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勇者魔王、妖魔相手に手加減する

「僕に用事があったんでしょう? さあ、かかってきなよ」

「ぐっ! 人間ごときが舐めるなぁ!」


 残っていたヴェロニカの部下らしいラミア二体がいっせいにイレーネへと突撃していった。口が大きく裂け、目の瞳孔が蛇と同じく細くなり、人とは似て非なるまさに魔物と呼ぶに相応しい変貌ぶりだった。


 そんな圧倒的暴力を前にイレーネは、まるで木の枝を振るうかのように軽々と両手剣の魔王剣と聖王剣を振るった。イレーネ本人も敵の懐へ飛び込んでの反撃、あまりにも早い動作だったためラミアは全く反応できず、胴体を両断された。


 あっという間に敵を始末したイレーネは、しかし表情が浮かなかった。


「……大人気なかったなぁ。止めておこう」


 イレーネはせっかく格好良く決めたにもかかわらず、聖王剣と魔王剣を共に納刀した。代わりに抜いたのは脇に差していた小剣。光を飲み込むような闇の塊だった魔王剣と違って、漆黒の刀身はまるで黒水晶のように輝いて見えた。


 脇差しとも言う小剣は間合いが短いからあくまで補助的な武器。イレーネほどの達人なら魔王剣一本で事足りただろうし、本来不要な筈だ。にもかかわらずそれに持ち替える意味があるとするなら……、


「君達まとめてこれ一本で十分かな」

「「「ほざけぇえっっ!!」」」


 完全に侮っている。魔王軍の精鋭達を。


 頭にきたハーピィやスピンクス共がイレーネに飛びかかるが、今度は振り下ろしてきた腕を断ち切り、脚を切り落とし、身体を引き裂く。振り下ろされた脚の肉を削ぎ、胴の心臓付近に一突き入れ、首を掻き切る。翼を広げて上空へと逃れようとした妖魔に向けて小剣を投擲、額を貫通した。


「ぜ、全滅……。あんな一瞬で……」

「んー、質が落ちたかなぁ。僕が知る妖魔達はもうちょっと強かったような……」


 愕然とするヴェロニカに対してイレーネはつまらなそうにぼやくのみ。そりゃあ傍から見たら死闘ではなく一方的な蹂躙……いや、もはや害獣駆除程度を済ましているようにしか見えなかった。それだけ戦いこそ生きる意味だと豪語するイレーネを満たすものではなかったのだろう。


「おいミカエラ。イレーネにああ言われてるぞ」

「そりゃあヴェロニカの部隊だけで戦えばそう言われても仕方がないですね。妖魔はサキュバスやヴァンパイアを初めとして多くの種族がいます。各々の特徴を活かし、徒党を組んで歯車ががっちり噛み合った戦いをしてこそ、妖魔軍は本領を発揮するんですから」

「つまり、本来ならあそこにグリセルダ達の援護が入ると」

「だからヴェロニカ達には従ってほしかったんですよねー。残念ですよ」


 もはや正統派を名乗る造反組で残るのはヴェロニカとその腹心らしきラミアが一体だけ。ヴェロニカの実力の程がさっきのミカエラの説明通りなら、もう勝負は付いたと言い切っていいだろう。


 それでもヴェロニカ達は戦意を失っていない。それどころか憎悪すら発しながら、今度はヴェロニカ自らがイレーネへと飛びかかった。六本の曲刀で次々と斬りかかる攻勢にイレーネは小剣一本で凌ぐものの、反撃には転じられないようだった。


「いつまで余裕でいられるかな? かあぁっ!」


 ヴェロニカは更に口から炎を放射する。虚を突く攻撃だったがイレーネはそれも小剣一本で断ち切る。炎を両断するほどの鋭い斬撃っていかに達人でも小剣で出来るものじゃないんだが、それだけ彼女の剣技が研ぎ澄まされているんだろう。


 イレーネは隙をついて刀を持つ手をめがけて小剣を振り下ろすが、ヴェロニカは別の刀でそれを防御。他の刀で反撃するも、イレーネは小剣を持っていない方の手を巧みに使ってそれをいなす。


 そんな一進一退の攻防を繰り広げていたが、先に均衡を崩したのはイレーネの方だった。


「なっ!? 武器破壊!?」


 イレーネの一突きで曲刀の一つが折れる。どうやらイレーネは曲刀の同じ箇所に攻撃を入れていたらしく、ヒビが入ったことに気付かれないまま、とうとう致命的な一打を与えられたようだ。


 六本が五本に減り、五本が四本に減る。段々とヴェロニカは劣勢に追い込まれていった。最初はその巨体を活かしてヴェロニカが前に出る形だったが、次第にイレーネが踏み込む率が多くなる。


「その首、貰った!」

「な、めるなぁぁ!」


 とうとう四本目を折って敵の防御が崩れたことを見計らい、イレーネはヴェロニカの首めがけて小剣で突きを放った。ヴェロニカはとっさに三本の腕でかばう。一本目の腕は断ち切られ、二本目の腕は骨を断たれて皮一枚でぶら下がり、三本目の腕が小剣を受け止めた。


「フィアンマ今だぁぁ!」

「畏まりッ!」


 ヴェロニカが叫ぶ前に最後のラミアは動いていた。フィアンマと呼ばれたラミアはイレーネの背後から飛びかかり、手にした何かをイレーネに乗せた。イレーネが腹を蹴ってどかしてももう遅く、ソレはしっかりとイレーネに被せられていた。

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