表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/184

【閑話】死霊聖騎士、紋章勇者の首を落とす

 ■(ラファエラ視点)■


「そうか、分かった」

「止めて、お願いだから……恨むなら代わりにわたしを……」


 騎士は剣を脇に構え、横薙ぎに一閃した。

 それはまるで絵画に描かれるような死神が鎌を振るったようだった。


「アズラーイール」


 一切の物理的防御を無視する、魂を狩る必殺の一撃。

 それをまともに受けた三人は……抵抗も出来ずに倒れ伏した。

 確かめるまでもない。彼女たちは事切れていた。

 最後まで植え付けられた使命感に支配されたまま、その使命を果たせず死んだ。


「……は? え?」

「残るはお前だけだぞ。大人しくするなら楽にしてやる」


 一瞬で片付けた三人には目もくれずに騎士はドナテッロに迫る。さっきはグローリアが邪魔したけれど今度は何の妨害も無い。さらにはドナテッロは無手。代わりになる魔王城の剣とやらは彼から結構遠くて手にするのは無理だ。


 万事休す。それが今ドナテッロに置かれた状況だ。


「ふ、ふざけんなよグローリア! さっさと起きてボクを守れよ!」

「無駄だって。今のは即死攻撃だから彼女たちは息絶えてる」

「はあ……!? 何だよそれ!? おいラファエラ! さっさとコイツ等生き返らせろよ! 聖女なら出来るだろ!?」


 窮地に陥ったドナテッロはいきなりわたしに振ってきた。

 騎士以外のこの場にいる全員の視線がわたしに注がれる。

 ひゅ、と息が漏れてから一瞬呼吸を忘れてしまった。


 死者を蘇らせる、多分可能ね。一度もやっていないけれど直感で分かる。おそらく他の有象無象の聖女には出来ない聖痕持ちの特権みたいなもの。逆を言えばそれほど聖痕を授かった意味が重大だという証拠でもある。


 わたしがそれをグローリア達に使う?

 この場で蘇らせてもきっと騎士には勝てないのに? また盾にするつもり?

 ううん。それより彼女たちに勇者にとって都合の良い女のままでいさせるの?


 それでも……騎士がグローリア達を殺したって事実が無くなるなら……。


 わたしは天に召されゆく魂に慈悲を賜るよう神に祈りを捧げ、奇跡を起こす――。


「リザレクショ――」


 ――見せていただきましたよ、この目ではっきりと!


 そんな声が聞こえたわけじゃない。けれど確信出来た。わたしの奇跡の行使をつぶさに観察して己の血肉とした喜びに溢れた空耳は、とても純粋で無邪気で、そしてわたしにとってはこの上なく残酷だった。


 わたしは死者蘇生の奇跡を発動した直後に中断。空気中や大地の水分を集めて遠見の奇跡を代わりに発動する。覗く先はさっきまでわたし達がいて、完膚なきまでにやっつけられた魔王のいる場所――、


「ごきげんよう聖女ラファエラ。さっきぶりですね!」


 映し出された映像から挨拶を返してきたのは他でもない、ミカエラだった。


 愕然とする。

 見られた。死者蘇生の奇跡を。

 あろうことか聖女ごっこをして聖女の奇跡を体現する魔王に。

 至高の浄化の奇跡のように死者蘇生の奇跡すらも彼女に与えてしまった。


 こちらが今遠見で向こうを見るようにミカエラも遠見でこちらをずっと見つめていたんだ。魔王から逃げられたと思っていたのに実際は逃げられていなかった。

 もしかしてわたしは最初から彼女の手の上で踊っていたに過ぎなかった……?


「お、おいラファエラ! 何やってんだよこの愚図! さっさとボクを助けろよ!」

「もういい、黙れよドナテッロ」

「ぎ、あああっ!? ボクの腕が、腕があぁぁ!」


 思惑が破綻したドナテッロは騎士に右腕を切り落とされた。次に左腕。一目散に逃げ出そうとしたので今度は右脚に剣を突き刺す。かばう腕も無いので顔面を地面に打ち付けて、鼻を折ったのか顔面は鼻血まみれになる。そして右足も斬り飛ばされたので、ドナテッロはもう身動き取れなくなった。


「くそ、くそ、くそおっ! どいつもこいつも役立たずばっかじゃんか! ボクの許可なく無駄死にしやがって!」


 否定はしない。わたし達は役立たずだった。

 けれどもう遅い。わたし達は役立たずとして相応しい末路を迎えるだけだ。


 当然アンタもよ、ドナテッロ。

 精神までは勇者になれなかったのが悪いのよ。


「ボクは勇者なんだぞ、こんなところで死んでたまるか!」

「……」

「オイお前、何ならボクを助けろよ! そうしたら次会った時にお前は殺さないでおいてやるからさ! な、な?」

「……ドナテッロ。俺の顔を見忘れたか?」


 おもむろに、騎士は兜を脱ぎ捨てた。


 あらわになった頭部は漂わせる雰囲気のとおりアンデッドのもので、髪も肌も潤いを失くしてボロボロ、肉は削げ落ちて骨が見えてきそう。何より生気を一切感じさせない紫に近い青白さが彼が死者であることを物語っている。


 けれど……ああ、それでも彼の顔をわたしが見間違えるわけがない。

 やっぱり彼はわたしに罪を突きつけるために地獄の底から戻ってきたのだ。

 そして、他ならぬ彼が勇者一行に終止符を打つのよ。


「お、お前は……!」

「恨みはもう無い。けれど勇者であるお前はルシエラの敵だ」


 死霊の騎士デスナイトと化したヴィットーリオがドナテッロの首を撥ねる。

 恐怖に彩られた表情をしたドナテッロの頭部が地面に転がった。


 こうして勇者一行の旅はここであっけなく終わってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ