聖女魔王、熾天魔王と属性攻撃を撃ち合う
「スプレンディッドウォール!」
すると光の大波が俺達に襲いかかってくる。意味分からない表現だがそう説明するしかない。光の強弱が激しく入り乱れているからただ膨大な量の光を波のようにぶつけるんじゃなくて床から吹き上がる光の衝撃波が迫ってくるのだとは察した。
防御……いや、フォースシールドで凌ごうにも闘気を練る時間が無い。ならミカエラの奇跡を頼りに……聖女を守るべき聖騎士がそんな初めから聖女の奇跡をあてにしてどうするんだ。回避……広範囲すぎて左右に飛び退くのは無理。
「だったらこうするしかないよなぁ!」
「きゃ……!?」
俺はミカエラの腕を取って引っ借り、抱きかかえた。所謂お姫様抱っこだ、と気づいたのは後からミカエラに指摘された時なのはご愛嬌だ。ちなみに頬を紅く染めながら驚き慌てるミカエラが可愛らしくてたまらないと思ったのは内緒だ。
「セイリングジャンプ!」
床を思いっきり蹴って高く跳躍。俺達はアズラーイーラの大技の上を飛び越えて難を逃れた。天井まで届いてなくて助かった。光の大波が通り過ぎた先は床も支柱も壁も何もかも削り取られているからな。
しかし、そんな曲芸まがいで何とか難を逃れた俺達を見つめるアズラーイーラは満面の笑みを湛えながらこちらの方へ光と闇の剣を縦に振るった。
アレはマズい。実にマズい。そう直感した今日の俺は実に冴えていると自画自賛したい。咄嗟に回避行動を取れたのも称賛に値する。
「エグゾーダススプリット」
「ダブルジャンプ!」
闘気の塊を足の裏すぐ下に硬め、それを足場にもう一回空中で跳躍した。イレーネが風の邪精霊を相手に使ってた奇跡らしき戦法を闘気術で再現させてもらった。おかげで放物線を描くだけだった俺達の落下の軌道は上書きされた。
直後、ほんの少し前まで俺達のいた位置に光が走った。
アズラーイーラが発した光の斬撃は教会の教本にも記されている大海を割った神の奇跡の再現だった。全ての遮蔽物もろとも対象を両断する必殺の一撃はまともに食らってたら今頃俺は左半身と右半身で分かれてただろう。
「空中での方向転換をそのような形で実現させるとは考えましたね」
「お褒めに預かり恐悦至極、とでも言っとくぞ」
床に着地した俺は抱えていたミカエラを下ろす。
おい、首に回したその腕を離せ。
アズラーイーラの賛辞に皮肉を返しつつ再び相まみえる。しかし当のアズラーイーラは顕現させていた光と闇の剣を消し、今度は光と闇という相反する要素が同居する権杖を形作った。
「二人がかりとはいえ接近戦では不利ですね。お次は遠距離戦を楽しみますか」
「ニッコロさん、余の後ろに!」
「オーレオラ・アトモスストライク」
「ガスティウィンドキャノン!」
俺の前に躍り出たミカエラとアズラーイーラが暴風の塊を放ったのはほぼ同時だった。衝突した中間位置を中心に大嵐の真っ只中にいるんじゃないかと思うぐらいの烈風がこちらにも襲いかかった。
「オーレオラ・パーゲイションフレイム」
「クリムゾンプロミネンス!」
続けざまにミカエラもアズラーイーラも一切の溜め動作無しに大技をぶっ放し合った。ミカエラから閃光と熱波が、アズラーイーラが地獄の窯を開いたような火炎を発し、再び中間位置で激突する。
「オーレオラ・メイルシュトローム」
「タイダルウェーブ!」
今度は二人が瞬く間に描いた大規模な魔法陣から水が大量に湧き出し、互いに崩壊しかけの天井まで届く波となって進んでいく。そして中間位置でぶつかり……合わない!? なんかどっちの波も素通りして向かってくるじゃねえか!
なお、後でミカエラが「ニッコロさんは実に馬鹿ですねえしょうがないですねえ。この余がじっくり教えてあげましょう!」とムカつくぐらいのドヤ顔しつつ前置きで解説してくれたが、波は波で打ち消せないんだと。波には逆位相の波を加えるか遮蔽物を並べるのが効果的なんだとよ。
「オーレオラ・アースブレイク」
「グラビトンウェーブ!」
なのでアズラーイーラは目の前の床を破壊して荒れ狂う水を逃がし、ミカエラは重力波で強引に水を押し潰す。僅かながら届いた膝の下ぐらいの小波も勢いが無く、何とか踏ん張って足を取られずに済んだ。
地水火風の四属性攻撃の応酬。俺だけだったら耐属性の闘気術を使い分けて何とかくぐり抜けて一発戦鎚をお見舞いするぐらいしか突破口が無いな。歴代の勇者はきっと聖女だけじゃなく三聖がいたからこそこんな桁違いの相手にも勝てたんだろう。
とか何とか考えてたら、アズラーイーラ背後の光の翼が展開され輝き出した。それを見たミカエラ、魔王形態が背負っていた漆黒の六枚の翼を魔法陣を展開する。
これまで予備動作無しでの攻防だったのに溜めが入るってことは……とんでもないことになること必至だわ。
「エタニティサンシャイン!」
「ダークネス・エターナル!」
この瞬間、世界は光と闇に支配された。