表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/184

戦鎚聖騎士、魔王軍の説明を受ける

 悲報、夜のお店で魔王軍幹部と遭遇する。

 どれもこれも全部ミカエラってやつのせいなんだ。

 俺のわくわくを返してくれー。


「で、その魔王軍幹部とやらがここで何してるんだ?」

「魔王様、お答えしてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。ニッコロさんは口が固いですし、まずい事があっても機転が利きますから、安心してください」

「人類圏侵略のためです」


 クィーンサキュバスと名乗ったグリセルダは悪びれもせずに言い放った。

 あのー、俺は一応聖騎士なんだけど? 魔物の宿敵なんだけど? ミカエラが信用するからってそう簡単に暴露しちゃって良いのか?


「物騒な話だな。夜の店で働くことがどう侵略と結びつくんだ?」

「分かってないですねー。仕方がないですねー。この優しくて賢いミカエラさんがニッコロさんに教えて差し上げましょう!」

「殴るぞぐーで。大体は予測出来るっての」

「じゃあ採点してあげますから答えをどうぞ」


 基本的に魔王軍は暴力による侵略で殺戮と破壊を行い、人々に絶望をもたらした。最終的には勇者や聖女が立ち上がって魔王が討伐されてめでたしめでたし。それが様式美のように繰り返されてきた。


 今回は権力者に取り入る形ではなく各々の都市にサキュバスを派遣し、夜の店で男衆をたらしこむ。いざ全面衝突の戦争になった際に兵士共の体力や士気が萎えていたら、魔王軍に成すすべ無く蹂躙されるのがオチだ。


「グリセルダは人類圏に出店したサキュバスが潜む夜の店を統括してる。これが俺の推理だけど、あってるか?」

「百点満点中八十点ってところですね。男の心を奪うのは確かに主目的ですけど、各国からの情報収集も兼ねてるんですよ」

「……酒と同じで、夜の営みだと男の口が軽くなるからか」

「いやー、この策を考えついた余って天才ですよね! 褒めていいですよ」


 おいおい、ミカエラったら真っ当に魔王やってるじゃんか。

 これまで片鱗も見せてなかったのは一体何だったんだ。

 そこまでミカエラは聖女になって知識欲を満たしたいのか? それとも……。


「ですが、グリセルダとここで会うのは予想外でした。現地視察ですか?」

「それもあるのですが……」


 グリセルダがこちらをちらっと見つめてきた。

 言い淀む様子も色々と唆るので、実に目の毒だ。


「ニッコロさんは我が騎士。打ち明けても問題ありません」

「魔王様がそう仰るのでしたら……」


 グリセルダは一回器の中の水を飲み、静かにこちらを見据える。


「実はこの聖地に叛徒が潜んでいることが分かりまして、その調査のためにわたくしはここに来ました」

「叛徒……ああー、確か正統派を自称してた暇な人達でしたっけ。どうしてここに? 戦略的価値なんて無いですよね」

「何を仰るんですか。いらっしゃるではありませんか。未だに討ち滅ぼされていない古の魔王が」

「ちょっと待ってくれ。情報過多すぎる。もっと詳しく説明してほしい」


 ミカエラ、頼むから「えー面倒くさいー」って顔をしてこっち見つめてこないでもらいたい。これは人間の一般常識に毛が生えた程度しかわからないんだぞ。魔王軍の内情を知ってる前提で話されても困るんだが。


「騎士殿は魔王がどのように誕生するかは知っていますか?」

「魔王になるべく生まれるか、実力でのし上がるか、単に偉いか、だったっけか?」

「魔王様はその魔力と叡智によって魔王となる宿命の者を倒し、今代の魔王となられました。しかし叛徒共は魔王様を新たな魔王と認めず、宿命の者こそが正統な魔王だと主張。正統派を名乗っているのです」

「ほーん。じゃあ今の魔王軍は内部抗争で忙しいわけか」


 そりゃあ人類にとっては好都合だ。争えー争えー。むしろ共倒れしてほしいと願うばかりだね。


 とは言え、楽観視ばかりはしていられない。クィーンサキュバスのグリセルダが目の前にいるように、既に魔王軍の尖兵は人間社会に潜んでいるようだ。魔王軍そのものが襲ってこなくても侵略は始まっている、と警戒すべきだろう。


 で、グリセルダは自称正統派に与する輩を追ってここに来ている。彼女の口ぶりからするに、勇者によって封印されていた魔王が目的か。封印を解けば宿命の者とやらにとってこれ以上無い力になるんじゃないかな。


「この聖地で敗れた魔王はとっくに死んでるでしょう。亡骸をアンデッド化して使役するんですか?」

「いいえ、既に大教会で務める聖職者を何名かわたくし共の虜にしております。そしてとっくに聞き出しています。リビングアーマーの魔王は封印された状態だ、とね」


 夜の店に足を運んだ俺が言うなって話だが、聖職者がサキュバスの誘惑に負けて秘密を洗いざらい喋るとはね。とは言え、ここの大教会が厳格な修道院だったとしても本気出したサキュバスの毒牙から逃れられるとは考えにくいが。


「んー。昔の魔王を蘇らせたとして、正統派の言う事聞いてくれるんですかね?」

「さあ? 愚か者共の考えなどわたくしには想像も出来ませんわ」


 どうやらグリセルダは正統派の動きは掴んでいるものの、じゃあ連中が何をしようと企んでいるのか、は知らないらしい。ただ、軍長の立場は想像するに魔王軍のかなり上。そんな彼女本人が動いたのだから、よほどの大物が関わってるんだろう。


 ま、今となっちゃあイレーネが帰還したんだから、全部パーなんだけどな!

 いやあ、無駄な努力ご苦労さまだな。どんだけの期間と手間を費やして潜入と工作してたのか知らんけど。俺がその立場だったらぱーっと遊んで憂さ晴らしするわ。


「それで、誰がこの聖都に潜んでいるかは調べが付いてるんですか?」

「それが……身内の恥を晒すようで申し訳ございませんが、どうやら妖魔族の者が関わっているようでして」

「じゃあグリセルダは尻拭いに来たってわけですか。それで、首謀者は?」

「ヴェロニカです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ