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戦鎚聖騎士、これまでの旅を振り返る

 俺ことニコロないしはニッコロは聖地巡礼の旅の途中だ。

 これまで三箇所の聖地を巡り、いよいよ最後となる四箇所目の聖地を目指してる。

 四箇所目は聖都の間近にあって、何でも最初の魔王が討伐された地だとさ。


 俺は聖パラティヌス教国から任命された聖騎士。聖騎士とは人類を救済する聖女を守護する存在。聖女のためならば火の中水の中だろうと身を呈して聖女を守る抜くことが使命となる。


「平和だなぁ」

「そうですね。つい眠たくなっちゃいます」


 俺の隣でうつらうつらと船を漕いでいるのはミカエラ。彼女は教国から任命された聖女。まだ新米ながらも聖地巡礼の旅にて人類への奉仕活動や魔物退治に従事している。行く先々で魔王軍を撃退していることからも市民からも指示されている。


 その正体は現代の魔王。種族は大悪魔だったか。


 なんと彼女は魔王継承の儀式で殺めてしまった実の妹を蘇らせるために聖女の奇跡を欲しており、だったら自分が聖女になってしまおうと思い至ったのだ。聖地巡礼の旅も経験値稼ぎが本当の目的だったりする。


「魔王軍も粗方倒されちゃってるし、相手するのは野良魔物ばっかだなぁ」


 馬車籠の上で寝転んでいるのはティーナ。彼女は数百年を生きるハイエルフで、人類圏で白金級冒険者として活動している。弓の腕前は超一流で、視界に入る距離ならば何でも仕留められる。彼女の明るさは俺も楽しい。


 その正体はかつて焦熱魔王とまで呼ばれたブラッドエルフだ。


 エルフの大森林を邪精霊を主体とする当時の魔王軍が襲った際に対抗手段としてエルフで禁忌とされる火の担い手になり、火の邪精霊だった魔王を討ち果たした後に魔王城を攻め落とし、魔王弓を奪い取ったことで魔王と位置づけられたんだとか。


「嵐の前の静けさじゃないといいんだけれどね」


 騎竜に乗って干し肉を齧るのはダーリア。彼女はドワーフの竜騎士で、ドヴェルグ首長国連邦で国境警備を務めていた。首長の娘なんだがつい先日までの関係は疎遠だった。渓谷で開催されたグランプリレースで優勝してから修復中なんだとか。


 その正体は幻獣魔王バハムートが転生の法で生まれ変わった存在だ。


 ドワーフの勇者に一騎打ちで敗れた幻獣魔王は彼に勝つためにはドラゴンであることを捨てなければならないと結論付け、何度も何度も転生を繰り返して力と技術を蓄えた。そしてついこの前勇者と同じドワーフになったので再戦したわけだ。


「気を抜ける時間があるならそうするに越したことはないよ。次に備えてね」


 馬に乗って景色を眺めるのはイレーネ。彼女は数百年前に黒鎧魔王を封印した勇者であり聖女でもある。色々あって現世で帰還して俺達の旅に同行してくれている。白と黒で半々の鎧兜、背中の聖王剣と魔王剣が特徴だ。


 その正体は魔王が勇者を乗っ取った勇者魔王だ。


 数百年も封印されている間、勇者と魔王は精神面で戦い続けた。しかし二人だけの世界が続くうちに段々と双方が近づいてしまい、終いにはほぼ同一存在になってしまった。なお人格は勇者を基軸にしてるそうな。


 ……なんで俺以外全員魔王なんですかねぇ?

 なお俺を除いて全員女性なのも全く意図してない。

 これもまた神の思し召しなのか、それとも魔王を惹きつける何かがあるのか。


 まあいい。どのみち俺がやるのはミカエラの守護だけだ。

 俺の鎚と盾はミカエラと共にある。無論仲間は守るが最優先はミカエラだ。

 そのためならばこの身、この命を捧げる覚悟がある。

 それほど俺はミカエラという個人に惹かれている。

 聖女だとか魔王だとかの肩書なんざ関係ない。俺はミカエラが好きなんだ。

 惚れた女のために全力を尽くすのが悪いか?


「残った正統派の連中もガブリエッラ様とラファエラ達が何とかするんだろ。なら俺達はのんびりと旅できるじゃんか」

「だといいんですけれどねぇ。ニッコロさんは引きが強いですから!」

「俺か? 俺のせいなのか? ミカエラじゃなくて?」

「そんな……人のせいにしないでください!」


 ミカエラが魔王になったのはいいが、魔王軍の中にはそれを認められない連中がいて、妹のルシエラこそが正統なる魔王だと言い張って離反した。そんな正統派が現在人類圏に侵攻して大暴れしてるってわけだ。


 そんな叛徒共もほぼ全て鎮圧した。俺達だけじゃなく別の聖女達も正統派に対処している。教会からの連絡によれば残すは聖女ラファエラが任された魔影軍のみ。逃げまくってる連中を追いかけっこしてるんだってさ。


 俺とミカエラの旅ももうじき終わりを迎えようとしている。


 その先でミカエラはどうするんだろうか? 死者蘇生の奇跡でルシエラを蘇らせたら魔王に戻っちまうんだろうか? それとも聖女を続けて人類救済の旅を続けるんだろうか? 彼女の思惑は彼女のみぞ知る、だろう。

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