上手く着地出来た自分を褒めたいぐらいだ。


 周囲を伺うと、そこは先程まで自分がいた大教会の一室ではなかった。直方体ではなく円柱の形をした広い空間、天井と床には巨大な魔法陣が描かれ、今もなお淡く輝いている。壁にはずらりと松明が炎を灯していて、窓がないのに明るかった。


 帰還魔法タウンポータル。瞬間移動を可能にする魔法はテレポーテーションやエリアワープなど色々とあるが、このタウンポータルは自分が帰還地に設定した場所にしか移動出来ない。だから主な用途は冒険や旅の中断、帰省、そして緊急脱出か。


 そして、昨日この魔法でラミアのフィアンマを帰還させたことからも、ミカエラのは帰還先に聖都を設定していない。彼女は何か目的があって聖女になっただけであって、本来の帰る場所はこちらなのだろう。


「ここが魔王城……」

「ようこそ魔王城へ、ニッコロさん。余は我が騎士を歓迎しますよ」


 俺はミカエラに手を引かれて転移の間とやらから出る。どうもここは本来魔王軍が遠征に行った際に大規模な部隊が帰還するための場所らしい。なので自由に使えるのはミカエラを初めとしてごく限られた一部なんだとか。


 俺を案内するミカエラは先程と同じく祭服を身にまとった聖女姿のままだ。それでよく魔王の本拠地である魔王城を徘徊出来るなぁ、とか馬鹿な考えが浮かんだが、そう言えばそもそもミカエラが魔王だったっけか。


「あのさ、ミカエラ。人間の俺がうろちょろして問題無いのか?」

「余の側にいれば全く問題ありません!」

「いや、でもさ。正統派とか言ったっけ。魔王軍をまとめきれてないんだろ?」

「余が魔王になってからだいぶ掃討したんですけれどね。ま、さすがに余がいるのに馬鹿な真似はしてきませんって」


 視界に入らないだけでこの空間全体から漂う空気、ここは明らかに俺がいていい場所じゃない。おそらく魔王城にいる魔物は全て強大な力を持つ個体ばかり。俺では成すすべなく無駄に命を落とすだけだろう。


 内心でビビりまくりながらもミカエラの後に従う俺だったが、前方からやってくる存在が二人いた。一体は恐怖に飲まれそうなぐらい圧倒的な威圧感を漂わせる巨大な邪竜、もう一体は水銀のような銀色に輝く液体金属のように見えるこれまた巨大なスライムだった。


 邪竜とスライムはミカエラの方へと向かっていき、ミカエラもまた歩行速度を変えない。こうなりゃ度胸だけだと虚勢を張ってミカエラに従った俺。双方の距離が近づいていき……先に動きに変化を見せたのは相手側だった。


 邪竜は胴体部の顔と腕部の双頭をそれぞれ床に伏せた。そして胴体部から映える人間ほどの大きさをした蝿の擬人化といった感じの上半身は、まるで女性が生贄に捧げられて邪竜と一体化させられたような印象を覚えた。


 スライムは少し平たい団子のような形をした身体を蠢かせ、先の方にやはり人間の大きさをした女性の人型を形作った。形だけで銀色のままだし身体の細部までは再現していない。意思疎通のための手段、あるいは疑似餌、という単語が思い浮かぶ。


 蝿女とスライム女は、それぞれミカエラに恭しく頭を垂れた。


「お帰りなさいませ、魔王様」

「ご命令通り人払いは済ませていますー」


 二人が示したのは臣下の敬服だった。

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