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戦鎚聖騎士、本気出す

 俺は呼吸を整え、己の身体に流れる生命力を活性化させる。あえて例えるなら、自分の身体の隅々まで行き渡る血液の流れを早くする、かな。そのうえで沸騰させる。すると感覚が研ぎ澄まされていき、筋肉や神経の一つ一つが元気付く……いや、俺って比喩あまり上手くないな。


 とにかく、俺は生命力を練って、練って、練りまくって、一気に爆発させた。


「ウィンドアーマー!」


 これこそ凶悪で強力な魔物に対抗するために長年人々に培われた技術。自分の命そのものを武器にし、魔法や奇跡と似た現象を起こす人類の英知の結晶。


 人は呼ぶ。それを闘気術と。


「バトルマイトぉ!」


 一回目が風の鎧を纏う防御の闘気術で、二回目が身体強化の闘気術。これで自分より遥かに大きい魔物にも押し負けない強靭な身体能力を得ることが出来る。

 何より、より聖女を守れる盾になれるのだ。


「闘気術……!? 僕の時代にはそんなものは無かった……!」

「じゃあじっくりと味わわせてやるよ。その後の人類の歴史ってやつの重みをよ!」


 俺は背負っていた盾を装備。盾を前に出して相手へと突進した。当然イレーネも魔王剣を振りかぶり、俺を盾ごと両断しようと渾身の一撃を放つ。


 剣と盾がぶつかり合い、互いの勢いが止まった。無事防御できて安心する俺と、受け止められて驚愕するイレーネ。その隙を逃すまいと俺は戦鎚を相手の腹めがけて横薙ぎする――!


「おおおっ!」


 咆哮を上げたのはイレーネ。すると彼女は引きも防御もせず、そのまま俺へと突撃したじゃないか。押し切られて詰め寄られたせいで間合いがつまりすぎ、威力のこもった槌の部分じゃなく柄で相手を打ち付けてしまう。


 剣に力を込めてそのまま押し切ろうとするイレーネ。それを何とか押し返そうとする俺、の構図を狙ってるんだろうけど、付き合ってられるか。


 俺は脱力しつつ後方に仰向けになる形に転がった。受け止めた側を失ったイレーネはそのままつられて前方に突っ込み気味になる。そんな彼女の股ぐらに足を入れ、足と盾で相手の体を後ろへと投げてやった。


「今の騎士は投げ技だって教わるんだぜ。覚えときな……!」


 剣であり鎧であり兜であるリビングアーマーだったイレーネが徒手空拳の戦い方なんで知る由もないだろ。それに聖女出身の勇者がこんな泥臭い戦いをしてたとも思えないしな。


 イレーネは背中を打ち付けたとは言え、そこまでこたえてはいないようだ。すぐさま起き上がって構え直す。どうやらイレーネの本気度を高める結果に終わったようで、更に闘志を湧かせていた。


「嬉しいね! いっぱい学べる、僕はまだまだ強くなれる……!」


 歓喜で目をギラつかせたイレーネはすぐさま飛び込んできて、剣を振るう、振るう、振るう! 俺は盾で何とかいなし、そらし、どうしようもなければ受け止める。あまりに速くて中々反撃の隙を掴めない……!


 なら、今度はコレでどうだ!


「シールドバッシュ!」

「……!」


 闘気と共に盾を突き出し、近接の相手を吹っ飛ばす闘気術。盾を武器に使うので結構不意打ち気味に決まることが多いのだが……イレーネにも綺麗に決まってくれたようで、大きく間合いが離れた。


 そして俺は戦鎚を横薙ぎした。今度は闘気を思いっきり込めたセイントスマッシュという闘気術。直撃すれば大型の魔物も一撃で粉砕出来るぐらいの威力を誇る。いかに頑丈な鎧だからってへしゃげたりはするだろう。


 そんな俺は気付くのが遅かった。

 体勢を崩してからの追撃だったから絶対にこれで勝負が決まるかと思ってた。

 けれど、攻撃の際に盾をずらして相手を確認すると、なんと既に立ち直っていて、しかも剣を脇に構えている……!


「十文字斬り」


 一閃。それもとてつもなく速い。目で追うのがやっとなぐらいな。


 まず水平方向の一撃が俺が勢いを乗せた戦鎚をそらす。戦鎚を刃で正面から叩たんじゃなく、腹の部分で巧みに受け流して。


 大きくぐらついた俺の身体に、今度は垂直方向に剣が振り下ろされた。

 無防備になった俺の身体は肩から大きく引き裂かれ――。


「なっ……!」


 驚いたのはイレーネだったか俺だったか。

 いや、多分どっちもだろう。

 だって、決闘に夢中で頭の中から抜け落ちていた。


「よそ見は禁物ですよ」


 そう、俺にはミカエラがいるのだから。


 イレーネの剣は受け止められていた。俺の後ろにいたミカエラが放った巨大な矢じりの形をした光の刃によって。俺の肩から指何本分かの距離でイレーネの攻撃は防がれたわけだ。


 イレーネは大きく後退しつつ剣を振って光の刃を砕き、俺から間合いを離す。俺は再び構えを取り、その横にミカエラが駆け寄る。今度はいかにも観衆ですみたいな無防備なものではなく、重心を少し下げて権杖を持つ、戦う者の姿勢だった。


「闇を切り裂く光の刃、セイクリッドエッジか!」

「ご明察。勇者イレーネの得意技でしたっけね」

「一対一の決闘に横槍入れるなんて、今の聖女は礼儀がなっちゃいないね」

「何を言ってるんですか。決闘だってのは貴女とニッコロさんの認識でしょう」


 それでもミカエラは堂々と、そして絶対の自信を込めた笑みで、こう言い放った。


「聖女が聖騎士と共に魔王に立ち向かうのはもはや常識です!」


 魔王だと自称したお前が言うな、と言うのは野暮だろう。

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