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聖女魔王、戦鎚聖騎士を蘇らせる

 アズラーイーラに後光が差し込んだと思ったら視界が急に動き出した。いや、俺がそう認識していただけで実際には俺の方が動いていた。


(い、一体何が……!?)


 一瞬にして俺は祈りの間に浮かんでいた。見下ろせばミカエラ、アズラーイーラ、そして俺自身がいるではないか。下の俺はミカエラを庇うべく彼女の前に立ち、盾をかざしたまま動かない。


 そんな俺の身体は膝をつき、その場に倒れ伏した。

 それで何が起こったか何となく分かった。

 俺の意識……いや、魂が身体から抜け出てしまったのだ。


(はぁ!? 魂を分離する攻撃なんて聞いてない……いや、今はそれより早く肉体に戻らない、と……!?)


 慌てて降りようとするも自由が効かない。それどころか天から淡く光が降り注いだかと思ったら上へと引っ張られるじゃないか。どんなに慌てふためいても暴れても天へと昇っていくばかり。


(ま、まさかこれって強制的に昇天させられてるのか!?)


 そんなの反則だろ、と非難したところでもはや手遅れ。

 俺はされるがままに天へと召されるしかない。

 何も成さぬままミカエラを置いてこの世から消え去ろうとしていた。


「リザレクション!」


 そんなミカエラの声が俺に届かなければ、きっとそうなってたに違いない。


 彼女の声に導かれるように俺の魂は下へと引っ張られていく。そして横たわってミカエラに抱きかかえられた自分の身体へと収まった。あるべき場所に、しかし大いなる力に抗いながら。


 ひどい目眩と眠気に襲われながら俺は目を開く。視界いっぱいにミカエラの顔が映った。悲しみに満ちてもいないし喜びにも溢れていない。いつもどおり自信たっぷりな笑みとともに褒めるよう促す眼差しをする俺の聖女だった。


「おはようございますニッコロさん。いい夢は見れましたか?」

「ああ……おはよう。夢よりはミカエラを見ていたいな」

「膝枕でもしてあげた方が良かったですか? でもアレ思ったほどでもないですよ」

「イラネ。ミカエラの温かみを感じられる今の方がずっといい」


 気だるさが残るものの何とか立ち上がり、再び戦鎚と盾を構える。ミカエラも立ち上がって祭服に付いた汚れをはたき落としてから権杖を構えた。対するアズラーイーラはとどめを刺す絶好の機会だった筈だが先ほどから位置を変えていない。


 まるで我が子の成長を実感する慈愛あふれる母親のようだったアズラーイーラは笑みを消し、真剣な面持ちでこちらを見据えてくる。あれだ、大人に成長した子を一人の大人として本気で相手する、みたいに例えればいいだろうか。


「復活の奇跡……まさか聖女ミカエラが成し遂げるなんてね。しかも転生の理法すら覆してのけるとは」

「ふふん、もっと称賛しなさい! ですがこれで即死攻撃はもう効かないと分かったでしょう」

「ええ。認めましょう。このまま泥臭い死闘を演じてもいいのですが、そんなのはパトラとだけでお腹いっぱいですね。一気に勝負を決めさせてもらいますか」

「極光の理法はさっき凌ぎましたけれど、まだ何か……」


 アズラーイーラは深く腰を落として槍を構える。ただ一つ、これまでと決定的に異なる点があった。彼女は神槍に力を込めて全神経を集中させているようなのだ。俺達がどんな攻め手を仕掛けても対処出来るような余力を残さないでいる。


 それは突然だった。神槍に乾いた音を立ててヒビが入りだしたのだ。ヒビの内側からは光が溢れ出して亀裂の入りを促進させる。やがて神槍はバラバラに砕かれ、アズラーイーラの手には槍の形をした眩く輝く光の塊だけが残った。


 アズラーイーラを覆っていた鎧も光の粒子となって光の槍に集まっていく。

 これまで膨大な力が収束すると発生する大地や空気の震えが一切無い。それはまるで嵐の前の静けさのようで逆に不気味でたまらない。


「ミカエラ。アレは防ぐぞ」

「冗談でしょう? あんなの余にはどうしようもありませんよ?」

「無理も無茶して二人がかりで押し通すんだよ。でなきゃ降参するか?」

「……。全くもう、ニッコロさんはしょうがないですねえ! 余がいなきゃ何も出来ないんですから!」


 ミカエラはこちらへと駆け寄ると懐に飛び込んでくる。そして俺に身体を密着させた状態でアズラーイーラの方へ向き直った。二人羽織、という単語が頭に浮かんだ。ミカエラは更に盾を自分の前で構えるよう俺に要求してくる。


「さあどっからでもかかってきなさい! 余とニッコロさんが完全粉砕してあげましょう!」

「アッパレです。その心意気に免じて余も全力で向かいましょう」


 アズラーイーラが振りかぶり、光の槍を投げつける。

 俺とミカエラは共に盾を持って備えた。


「スパイラルスターブレーザー!」

「「合体奥義、ホーリーインヴィンシブル!」」


 アズラーイーラの投擲はさながら流星。盾に衝突した瞬間に辺り一帯は光に包まれて何も見えなくなった。


 不思議なことに衝撃は全く無かった。なのに身体から闘気、体力、精神力……というか生命力そのものが急激な勢いで消耗していくのを実感する。ミカエラも同じで彼女にしては珍しく歯を食いしばって懸命に盾を支え続ける。


 意識を奪われそうになる。歯を食いしばって耐えた。力が抜けて崩れ落ちそうになる。活を入れて踏ん張った。ミカエラもまた白目をむいて倒れそうになったのを俺が抱きかかえる。最後の方はミカエラは俺の腕に片腕を巻き付けて身体を支えていた。


 光が収まってくる。視界が開けるとアズラーイーラがこちらを静かに見つめているのが見えた。周囲の状況に変化は見られない。本当に物理現象を一切起こさなかったのか……。説明されても俺には到底理解出来ない高度な攻撃だったのかな。


 だが、耐えた。アズラーイーラ渾身の一撃を防いでも俺達は無事だ。

 今はその事実があれば充分だ!


「アズラーイーラ! 覚悟!」

「ほう、臆することなく向かってきますか。その勇敢さ良し。しかし……」

「っ!?」

「今度ばかりは浅はかだと言わざるを得ないですね」


 俺は戦鎚を手にアズラーイーラ向けて全力疾走した。みるみるうちに彼女との間合いが縮まってく。アズラーイーラは光と闇の剣や光の槍を出す素振りはない。それどころか脱力したまま顔や胴をかばおうとすらしない。


「消え去りなさい、熾天の力の前にね!」


 一足一刀の間まで距離を詰めて相手はようやく動き出した。両方の手を軽く握って呑気なほどゆっくりとした動作で自分の胸元まで持って行く。

 ええい、何を企んでるのか構うもんか。ここまで来たら戦鎚を振り下ろすだけよ。


「ヘヴンズフィストぉ!」

「ディヴァイン……インパクト!」


 戦鎚が届く間際、アズラーイーラの全身から膨大な量の光が放たれた。続いて襲いかかってきたのは凄まじいまでの衝撃波だった。


 腰に力を入れて脚を踏ん張ってもその場に留まるのが精一杯。力を込めても戦鎚は敵に届かない。今にも戦鎚が手から投げ出されそうだ。全身が粉々に消し飛んでしまいそうで懸命に闘気を全身から放出させ続ける。


 ただ、俺を迎え撃つ切り札にしては威力がそれほどじゃないな。彼女の弁が正しいなら瞬時にこの身は消滅しててもいいんだが。どうやらアズラーイーラにとってもこの状況は不本意なようで、その表情は苦悶に満ちている。


「出力が足りない……! 光をブレーザーに使いすぎましたか!」

「こ、のおおお! だったらこのまま押し切ってやる!」

「チョコザイな! それはこちらの台詞です!」


 アズラーイーラから発せられる光の衝撃波が強くなる。いよいよ跳ね飛ばされかける苦境に陥る俺の手……いや、戦鎚にミカエラが手を添えた。

 俺は思わずミカエラの方を見つめた。ミカエラは俺にはにかんできた。


「さあ、これでおしまいです。思いっきりやっちゃいましょう!」

「ああ、もちろんだ!」


 俺とミカエラは二人して戦鎚を押し込んでいく。徐々に戦鎚がアズラーイーラへと近づいていく。それでもアズラーイーラにもはや成すすべはない。攻撃を中断すればすぐさま脳みそはぶちまけられるだろう。かと言って光の衝撃波に今以上に力を込めてきても俺達は絶対退かないぞ。


 俺とミカエラ。二人きりでの共同作業。

 まるでどこぞの地域で披露宴にするとかいうケーキ入刀みたいだな、とふと思う。

 けれどあえてこう名付けようじゃないか。


 なぜなら、ミカエラと俺は聖女と聖騎士だからな。


「「ブレイブハンマーぁぁっ!」」


 俺達の戦鎚がアズラーイーラの脳天に直撃した。

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