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聖女魔王、人造聖女達に包囲される

「遅いよ。大きい方でも出してたの?」

「寄り道してました。待たせましたか?」

「別に。瞑想するなり祈りを捧げるなり、時間の使い方は心得てるから」

「謝りますよ。ティーナとダーリアと合流して早く向かいましょう」


 イレーネは手を組んで祈りを捧げていた。さすが元聖女だけあってとても様になっており、通り過ぎる人々の目をひいていた。中にはイレーネに向けて祈る者までいたぐらいだ。


 近くを散策していたティーナや建造物のスケッチを取っていたダーリアと合流し、俺達は聖者……いや、初代聖女終焉の地へと向かった。


 初代聖女終焉の地は小高い丘の上にあった。死闘の痕跡や処刑の名残は一切無く、ただ草木の生えたのどかな風景が広がる。千年以上もの年月は当時の出来事を風化させるには充分すぎたのだ。


 ただ一つ、ここを聖地と定める石碑のみが立てられていた。信心深い信者達は石碑に、そして初代聖女が命を落としただろう場所に向けて祈る。今なお人々が求めてやまない安寧のために、そして救済のために。


「とうとう来ちゃいましたね」

「ああ。とうとう来ちまったな」

「これで余達の旅は終わりですね」

「そうだな。聖地巡礼の旅はこれで終いだ」


 思い返せばここに来るまでに様々な体験をしたものだ。


 現代の魔王軍や過去の魔王を巡る異変にも巻き込まれたし、勇者一行と戦う破目にもなった。イレーネ、ティーナ、ダーリアとも出会えた。聖都に留まっていたら一生味わえない壮大な旅だったな。


「目的は達成出来そうなのか?」

「何となく掴めてきました。あとは閃くまで研究するだけですよ」

「楽しかったか? 俺は楽しかった。誘ってくれてありがとう」

「どういたしまして! こちらこそ楽しい旅でしたよ、我が騎士」


 とはいえ、旅が終わったからって人生が終了するわけじゃない。俺もミカエラもまだまだ歩み続けていく。そしてミカエラが魔王に戻るなり聖女を続けるなりしたって構わない。俺はミカエラの騎士であり続けるつもりだ。


「聖女だの魔王だの関係無いはるか遠くを旅するつもりですよ」

「はい?」


 そんな俺の考えを見透かしたかのように、ミカエラは唐突に宣言してきた。


「余の知識欲を刺激する未知の光景を見に行くんです。種族も宗教も文化も全然違っているでしょう。想像するだけでどきどきわくわくしますね!」

「……。未だ遭遇してない未知への探求、か。いいなそれ」


 何のしがらみも無く使命だの宿命だのとは一切無縁の世界へと飛び出していく、か。言われてみればミカエラにとってこんな聖女だの魔王だの言ってるこの世界は狭いのかもしれない。外なら彼女があっと驚くような出来事が待ち受けているかもしれないからな。


 ミカエラは不意に俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。そしてこちらに向けてはにかんでくる。それはまるで俺を離すものかとの意思表示であり、同時に俺なら自分に付いてきてくれるとの自信がこもっている。そう思うのは俺のうぬぼれではないと信じたいものだ。


「イレーネ達はどうしますか? たまに帰りたいんでしたら転移魔法使えば一発ですから問題無いですよ」

「誘ってくれるのかー? ならうちは折角だから一緒させてもらうぞ。大陸一つまたいだらまったく別の植物が生えてるらしいし、この目で見てみたい」

「僕も興味あるかな。聖女だの勇者だのは僕も正直疲れてるし、そろそろただの僕に戻りたいからちょうどいい」

「どんなに遠くても飛竜を飛ばせば二日もあれば帰れるし、構わないわよ」


 おおう。まさかの賛同である。三人とも帰る場所があるのに。

 そうか……これで終わりかとも思ってたが、まだ俺達の旅は続いていくんだな。

 しかも今度は聖地巡礼のような目的なんて無い。気のままに足を向けるんだ。


「無論、ニッコロさんは言うまでもないですからね!」

「だな。理解が早くて助かるよ」

「世界の果てって本当にあるんですかね? それとも本当にこの世界は球体で、一周したら戻ってくるんですかね?」

「さあな。実際行って確かめてみるかー」


 とまあ、未来に思いを馳せていたら、にわかに丘の下が騒がしくなってきた。視線を向けると何やら複数名の聖女と、完全武装した聖騎士達がこちらに向かってくるではないか。物騒な雰囲気の向かう矛先は明らかだった。


 一団の先頭はユニエラ先輩とエルネスト先輩。彼らは辺りを窺って俺達の姿を捉えるなりこちらを指差し、物々しい連中を引き連れて丘を登ってくる。他の民衆は慌てて散り散りになり、俺達だけが先輩達に剣を向けられる形となる。


「聖女ミカエラ……いえ、魔王ミカエラ。教会まで連行する。大人しく付いてきて」

「嫌だと言ったら?」

「力付くでも。ミカエラの連れが何者だろうと関係ない戦力は伴ってきた。抵抗しない方が身のため」

「なるほど。いずれも人造聖女と人造勇者ですか。早速の実戦投入とは慌ただしいですねえ」


 俺達も各々武具を手に構えを取る。かつて聖女と魔王が死闘を繰り広げた聖地にて一触即発の空気が漂う中、ミカエラだけが余裕そうにエルネスト先輩を見つめていた。それが気に障ったのか、一部の騎士は明らかに苛立った様子だった。


「ですが、いいんですか? こんなところで油を売っていても」

「何を言っているの? 魔王への対処以上に優先される事項なんて無い」

「それはどうでしょうか? 例えば聖都に危機が訪れるとしたらどうします?」

「それはどういう……」


 エルネスト先輩が疑問を投げかける前にミカエラは遠見の奇跡を発動。彼らに映った映像を見せつける。それはどうやら聖地とは別方向の聖都の郊外に開けた田園風景だった。そこに映る人影は教会総本山でガブリエッラと一緒にいた外套の少女だ。


 少女は徐ろに頭巾を下ろし、その頭部と容姿を顕にする。

 いつぞやに魔王城で出会い、先程も大聖堂で目の当たりにした魔王そのものの。

 そう、ミカエラの妹であり魔王刻印を持つルシエラがそこにいた。


「なんで彼女が……。僕達が遺体を持って帰った筈なのに……」

「もう一度だけ言います。彼女を放っておいていいんですか?」


 ルシエラは辺り一体全てを覆い尽くすほど巨大な魔法陣を構築しだす。漆黒の紋様が黒く輝き、闇から次々と魔物が出現しだした。それも群れなんて数じゃない。これは一国……いや、人類連合軍に匹敵する大軍勢が召喚されたのだ。


 魔王軍襲来。聖都は一転してその脅威に晒されることになった。

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― 新着の感想 ―
ミカエラの連れが何者だろうと関係ない戦力は伴ってきたとはいうが その連れが流石に魔王×3、と言うか魔王×4(+聖騎士)相手では何十何百人集めようが無茶だろう… やろうと思えばティーナ・ダーリア・(トレ…
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