聖女魔王、天啓聖女を煽る
「ぎ、あああっっ!? ぼ、ボクの手がぁぁ!!」
俺が叩き潰したドナテッロの手は粉砕骨折どころではなく手首から先が俺の戦鎚で粉々に吹っ飛ばされていた。当然剣を持っていられなくなったため、明後日の方向に回転しながら飛んでいき、地面に突き刺さる。
みっともなく悲鳴を上げる勇者めがけて戦鎚を振り下ろすも、さすがに危機を察してドナテッロは回避した。しかしとっさな行動だったので体勢に無理が生じ、派手に倒れて土まみれになる。あーあ、せっかく顔はいいのに台無しだなぁ。
「ドナテッロ、今治すから! ハイヒー……」
「セイクリッドエッジ!」
「!? くっ……!」
すかさずラファエラが回復の奇跡を施そうとするも、ミカエラが放った光の刃が容赦なく襲いかかったせいで中断を余儀なくされた。妨害をもろとも出来ないあたりラファエラはまだ実戦経験不足と言わざるをえんな。
俺が距離を詰めるとドナテッロは尻餅をつきながら後ずさりだす。ミカエラに剣をへし折られて俺に予備も叩き落され、もはやコイツになすすべはない。ただみっともなくあがくのが精一杯なようだ。
「く、来るな……! こっち来るなよ! ボクは勇者だぞ!」
「だから? ミカエラの敵なんだろ。だったら俺の敵だ。そんでみすみす見逃すような慈悲は無いんでね。ま、大人しく昇天してくれ」
「勇者のボクが死んだら誰が世界を救うんだよ!? 人類の損失だぞ分かってんのか!?」
「知るかボケ」
俺はやかましいコイツを黙らせるべく戦鎚を勢いを付けて振り下ろし……地面を抉る結果に終わった。どうやらラファエラが風を起こす奇跡ホワイトウィンドでドナテッロをふっ飛ばしたらしい。
ラファエラに行動を起こさせるなんてミカエラにしては珍しい。と思って彼女の方をチラ見したら、無様に転げ回るドナテッロを見て笑ってやがった。こいつ、わざと見逃しやがったな。
「ラファエラ。お仲間は倒れて勇者はこのザマ。もう勝ち目はありませんよ」
「そんなことない! わたし達はまだ戦える……わたしが健在なんだもの!」
ミカエラによる事実上の降伏勧告をはねのけ、ラファエラはまだ強い眼差しでミカエラを睨みつける。度重なる奇跡の行使で肩で息をしてるし汗も多量に流れてる。無茶をしているのがありありと分かる。
「剣聖も弓聖も賢聖も余の仲間に半分の力も出させないで負けました。勇者は我が騎士が完封しましたよ? 聖女だからって無理強いはいけませんね」
「魔王がどの口で……! わたしは聖女なのよ! 魔王を倒して人類を救わなきゃいけないの!」
「じゃあどうしてヴィットーリオを捨てたんですか? ラファエラのことを一番理解してくれていたのに」
「!!?」
そうだ。俺達に勝ちたいんなら盾役のヴィットーリオ連れて来るべきだったんだ。アイツがいたら三聖達に一対一で戦わせなかっただろうし、ラファエラを完璧に守りながら俺を攻略してのけただろう。
聖女を守護する聖騎士の不在。これが俺とミカエラがラファエラとドナテッロを上回った最大の要因だろう。聖女の使命だとか抜かしてるが、とどのつまり彼女は自分の手で希望を捨て去ってしまったのだ。
「騎士を切り捨てた聖女に救いも未来もありませんよ。聖女のくせにそんなことも分からないんですか?」
「黙れぇ! アンタにわたしの何が分かるの!? 聖女が勇者と共に人々の救いになるのは当たり前でしょうよ!」
ラファエラが権杖を天高く掲げると、彼女を中心に光の柱が立ち上る。俺には全く感知できないがとてつもない何かが起ころうとしているのは察した。ラファエラは必死な表情で光量を増やしていく。
それを見たミカエラ、ここにきて初めて興味津々な様子で目を輝かせた。そして憧れのこもった眼差しでじっくりと観察し、おもむろに権杖を天高く掲げる。すると彼女を中心としてもう一つの光の柱が発生した。
「なん、ですって……?」
「お手本があると楽でいいですね! 独学じゃあ出来ずに困っていたからとても助かります!」
「ふ……ふざけないでよ! 魔王のアンタが聖女の奇跡を行使するなんて……。聖女を何だと思ってるのよ!?」
「世界を救済する存在でしょう」
即答だった。
何を今更問いかけるんだ、とミカエラは純粋に疑問に思ったようだった。
そんな素直さに愕然としたラファエラは思わずたじろいだ。
「まさか聖痕持ちの聖女ともあろう貴女が救う対象が人類だけだなんて思ってませんよね?」
「あ……あぁ……あああぁぁっ! 認めない、わたしは貴女なんて認めない!」
髪を振り乱したラファエラは必死な形相で光の柱を構成する膨大な光を権杖に収束させ、ミカエラへと突き出した。ミカエラもまたほぼ同時に光を権杖に集中、ラファエラに向ける。
「「オーレオラ・スプリームストリーム!」」




