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【閑話】死霊聖騎士、天啓聖者を両断する

 ■(第三者視点)■


(なるほどね。魔王刻印だけじゃあ自律行動はしない。勇者と聖女と三聖が一つになって初めて活発化するってわけね)


 目を凝らして勝手に動く己の身体を観察すること数回、ようやくほんの僅かながら大聖堂内に伸びる繋がりを感知した。方向からしてヴィットーリオ達に対処を任せたラファエラゾンビがいる位置だろうと推察する。


 ルシエラゾンビが独りでに動くのは聖者として覚醒しつつあるラファエラゾンビの存在に影響されていると判断。初代聖女を求める魔王刻印が活性化して肉体を操作しているのだ。


(じゃあやっぱりこの状態であたしが肉体に戻ったら自我を失いかねないわ。魔王刻印をはぎ取れれば停止するんでしょうけれど、あたしには無理ね。じゃあやっぱり消し炭にするしかないんだけれど、それだとお姉ちゃんを悲しませちゃうし……)


 もどかしさに苛立ってきたその時だった。大聖堂から膨大な光が発せられて中庭の一角を突き抜けていく。直後にラファエラゾンビが大聖堂から投げ出されて抉られた地面に落下、勢いそのままに転げ回った。


 起き上がるラファエラゾンビめがけて大聖堂から飛び出したヴィットーリオが剣を振り下ろす。ラファエラゾンビはかろうじて剣を振り上げて受け流そうとするも力で押し切られ、大きく飛び退く他無かった。


 そんな後退した先に大聖堂内部から放たれた光の刃が襲いかかる。ラファエラゾンビは身体をそらしてかろうじて回避するも、無茶な体勢にならざるをえなかったために立っていられず、地面に手をついた。


(光の束はラファエラが放ったグランドクロスかしらね。それともヴィットーリオとの合体技? あと追撃はシャイニングアローレイ辺りか。どっちも的確に敵を捉えているじゃないの)


 ラファエラゾンビとヴィットーリオの戦いは完全に形勢逆転していた。ヴィットーリオの不利、危機をラファエラが完全に埋めるようになり、ラファエラの援護を最大限に生かしてヴィットーリオが追撃するようになった。


 言葉どころか視線を交わす必要もない。ヴィットーリオとラファエラの立ち回りはもはや二人で一人と見間違うばかりに同調していた。それこそ勇者・聖女・三聖という五人分の能力を持つラファエラゾンビを追い詰めるほどに。


「がああっ!」

「グラビトンウェーブ!」


 聖者の危機に魔王が助太刀しようとするもその隙を見逃さないルシエラではなかった。超重力魔法を一点に集中させてルシエラゾンビを抑え込む。圧死しても構わないほどに魔力を込めた一撃にルシエラゾンビがうめき声をあげ、今度はラファエラゾンビがそれに反応してしまう。


「ライトニングフューリー!」


 すかさずラファエラが天雷の奇跡を発動。直積を受けたラファエラゾンビが怯む。到来した絶好の機会を受けてヴィットーリオは剣を掲げた。それが何なのかを教えて貰う必要はラファエラには無かった。


「ラファエラ。いいかな?」

「ええ。遠慮しないでやっちゃって」

「なら、俺に力を貸してくれ!」

「勿論よ! 存分に使って、やっつけちゃいなさい!」


 ラファエラの、そしてルシエラの力、想いがヴィットーリオの剣に集結していく。それを抑え込まれたルシエラゾンビはただ見つめるしかない。天雷の負傷を回復の傷で癒やすのが精一杯のラファエラゾンビもまた阻めない。


 それは決して一人きりの聖者には出来ない、絆の力による希望の光だ。


「ブレイブブレードぉっ!」


 ヴィットーリオの放つ極光の斬撃はラファエラゾンビを抜け、その身体を勇者紋章、聖女聖痕、三聖認証もろとも真っ二つにした。勇者紋章と聖女聖痕は輝きを失い、活動を停止した躯がその場に倒れ伏す。


 それを受けてもがいていたルシエラゾンビは涙をこぼし、糸が切れた人形のように力が抜けた。ルシエラは重力場を解除して近づき、指で頬をつついてもうんともすんとも言わないことを確認する。


「聖者が動かなくなれば魔王も存在しなくなる、か。どんな意図で刻印や聖痕といった仕組みを作ったのかしらね」


 ルシエラの身体の魔王刻印も機能を停止している。ルシエラはすかさず己の遺体に再封印を施した。透明な棺に覆われた自分自身を見つめ、いつか愛する姉が宿命から救ってくれる未来を想像し、自然と笑みをこぼす。


 一方のラファエラの身体は両断されて見るも無惨な有様だった。ラファエラは外套を脱いで遺体をくるみ、神に祈りを捧げる。聖者再誕の贄となった勇者、三聖だったかつての仲間に安らかな眠りを与え給え、と。


「蘇生は無理だよな」

「ここまで遺体が損傷してたら無理ね。もう私は生き返れない」

「おそろいだな、俺達は」

「……! ええ、そうね」


 風が吹き、ラファエラの頬を撫でる。

 それは与えられた宿命からの解放を祝福してるかのように優しかった。

 自分には勿体ないなぁ、とラファエラは正直に思った。

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