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【閑話】夢魔女王、人造勇者を堕落させる

 ■(第三者視点)■


 こうして完全に魔王軍優勢な戦局ではあったが、一組の勇者と聖女だけは快進撃を続けていた。言うまでもなく魔王城の攻略も果たしたユニエラとエルネストである。二人に帯同する騎士団や人造聖女、人造勇者達は大軍勢に包囲されてもろともしていない。


「軍長代理。いかがいたしましょう?」

「作戦に変更は無い。連中をグリセルダの方へおびき寄せるよう前方を手薄にしておけ。そして他の者共を奴らに近づけさせるな」

「御意に」

「私は場を離れる。ここは任せる」


 それを受けても超竜軍の動向に変更はない。攻勢を緩めずユニエラ達に続こうとする他の部隊や人造勇者達を阻む。面白くないほどに順調なことにバルトロメアは退屈だとため息を漏らし、翼を広げた。


「ディアマンテ様。ゾーエ達を討ち果たした勇者共が妖魔軍長の元へ」

「げぎゃぎゃ! 飛んで火に入る夏の虫、と魔王様なら仰ってだだろうなぁ!」

「仰るとおりです」

「おではグリセルダと合流ずるぞ。後は適当によろじぐやっでろ」


 邪精霊軍もまたユニエラ達に対処しようとしなかった。そしてバルトロメア同様にディアマンテ個人だけがその場から姿を消した。残された邪精霊達は予め定められた作戦のとおりに動くのみだった。


「グリセルダ様。どうやら勇者共はこちらへと向かってくるようです」

「予定通りね。歓迎の準備は整ったかしら?」

「問題ありません。いつでも迎えられます」

「そう。なら疑われない程度に道を開けてやりなさい。最低限の人数以外はふるい落としちゃってもいいわ」


 妖魔軍は迫りくるユニエラ達を積極的に阻もうとしなかった。代わりに彼女達に従う騎士達が後方からの猛攻を阻むために一人、また一人と脱落していく。ユニエラ達は苦渋の決断で彼らを犠牲にして前進を選んだんだろう、と考えるとグリセルダは愉快でたまらなかった。


 やがて、ユニエラとエルネストがグリセルダの前までやってきた。その頃にはもはや他の者は誰一人としていない。皆勇者と聖女の道を切り開くために妖魔達を押さえ留める役を買って出たからだ。


「貴女がこの魔王軍の総大将?」

「ええ、そうよ。妖魔軍長のグリセルダ。以後お見知りおきを」

「この場で討たせてもらう。覚悟」

「ふっ。今まで通り手っ取り早く大将首を取ろうとしたのでしょうけれど、今回はそれが徒となる!」

 

 エルネストが剣を構えて踏み出そうとした瞬間だった。グリセルダを中心として巨大な魔法陣が地面に構築される。しかしグリセルダ本人がこれほど大規模な魔法を発動した様子もない。すかさず周囲に視線を向けると、一部のヴァンパイアやサキュバスなどが何やら集中しているではないか。


 魔法陣が漆黒に輝き、エルネストとユニエラの動きが止まる。全身が麻痺したかのように指一本動かせず、瞬きすら出来ない。かろうじて呼吸などの生命活動を続けるのが精一杯なほどに彼らは自由を奪われていた。


「これぞ魔王様がわたくし達に下さった必勝策よ。紋章持ち勇者と聖痕持ち聖女をも封じ込める喪失魔法パラダイスロスト。それを数百人規模の術者が合同で所定の位置から発動させたってわけ。この大規模な魔王軍は所詮貴女達を捕らえる目眩しよ」

「誘い出された……!?」


 事前にミカエラはこうグリセルダに語っていた。


「ユニエラ達は喪失魔法パラダイスロストで身動き取れなくしちゃいましょう! グリセルダ一人でやるとすぐバレちゃうので儀式魔法と同じ要領で部下達が少しずつ担当するんです」


 聖女として同僚だった筈の相手にも容赦が無かった。ミカエラにとってユニエラ達はその他大勢の一人に過ぎす、それより自分の想定が上手くいくかの方がよほど重要で興味が向けられていた。


 きっとミカエラがこの成功を目の当たりにしたら大いに喜んだに違いない。そう考えて自然と顔を綻ばせたグリセルダは無力化した勇者達へと悠然と歩み寄っていく。もはや絶望的な状況になってもなおエルネスト達の闘志が揺るがない点も彼女を刺激した。


「後は煮るなり焼くなり好きにしろと仰っていたけれど、どうしようかしらね? 快楽に溺れさせてもいいし、ずっと悪夢に閉じ込めてもいいわね」

「な、めるなぁ!」

「最後の悪あがきも想定内よ」


 エルネストが渾身の力を込めて闘気を解放して大魔法の影響から逃れようとする。が、そんな彼に容赦なく降り注いだのはバルトロメアが上空から吐き出したドラゴンブレスだった。圧倒的な闘気の奔流に飲み込まれ、エルネストは倒れ伏す。


「エルネスト!?」

「げぎゃぎゃ! よぞ見じでる場合がぁ!?」


 ユニエラが何とか解放の奇跡を発動しようとした瞬間、彼女はディアマンテに組み伏せられた。そしてディアマンテに口元を押さえ付けられると、手の平から染み出す汚泥を口の中に流し込まれるではないか。


「んんんっー!?」

「お前も食らっでやるぞ、水の大精霊みだいになぁ!」

「……っ!」


 ユニエラは浄化魔法セイントクレンズを発動し、何とか眼前の邪精霊の退治を試みる。光を受けたディアマンテの身体は汚泥が清められて無色透明な水へと浄化されていく。肩、腕、胸部、顎と段々と顕になるのはディアマンテが飲み込んだ水の大精霊としての身体だった。


 大精霊の意識が蘇ればこの状況を覆せる。そんな僅かな希望に縋ったユニエラだったが……水の大精霊としての顔が土の邪精霊同様に邪悪な笑みで歪んだのを目にし、絶望で愕然とした。


「お前、地方に配属されだごどないだろぉ? もう手遅れなのざ!」


 ディアマンテが言いたかったのは、都会っ子が地方に配属されてその地の住人と交流を深めればいつしかその地の方言に染まって言葉がなまるものだろう、というもの。つまりはディアマンテと同化して久しい水の大精霊を今更解放したところでその思想は完全にディアマンテと混ざりきってしまっていたのだ。


「代わりにお前が土の邪精霊になるんだよぉ!」


 もはや口、鼻、耳、目などの穴という穴から汚泥が注ぎ込まれ、皮膚からも汚泥が浸透していく。ディアマンテが浄化されきった頃にはユニエラの身体は汚泥で埋まりきってしまう。


 やがて、汚泥の頭部に目と口が構成されると、ユニエラ……いや、聖痕持ち人造聖女の成れの果てが動き出す。汚泥人形と化したユニエラはゆっくりとした動作で恭しくディアマンテへと傅いたのだった。


「ユニ、エラ……」

「あらぁ、苦しいのね。悲しいのね。すぐに解放してあげるわ。めくるめく快楽の世界へ招待して、ね」


 倒れ伏したままユニエラの最後を見せつけられたエルネストは涙を流す。そんな彼の元へとグリセルダが近寄り、最初は触れるように、そして次第に貪るように口づけを交わし、最後は吐息を飲み込ませた。


 サキュバスの妖気に蝕まれたエルネストの身体が痙攣し、やがて変化を見せる。性を持たなかった筈の彼の肉体は次第に丸みを帯びていき、出るところが出るようになった。まるで止まっていた性徴を突然迎えたかのように。


「新たなサキュバスを同胞として歓迎しましょう。ようこそ、エルネストちゃん」


 ここに人類の新たな希望だった人造勇者と人造聖女は失われた。

 代わりに夢魔の勇者と汚泥の聖女が誕生した。

 この結果が世界に何をもたらすか。それは魔王たるミカエラの手に委ねられた。

最後まで書ききりました。

以降は毎日投稿となります。

完結は11月21日予定です。

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― 新着の感想 ―
毎日の日課の作品が後2週間ちょっとで完結だと…深い悲しみに包まれた とはいえそれでもこの作品が如何なるエンディングを迎えるか最後まで見届けさせていただきます。 俺が思うにこれもう人類に希望どこ…?
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