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【閑話】冥法魔王、天啓聖女に正体を明かす

 ■(ラファエラ視点)■


 謝りたい。地面に額を擦って謝ればいいかな。ううん、そんなんじゃあ全然足りない。命で償ったって足りやしない。今わたしが味わう感情なんてちっとも罰になってない。きっとどんな地獄を見たって意味なんてないわ。


 それに……どうやってヴィットーリオに許しを請えばいいの? 天に旅立った彼に会えるの? こんな罪深いわたしには地獄が相応しい。彼に謝れないこと、それがわたしに課された最大の罰じゃないかしら?


「ガブリエッラ様……わたしはこれからどうすればいいんでしょう……? 主はこんなわたしでもお導きくださるんでしょうか……?」

「ああ、そのことでちょっと話があるの。そろそろ旅の仲間が戻って来るから少し待ってて頂戴」


 旅の仲間……そう言えばガブリエッラ様は聖騎士を帯同させずに冒険者達と組んで旅して回っているんだったっけ。しかも教会に遠慮してるわけじゃなく、ガブリエッラ様は聖騎士を拒絶してる。事情は誰も知らない、だったかしら。


 すると、程なくガブリエッラ様の旅の仲間とやらがそれぞれ帰ってきた。


 貴族令嬢らしき女は薪を、大女は狩ってきた野生動物を、全身鎧の騎士は水の入った桶を、騎士の傍らにいた外套に身を包む少女は木の実とキノコを入れた籠を手にしていた。


「荷物番お疲れ様ー。ちょっとはりきっちゃった」

「ガブリエッラ。その者達はどなたですの?」

「彼女たちは聖女ラファエラと勇者ドナテッロ、そして仲間の三聖達です」

「へえ、面白いことになってるじゃないの。詳しく聞かせて頂戴」


 貴族令嬢はフランチェスカ、大女はアンラ、少女はルシエラというらしい。三人はわたし達の事情に興味津々で、ガブリエッラ様の説明に聞き入った。一方の騎士は黙々と野営準備に従事して一言も口を利かなかった。


 三人の様子が一変したのは、話があのミカエラが自分は魔王だと打ち明けた辺りだった。それまでありふれた旅の一行って感じだったのに、突然空気が張り詰めたのだ。そう、まるで今まで隠していた存在感を露わにしたかのように。


「へえ、明かしたんだ。こいつ等に。自分が魔王だって」

「ミカエラちゃんはもうその段階まで入っていると判断なさっているようです。いかがなさいますか?」

「だったらもう隠す必要なんて無いわ。邪魔者は全部片付けたことだし、あたし達も遊びはここまでにして本格的に動き出しましょう」

「御意に。我らが主様」


 ガブリエッラ様はこともあろうにルシエラに向けて恭しく頭を垂れた。彼女だけじゃない、フランチェスカもアンラもまたルシエラに頭を下げたのだ。それをルシエラはさも当然のように受け止めている。


 心のなかで危機感が警鐘を鳴らす。一刻も早く逃げろ。なりふり構わず、仲間も捨ててでも。けれど絶望の最中にいたわたしの身体は全く言うことを聞かず、湧き上がる恐怖が上乗せされて何も出来ずにいる。


「ん……んぁ……? ここは……?」

「私達、助かったの……?」


 更にまずいことに、ここにきてドナテッロやグローリア達が覚まし始める。目を擦り、体を伸ばし、起き上がる呑気な姿はこの場においては滑稽なぐらいで。それともこれからの悪夢を彼らも味わえとのお導きなのかしら……?


 グローリア達はまず辺りを見渡してミカエラ達がいないことを確認、そしてあの決戦の地にいないことも確かめた。コルネリアは転移魔法が成功していたことにほっと胸を撫で下ろしたけれど、安心するのは早計でしょう。


「で? お前達は誰なんだよ?」

「ちょっとドナテッロ、初対面の人に失礼でしょう」


 ドナテッロが見知らぬ相手のガブリエッラ様に無礼な発言をするのをグローリアが咎めた。それでも彼のふてぶてしい態度は変わらないし、「しょうがないわね」といった感じに引っ込むグローリアもグローリアだ。


 ガブリエッラ様は目覚めた勇者一行を観察してルシエラに何やら耳打ちする。ガブリエッラ様の傍にいたわたしには聞こえた。ガブリエッラ様はわたしにちらっと視線を送ったし、耳に入ることも承知の上だったんでしょう。


「どうやら三聖は未だ勇者に魅了されてるようですね。おそらく私でも浄化させられますが、どうします?」

「もういいわ。どっちにしたってこいつ等の出番はもう終わりよ」

「畏まりました、我らが主様」

「さて、じゃあ呑気な勇者一行に現実を思い知らせるとしましょう」


 少女は外套を掴むとその場に脱ぎ捨てた。あらわになった容姿は美少女と呼んで差し支えなく、可愛らしさに溢れながらも気品があり、同時に風格も備わっていた。しかし、そんな見てくれなんてどうでもいい衝撃を私達は受けてしまう。


 ルシエラは、あのミカエラとそっくりじゃあないか?

 瓜二つではないけれど、まるで彼女とミカエラは……!

 更に、ああ……ああ! なんてことなの!

 彼女の手や頬に刻まれたその紋様は……!


「ごきげんよう、勇者一行諸君」


 魔王刻印……あれは間違いなく魔王刻印だ。

 だとしたら、ルシエラこそが正真正銘の、正統なる魔王じゃないか……!


「じゃあ、死んでもらえる?」


 ルシエラはわたし達に無邪気に、無慈悲に死刑宣告した。

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