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戦鎚聖騎士、聖女魔王と共に勇者魔王に立ち向かう

「いや無理だわ。アイツ強すぎ。貰ってる給料じゃあ割に合わないって」

「さすがは剣の腕だけで魔王に上り詰めただけありますね」


 勇者の体を乗っ取った魔王イレーネ。彼女と戦って分かったけれど、俺はどうやら魔王退治をするには力不足らしい。少なくとも単独撃破なんざ夢のまた夢。もっと実戦経験を積んで、十年後にようやく手が届くかってぐらいか?


「やっぱ戦鎚なんか止めて剣にした方がもっと善戦できたんじゃないですか?」

「やなこった。コレ使うの俺のこだわりなの」

「それは『彼』への対抗心からですか? ニッコロさんが『彼』を気にする必要なんて無いのに」

「よせ。俺とアイツを比べるのもおこがましい」


 アイツならきっと筆頭聖女と組めば目の前の魔王と引けを取らない戦いが出来ただろう。しかしこの場にいるのはアイツ等じゃなく俺とミカエラ。なら、俺とこの自称魔王な聖女と一緒になって鎧の魔王に立ち向かう他無い。


「じゃあやっぱ、二人がかりで倒すしかないですね」

「そういうことだな」


 俺とミカエラは横並びでイレーネと相対する。


 イレーネは正眼の構え。先ほどの激しい戦闘が嘘のように、さざ波一つ立っていない海のように静かに、俺達を見据えて離さない。生き物を蝕む瘴気の類、魔法を行使する源となる魔力は一切感じられない。


 それでも押しつぶされそうだ。殺意に、威圧感に、闘志に。

 気を緩ませるものならすぐさま両断してやる。そんな気迫が伝わってくる。

 これが、魔王か。


「せっかく勇者イレーネを乗っ取ったんですから、彼女の技能だって使って良いんですよ。今の貴女にも光の刃とか放てるでしょう?」

「僕は剣士だ。『僕』の肉体を得ようと、その在り方は変わらない」

「こだわりが強いのは分かりました。二対一でも卑怯とは言いませんよね」

「当たり前だ。それもまた勝負ってものでしょう?」


 イレーネはミカエラと会話する間も少しずつ間合いを詰めてくる。俺もまた少しずつ相手へとにじり寄った。


 もし俺が剣を構えていたら互いの切っ先が触れ合うぐらいまで接近し、共に止まった。これ以上はもはや双方の攻撃が届くようになる。その隙を探り合い、そして相手の隙を作る、そんな駆け引きが始まった。


 俺とイレーネが正面で向き合っている間にミカエラはイレーネを中心として円を描くように移動し、俺とは反対側まで進んだ。そんなミカエラをイレーネは目でも追わなかったものの警戒はしているようで、意識が少し向いているようだった。


「おおおっ!」


 気合とともに俺は一歩踏み込んで戦鎚を振り下ろす。正面打ちはさすがにイレーネに簡単に対処され、受け止められた。すかさず前に飛び出た俺の手を切り落とそうと剣を翻して、とっさに真後ろから放たれた攻撃を弾き飛ばす。


 手の平ぐらいの光の刃を放つ奇跡、確かエンジェリックフェザーだったっけか。ミカエラは投げナイフを次々と投げるように光の刃を放つ。その尽くが魔王剣に弾かれて相手までは届かない。


 ミカエラが攻撃している間も俺は戦鎚を振って振って振りまくる。怒涛の攻撃ってやつだ。しかしこれもまたイレーネは弾き、受け止め、剣で絡めてそらし、決して当たりやしない。


 俺達の同時攻撃を受けるイレーネの動きは洗練された剣舞だった。

 動きがとてもしなやかで、しかし力強く、全ての動きが研ぎ澄まされていた。


 見惚れると同時に戦慄する。この状況を作ってなおも勝負が拮抗していることに。


「ぐ……!」

「逃がしませんよ……!」


 イレーネにとってもこの状況は芳しくなかったようだ。飛び退いて一旦仕切り直そうと試みる。挟み撃ちにしてようやく有利に持ち込めてるのに逃がしてたまるか。俺とミカエラは息を合わせて横移動し、再びイレーネを挟み込む。


 そうこうしているに、段々とイレーネの調子が下がってきた。具体的には息があがり始め、汗が浮かび、焦りが見られるようになった。剣閃の鋭さも僅かながら鈍ってきているように感じる。


「どうして、思うように身体が動かないの……!」

「人には筋力と体力って限界があるんだよ! 魔王に決戦を挑んだ当時ならまだしも、長い間の封印の果てまで保ててると思ってたのか?」

「!?」

「もし次の機会があるんならもっと身体を鍛え直すんだな!」


 リビングアーマーだった元はどうだったか知らんが、今はイレーネの肉体を乗っ取った状態。激しい戦いで装備者の体力がごりごり減っていることだろう。疲れが出て隙が生じた時が勝負どころだ。


 不利と悟ったイレーネは俺の攻撃を対処した直後、ミカエラに向かって飛びかかった。無防備になった彼女に容赦なく光の刃が突き刺さっていく。さすがの魔王鎧も無傷とはいかずに傷が入ったものの、破壊までには至らない。


「一文字斬り」


 まずは一人、そんなイレーネの発言を聞いた気がした。


 確かに理に適っている。本来は聖騎士が戦って聖女が援護するのが有るべき姿。聖騎士が離れた聖女は無防備になる。厄介な回復や補助要因を先に片付けようとするのは当然だ。俺だってそうする。


 じゃあ何で俺がミカエラから離れたか? ミカエラがそれなりに戦えるから?

 違う。根拠も無くそんな危険にさらすわけがない。

 ミカエラなら相手にぎゃふんと言わせられる。そんな確信があったからだ。

 

 全てを切り裂く魔王必殺の一閃は――。


「シャイニングセイバー!」


 ――ミカエラが杖から発した光の剣に受け止められる。


 もちろんミカエラは剣に関して全くの素人。達人の攻撃を受け止められるわけがない。けれど強固な光の剣は壊されもしない。更にミカエラは光と闇の剣が衝突しても決して踏ん張らず、逆に足や身体から力を抜いた。


 結果、ミカエラの身体は大きく弾き飛ばされた。


 あわや壁に激突してミンチに、ってぐらいの速度だったが、その勢いは急に減衰していき、壁の間際まで来ると彼女の身体はむしろ浮いている程だった。え、と。確か浮遊とか飛翔の奇跡、セラフィックウィングだったか。


 もちろん、ミカエラを斬りそこねて出来た隙を見逃す俺じゃない。


 俺が踏み込んだのはイレーネがミカエラへと飛び込んだとほぼ同時、俺が戦鎚を振りかぶったのとイレーネが剣を一閃させたのがほぼ同時、そしてミカエラが弾き飛ばされたのと俺が戦鎚を振り下ろしたのがほぼ同時だった。


「ヘヴンズストライクッ!」


 無防備になったイレーネの頭部に戦鎚が直撃。

 当たり一面に血と肉と骨の華を咲かせたのだった。

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