【閑話】死霊聖騎士、死霊聖女と肩を並べる
■(第三者視点)■
ルシエラゾンビと交戦を開始したルシエラ。自我もないのでそれほどの相手ではないと想定していたが、魔王刻印に誘導されているのか、的確にルシエラとしての技能を行使してくる。
「インファーナルフレイム」
「コキュートスブリザード!」
ルシエラゾンビが放った灼熱の炎とルシエラが放った極寒の吹雪が衝突する。
ルシエラほどの術者にもなれば魔法の発動に詠唱等の溜め動作はほぼ要らない。走ったり跳んだりするのと同じ感覚で魔法の行使が可能。いつもなら状況に合わせて強弱や規模の違う魔法を使い分けるのだが……、
(やりにくい……。お姉ちゃんと戦ってた方が楽しかったなぁ)
魔王継承戦でミカエラと全力で戦った際はそういったあらゆる魔法を駆使する知恵と知恵のぶつかり合いになった。しかしルシエラゾンビは遠慮なく極大魔法を行使するものだから自然と極大魔法で迎え撃つしかなく、派手な魔法の応酬になっていた。
当然戦いの場となった大聖堂内はたちまちに破壊されていく。建物の崩壊に巻き込まれてはたまらないとルシエラは一旦外に出ることにし、ルシエラを欲するルシエラゾンビもまた彼女を追う。
「ダークネス・ブレイズ・キャノン」
「ダークネス・ライトニングフォース!」
今度もまた暗黒の火炎と暗黒の雷撃が衝突。どちらとも押しきれずに魔法を中断、再びファイヤーボルトやフリーズブリッド等で弾幕の応酬をしながら立ち回る。開けた空間だった憩いの場であった中庭の石像や庭園は無惨な姿と化していった。
(そもそもあたしの身体、どうやって動いてるんだろ?)
戦いながらも独りでに動く自分の身体の状況を良く観察する。どうやら他の魂が入っているわけでも操り手がいるわけでもない。あくまでも魔王刻印が空になった器を動かしているのだと推察。しかし魔王刻印が単独行動しただなんて聞いたこともないし、これまでの解析結果からもそんな機能が無いことは判明済みだ。
(多分あたしが自分の身体に戻れば済む話なんだけれど、あたしがあたしのままでいられるかは分かったもんじゃないのよね。魔王刻印に引っ張られて傀儡になるなんて洒落にもならないし)
どんな原理で動いているか見破れたなら解除し、無理なら力付くで無力化する。戦いの方針はそう決めていたが、ルシエラは可能な限り前者で決着を付けたかった。なぜなら仕掛けてきたのはイブリースだ。
(アイツから挑まれた謎解き勝負は絶対に放り捨てないんだから!)
故にルシエラは適当にルシエラゾンビに付き合いながら原理の解明に取り組んだ。
一方、ラファエラゾンビと戦うヴィットーリオとラファエラの二人組だが、かつて聖女と聖騎士、それ以前の候補者同士、更にはもっと昔の幼馴染だった頃の阿吽の呼吸は見る影もなかった。
剣聖と勇者の能力を得たラファエラゾンビの剣の腕前はヴィットーリオと互角。技量自体はラファエラゾンビが上回っていたが、ヴィットーリオはデスナイトとしての身体能力で補う。そしてラファエラゾンビの剣は経験値の無さから剣聖と勇者の能力頼りにならざるを得ず、それもまたヴィットーリオと拮抗する原因となっていた。
問題なのは賢聖や聖女としての能力。剣と魔法、剣と奇跡を同時に行使されるとヴィットーリオにも対処しきれなかった。その援護にラファエラが回らなければならなかったが、一度引き千切られた絆がそう簡単に再び結ばれるわけがなかった。
(悔しい! 昔はあんなにもヴィットーリオのことが分かったのに……!)
なのでヴィットーリオは自分一人で戦っているつもりで立ち回り、ラファエラは手探りで援護する有様。そんなチグハグな状況で複数の選ばれし者の能力を得たラファエラゾンビに敵うはずがなかった。
「ヘヴンズフィスト」
「きゃあぁっ!」
「ライトニンフフューリー」
「が、あっ……!」
剣聖の技を聖女の奇跡をそれぞれ受けてラファエラは壁に叩きつけられ、ヴィットーリオは床に膝を付いた。一時的に無力になった騎士を一瞥し、ラファエラゾンビは自らの魂めがけて突撃し、その首を掴んで身体を持ち上げた。
亡霊と化したラファエラに呼吸は必要無いが、首を絞めあげられれば魂が損傷するし、生前の名残から精神的な負担がかかる。結果、苦しみ悶えながらうめき声を上げてしまう。何とか霊体化して脱出を試みるが……、
「今こそ一つに……!」
「ああぁあっ!」
浄化の奇跡ターンアンデッドをかけられてラファエラは絶叫を上げた。首を掴んでくる手を振りほどこうと暴れるも、ラファエラゾンビはこの時代には現れなかった拳聖としての能力を発揮。腹に拳を突き入れて大人しくさせた。
「ラファエラから離れろ!」
立ち直ったヴィットーリオが剣を一閃。しかしラファエラゾンビもすかさず剣を構え直して迎え撃つ。が、剣が交わった瞬間にラファエラゾンビがその場から飛び退いた。追撃されないようラファエラをヴィットーリオへと投げつけて。
ヴィットーリオが仕掛けたのはブラッディーソードというデスナイトの技。剣が相手に触れた際に体力を奪い取る効果があり、奇跡をラファエラにかけたままでは防ぐのは無理だと悟ったための後退だった。
「大丈夫?」
「え、ええ。何とかね。そっちは? 天雷の奇跡は神罰も同然。無事なはずないでしょう」
「大丈夫。まだ戦える」
「……ねえ、提案なんだけれど」
危機は乗り切ったもののこのままでは勝ち目がない。そう判断したラファエラは覚悟を決め、ヴィットーリオを正面から見据えた。それは彼女が己の聖騎士を切り捨ててから初めてのことだった。
「戦いが終わったら好きにしてくれていい。死ねって言えば死んでもいいわ。けれど今だけは私を気にしてもらえない?」
「それで贖罪になるとでも思ってるのか?」
「思ってない。このままヴィットーリオが負けるなんて嫌なだけよ。だって私には勿体ないぐらい凄い、妹様の騎士なんでしょう?」
「……」
ラファエラゾンビが飛びかかり、ヴィットーリオ達との間合いを詰める。すかさずヴィットーリオとラファエラも身構えた。相手の存在を考えないよう意識から追いやって各々で対処しようとした最初と異なり、ヴィットーリオがラファエラを守るよう前方に出て。
「援護は頼む。倒そう、あの宿命の化け物を」
「ええ、任せて」
かつて聖女と聖騎士だった者達の反撃が始まる。




