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聖女魔王、戦鎚聖騎士を誑かす

 グリセルダから告げられた名前を聞いたミカエラは大して驚く様子を見せず、テーブルの上に並べられた菓子に手を付けた。そして水差しから器に水を移し、一気飲みして、ぷはーとかいった感じに息を吐く。


 ヴェロニカとは、ミカエラの説明によれば妖魔軍でグリセルダの副官を務めるクィーンラミアらしい。半人半蛇の妖魔だったっけか。目の前のグリセルダが妖艶な美女ならヴェロニカは凛々しい美女なんだとか。


「驚かれないのですね」

「え? だってヴェロニカは余が魔王になる前からあの子の崇拝者でしょう。納得しないままなのは全然不思議じゃありませんよ」

「わたくしは魔王となられたミカエラ様に忠誠を誓うよう再三申していましたが、聞き入れてもらえませんでした」

「あー、別に余はヴェロニカに認められようがいまいが構いませんし」


 ミカエラは手をパタパタ振ってその話題を強制終了させる。

 この様子だとミカエラはそこまで魔王軍とやらを締め付けて自分の意のままにしようという気が無いように見受けられるな。そもそも出奔して聖女になってる時点でアレだが。


「リビングアーマーの魔王を復活させようと企んでいたのは分かりましたけれど、つい先日勇者イレーネが蘇りましたよね。この作戦はもう失敗しちゃってますよ」

「いえ。確かに勇者は帰還したようでしたが、魔王の鎧は装備したままでした。なら、少しでも均衡を崩せば今度は鎧の魔王が勇者イレーネを乗っ取って蘇るかもしれません。まだ諦めるには早いかと」

「ソレ、あの勇者イレーネが許してくれますかね? 聖王剣で一刀両断される未来しか思い浮かびませんけれど」

「さあ? 何か策があるので作戦は中止していないようですが」


 グリセルダが聖地にやってきたのはつい数日前で、勇者の帰還で大騒ぎになったせいでヴェロニカ側の動きを掴みきれなかったのだとか。それでもようやくヴェロニカの潜伏先が判明したため、今日にでも動くつもりだったようだ。


 それにしても、グリセルダはちょっと主君に対しての態度とは思えないぐらいミカエラに馴れ馴れしく接してるな。ミカエラもそれを当然のように受け止めてるようだが、彼女達の関係だけが特別なのか、それとも魔王としてのミカエラがそれほど恐れられてないのか。


「ヴェロニカはこのわたくしが責任を持って粛清いたしますので、魔王様はどうぞご安心くださいませ」

「分かりました。頑張ってくださいね」


 グリセルダが恭しく一礼、ミカエラがそれをねぎらう。


 いやいやいや、そもそもイレーネは魔王に乗っ取られて復活したんだが? 正統派とやらが何するのか知らんが、前提から覆ってるのに。しかしミカエラはそれをグリセルダに知らせるつもりが無いようだし、俺も黙っておくか。


 さて、と呟きながらグリセルダは立ち上がった。そして艶かしく俺の方へと歩み寄ってその腕を取ろうとして、ミカエラが間に割り込んで彼女を押しのけた。目を丸くするグリセルダをミカエラがむすっとしながら睨んだ。


「余はグリセルダに頑張ってって言いましたよね。仕事に戻ってくださいよ」

「あらあら。わたくしのお仕事は人間の男に良い気持ちになってもらい、思い通りにさせることもあるのですが。騎士殿は溜まった欲求不満を解消するために来店したのでしょう?」

「い、い、か、ら。さっさと出て行って下さいっ」

「はいはーい。それじゃあ魔王様も騎士殿も、どうぞごゆっくり」


 グリセルダは気品あるお辞儀をして部屋を後にした。豪華な部屋に残されたのは俺とミカエラだけ。ムフフな時間を過ごす空間にミカエラと二人っきり……。俺はどう受け止めれば良いんだ?


「……とりあえず、さすが来賓室だけあって浴室に風呂あるみたいだな。それ入ったら帰るか」

「あれ、男の欲望を満たす為に来たんじゃなかったんですか?」

「ミカエラがあの美女追い出しちまったじゃねえか。今から受付行って女の子呼んでこいってか?」

「要らないでしょう。余がいるんですから」


 そうだな。まだ女の子はミカエラが残ってるもんな。

 だったら問題な……い……? ん? んん~?


「すまん、何て言った?」

「魔王は全ての魔物、闇の住人を従える王者です。魔力と叡智で出来た魔王が布か裸装備のサキュバスに遅れを取るはずがありません!」

「お前は一体何を言っているんだ?」

「さ、余の溢れ出る知性を堪能させてあげましょう!」


 自信満々にとんでもないことを言い放つ目の前の聖女。こんな時でも彼女は元気いっぱいで、明らかにこれから起こることを全く連想させないほど純真だった。

 ドン引きした俺は頭を押さえて天を仰いだ。どうしてこうなった、と。


 ……まあ、悪い気がしない俺も俺なんだがな。

 むしろ俺はそんな汚れ知らずのミカエラを以下自主規制。


 結論から言うと、凄かった。さすが豪語するだけあった。


 ドヤ顔で「満足したでしょう? もっと撫でなさい!」と仰るので、思いっきり撫でてやった。顔をほころばせて喜んでくれたので俺も嬉しかった。

 んで、これから自制が効かなくなりそうだし気を引き締めないと、と思った次第。

 そんな煩悩を戒める俺の頭をミカエラが撫でてきやがった。あと可愛い言うな

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公とヒロインの気安い仲の相棒って関係が良いなぁ 軽口を叩き合いつつお互いに絶対の信頼を寄せていて、ヒロインがやると言った事には主人公は呆れたりしつつも絶対に拒否拒絶しない (今回肉体関…
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