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【閑話】魔影聖女、錬金魔王を浄化する

 ■(第三者視点)■


「どこまでゴーレムを大きく出来るかの実験の成果さ。生意気だった邪神共への抑止として作ったんだが、後輩の魔王達は魔王城の上空に隠蔽して新たな魔王城として運用してたんだったっけか」


 フランチェスカ達の認識では新魔王城は移動する空中要塞である。魔王城に迫りくる大軍勢を長射程の主砲デストラクションキャノンで丸ごと壊滅させる、突入を試みる決死隊も副砲イレイザーガンで撃ち落とす難攻不落の城塞だ。いざとなれば聖都近傍に出現させて教会もろとも地図上から消し飛ばすことも可能だ。


「妖魔軍や邪精霊軍といった残存勢力はユニエラ君襲撃の際にあそこに潜んでたんだろ? それを転移魔法デモンズゲートで一気に集結させるなんて、ミカエラ君も大したものだ。ま、エビルマウンテンそのものを召喚した私も人のことはいえないか」


 しかしフランチェスカ達は知らない。新魔王城エビルマウンテンはイブリースが錬金術で作り上げたゴーレムで、変形することで邪神や巨竜とも肉弾戦が出来る巨人形態になることを。そして魔王が代替わりしようとイブリースは制作者特権で起動出来ることを。


「何をしにこちらへ? まさかお茶会の招待ではありませんわよね?」

「まさか。語り合いなら研究報告会や討論会の席に招待してくれ。こっちは今や教会に雇われて研究資金を貰ってる身でね。妨害しに来たに決まってるだろう」

「なるほど。しかし貴女様ほどの方が出しゃばったとて対局は変わりませんわよ」

「いいじゃないか。私も爪痕ぐらい残したくなったのさ」


 イブリースが地面から生やしたのは無数の武具だった。剣、槍、斧、鉤爪、鎌など多種多様にわたる凶器が浮かび上がり、その矛先がフランチェスカ達へと向く。

 イブリースが武具を一斉射出するのとフランチェスカが飛び出すのは同時だった。


「何しろ、今日は記念すべき歴史の転換点だからね」

「小賢しいですわ!」


 ■■■


 アンラとエビルマウンテンの戦いは取っ組み合いになった。それぞれが打撃を繰り出し、隙が生じるとすかさず組んでからの投げ技に入る。見る人が見ればこの戦いは総合格闘技の決闘を見ているようだ、と評価するだろう。


 しかし巨人同士の戦いは周辺に甚大な被害をもたらした。山は砕かれ、大地は裂け、森林はえぐられる。天変地異が起きようとここまでの破壊は発生しなかっただろう、と後に書き記す評論家も現れたほどだった。


 それほどの影響を及ぼすためか、アンラの体力消耗は著しく、早くも活動限界を迎えようとしていた。一方のエビルマウンテンもまた胸部のメータに表示された残存動力が危険値まで下がっている。


 双方一旦距離を置く。

 先に動いたのはアンラの方。彼女は再び上腕部に力を収束させていく。一方のエビルマウンテン、胸部を展開して巨大な砲筒を構築、同じように力を収束させる。


「オーバーフォトン・ストリーム!」

「デストラクションキャノン、発射シマス」


 破壊光線の発射もほぼ同時だった。光の奔流は両者の中間位置で激突した。


 ありったけの力を込めての押し合いは、やがてアンラが最後の一滴まで絞り出すほどに力を費やして強引に押していく。エビルマウンテンも負けじと全出力を破壊光線へと回して踏ん張るものの、光線の衝突位置は徐々に超巨大ゴーレムに接近する。


「たあありゃああっ!」


 アンラが吠え、最後の駄目押しをした。

 押し勝ったアンラの光の奔流がエビルマウンテンに直撃する。激しく損傷した超巨大ゴーレムは機能を停止してその場に倒れ、大爆発を巻き起こした。


「やだもー! なんでこんな強いのよー!」


 限界を迎えたアンラの身体も光の粒子となって消え、中心部には人類と同じ大きさに戻った彼女がその場に倒れ込んだ。もう起き上がるどころか鼻を掻くことも出来ないぐらい疲れ果てた彼女は、そのまま目を瞑った。


 ■■■


「さすがだと言いたかったところですが、貴女様は戦闘能力はそこまで高くないようですわね!」

「私は頭脳労働者なんだよ」


 ガブリエッラの援護もあって数多の武具の雨あられを正面から叩き落とし続けたフランチェスカは徐々にイブリースとの間合いを詰めていった。フランチェスカの波動で弾き飛ばされた数多の武具が家屋に突き刺さり、地面に転がっていく。


「後退してもよろしくてよ。貴女様にとって聖都の庶民などどうなったって構いやしませんでしょうに」

「後でイスラフィーラから大目玉を食らいたくないんでね。そっちこそ家屋を遮蔽物にして撹乱すればいいじゃないか」

「別に聖都を廃墟にしたいわけではありませんわ。それにわたくし、魔王様の意向を汲み取りたいのでね!」

「じゃあ正面からぶつかり合うしかないなぁ」


 一歩、また一歩。フランチェスカはイブリースに接近する。その度にイブリースは後ずさるも、やがて手を伸ばせば避難民にぶつかるほどまで後退していることに気づく。そんな後方に気を取られた相手の隙を見逃すフランチェスカではなかった。


「もらいましたわ!」

「な、めるなぁぁ!」


 フランチェスカが深く腰を落として拳を突き出すのとイブリースが漆黒の盾を作り出したのはほぼ同時。フランチェスカは防御ごと撃ち抜くべく波動を拳に込めて一撃をお見舞いしたのだが、盾は砕けるどころかヒビ一つ入らない。


 攻撃に集中したフランチェスカへと容赦なく武具の弾幕が降り注ぐ。数多の剣や槍などに串刺しにされてもなおフランチェスカの闘志は揺るがない。それにあてられて戦いを避けて研究に明け暮れたイブリースは気圧され、無意識のうちに後ずさった。


「気合だけで常識を打ち破るなんて、つくづく度し難いよ」

「その根性に貴女様は敗れるんですわ!」


 イブリースはフランチェスカに後ろから羽交い締めにされた。力任せに振りほどくにもアークデーモンのフランチェスカには遠く及ばない。魔法なら……いや、発動に意識を割いた途端に首をへし折られてもおかしくない。なら蝙蝠に分裂して退却を……これも見越してか、フランチェスカは魔力を込めて取り押さえているようだ。


「今ですわガブリエッラ!」

「ええ。充分よフランチェスカ」


 その間にガブリエッラが光の柱を伴い、溜め動作に入った。


 焦ったイブリースはどうにか拘束をほどこうとあがいたが無理。次にはフランチェスカを説得しようと「待て、話し合おうじゃないか」とか「欲しいものは何だ? すぐ準備しよう」などと言葉を並べるも、フランチェスカは鼻で笑うばかりだった。


「こんな戦いに意味はない! 私達はルシエラ君達のために時間を潰していれば充分だったじゃないか!」

「いえ。人造聖女や人造勇者の開発者である貴女は危険すぎるでしょう。未来のために消えてもらうわ」

「私ほどの頭脳が早々に退場するなど世界の損失だ! ほら、何ならガブリエッラ君が人としての肉体を取り戻すことだって私なら……!」

「無用よ。世界は貴女がいなくても回り続けるもの」

「やめろおおぉっ!」


 ガブリエッラが力ある言葉とともに放ったシャイニングアローレイによってイブリースの身体は両断し、生命活動しなくなった肉体を灰と化す。そして一陣の風が吹いたことでかつて錬金魔王だった灰は宙を舞い、やがて天に地に散っていった。

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