聖女魔王、戦鎚聖騎士達と新たな旅に出る(終)
ラファエラとヴィットーリオは二人での活動を再会することに決めた。
死したまま聖女と聖騎士として、勇者が割り込む前の状態に戻ったのだ。
これは聖女聖痕と勇者紋章に振り回された罰でもある、と二人は語った。
「わたし達はやり直すつもり。やるべきことをやりながらね」
「俺達はグローリア達を犠牲にしたんだ。グローリア達の分までやってやるさ」
「結局わたしは聖女なのよ。聖痕なんて関係無く聖女にしかなれない。こうなったのは聖女としての在り方が間違えた自業自得なの」
「俺も抗わずに受け入れるだけだった。もっとラファエラ達の苦しみ、叫びに気づくべきだったんだ。過ちは繰り返さないよ」
こうして二人は再び救済の旅に出た。今度こそ道を間違えないでほしいものだ。
そして……ルシエラ。
魔王城にある薔薇の庭園にて俺とミカエラは彼女の前にいる。
ルシエラの近くには教会から奪還した彼女の遺体もある。
「それでルシエラ。生き返ってくれますよね?」
「魔王刻印から解放される手段を見つけてくれたんでしょう? いいよ」
「元凶だった熾天魔王アズラーイーラを倒してもやっぱり解除されませんね」
「こんなものは初代魔王の妄執よ。迷惑でしかないわ。早く取っちゃって」
ミカエラは静かにルシエラの遺体に手を触れ、精神を集中させる。
「コンバージングウィッシュ!」
ミカエラの力ある言葉と共にルシエラの遺体に刻まれていた魔王刻印が輝きを失っていく。ラファエラゾンビは勇者紋章に施して吸収してたけれどミカエラは魔王刻印を受け入れない。行き場を失って霧散するばかりだ。
「リザレクション!」
そして、ミカエラはルシエラに死者蘇生を施した。
するとルシエラから霊体が抜け出て元の身体に収まっていった。死霊として活動してたルシエラだった抜け殻はただの骸骨へと様変わりし、音を立てて崩れる。そして骨の山は灰となって消えていった。
ルシエラが身体を起こし、目を擦って伸びをする。そしてミカエラの方へと振り向くと、彼女へと飛び込んだ。ミカエラはルシエラを抱きとめ、二人して抱擁を交わした。魔王刻印に振り回された姉妹がようやく解放されたのだ。
「ただいま、お姉ちゃん」
「おかえりなさい、ルシエラ」
その後、ルシエラはミカエラに代わって魔王代理を務めた。ルシエラが魔王の間は決して人類圏へ攻め込むことなく、双方は一世紀に渡って平和な時代が続くことになる。そしてルシエラ統治下で様々な分野が発展、花開いたのだった。
さらにその後? 俺が知るか。
□□□
「いやぁ、暑いですね!」
「これが砂漠? 私達のところと全然違うじゃないの」
「照りつける太陽。見渡す限りの黄金の砂。凄い景色だね」
「いーやーだー。土の精霊の力が強すぎて気持ち悪いぞー」
さて、今俺達は砂漠のど真ん中にいる。
砂漠と言ってもドヴェルグ首長国連邦の渓谷付近のような荒野とは全然違う。気温は高すぎるんだがと湿気のないからっとした暑さだ。少し遠くにピラミッドなる巨大建造物が幾つかと大河が見える以外は黄金色が大地を支配している。
聖都での決戦を終えて落ち着いたあと、俺達は旅に出た。それも人類圏でも魔王軍勢力圏でもない遥か遠くに。船で結構な日数かけて着いた先は獣人という全く異なる種族が住む地域だ。
「このピラミッドってお墓なのか祭壇なのか、建造目的が判明してないそうですよ」
「地球外知的生命体の船の発着所だ、とかトンチキ抜かす学者もいたなぁ。何言ってんのかさっぱり分からなかったぞ」
「空に輝く星のどこかからか長い旅の末にはるばるこっちまで来るなんて浪漫があって素敵じゃないですか!」
「単に権力者の権威の象徴としてとりあえずデカくしとけの精神じゃないかぁ?」
ミカエラはピラミッドを初めとした獣人社会という未知との遭遇に目を輝かせて新たな情報の収集に夢中だ。言語の壁はミカエラの叡智が難なく突破した。というか聖女には意思疎通の奇跡があるからな。ダーリアも幻獣魔王だった頃にここに来たことがあるらしく、再習得を簡単に済ませてた。俺とティーナは身振り手振りする日々だから羨ましい限りだ。
イレーネもティーナもダーリアも宣言した通り俺達に付いてきた。ただし帰りたい時に帰る。これが鉄則だ。三人とも……いや、俺もミカエラも含めて五人とも帰るべき場所があるからな。
「でも確かに興味深いよなー。これだけ乾燥してると死者を土葬しても腐らずに乾いて大地に帰る。だから死は不浄じゃない。うちらエルフからは考えられないぞ」
「太陽が沈んだら世界は終焉を迎えて太陽が昇ったらまた世界が創造される、か。興味深い考え方だわ」
「生活に密接に関わる人の手が及ばない偉大なる力を神と定義する。多神教は実際広まってる地域に来ると一理あって納得しちゃうなぁ」
三人とも思い思いに新たな土地を楽しんでいる。
俺も日常から離れた体験って好きな方だから内心でテンション上がってるぞ。
俺達はきっとこれからもミカエラの知的欲求を満たす旅を続けるだろう。
どんな出会いが待ち受け、どんな体験をするかはもはや俺の想像を超えている。
それでもミカエラと一緒ならきっと楽しい限りだろう。
「ほらニッコロさん、あっちにあるのは何でしょうね! 行ってみましょう!」
「分かったから手を引っ張るなって! 時間はあるし逃げないだろ!」
ただ一つ言えるのは、俺はこれからもミカエラと共にある。
くどいようだが聖女だろうが魔王だろうが関係ない。
俺はもうとっくにミカエラにやられちまってるからな。
「ニッコロさん」
「ん? 何だ?」
「これからもよろしくお願いしますね!」
「何だよ唐突に……」
ミカエラは満面の笑みを浮かべてこちらを見つめてきた。くそ、不意打ち過ぎる。顔のニヤケを誤魔化したくて手で口元を覆う。こらそこの三人娘、にやにやしてくるんじゃない。ミカエラも俺を急かすなって。
「当たり前だろ。こっちこそよろしくな」
「はい!」
さあ、俺達の旅はこれからだ。
これにて完結となります。
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