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【閑話】天啓聖女、現実を思い知る

最終章開幕です。

引き続きよろしくお願いします。

 ■(ラファエラ視点)■


 その日もわたしはドナテッロに抱かれた。

 わたしだけじゃない。グローリア、オリンピア。それにコルネリアも。


 一生懸命ご奉仕して喜んでもらうととても嬉しかったし、彼から愛されて幸せに満ち溢れたわ。それはきっと他の三人も同じだったでしょうし、他に彼に抱かれる女性にも共感してもらえる感覚だったと思う。


 気持ち悪い。


 とはいえわたし達は魔王軍を倒さなきゃいけない身。子供が出来たら色々と不都合だから、勿論出来ないように措置はしておいた。お腹に新たな生命を宿した女性は少なくなかったけれど、安らかな眠りを与えるのはわたしには容易かった。


 なんて罪深い。


 英雄色を好む、だなんて誰が言ったか知らないけれど、ドナテッロはまさにそれが当てはまる。おかげで毎日疲れちゃうし彼の欲求を満たすために寄り道の頻度も多いしで、中々旅が進まないのは難点とも言って良かったけれど。


 汚れた。汚れきってしまった。


 そんなわたし達だったけれど、魔王軍討伐は順調とはいかなかった。盾役兼雑務役だったヴィットーリオの奴を始末してから色々と調子が悪くなったわ。ただ、不便って程度でアイツがいなきゃやってられないほどじゃない。遭遇する敵はどいつも苦戦はするけれど倒せないほどじゃないし、つくづく彼を切ってよかったとせいせいするわよ。


 ごめんなさい。許さなくて良い、ただ謝りたい。


 そんなわたし達の次の相手はゴーレムやリビングアーマーといった物質系の魔物で構成された魔影軍だった。ただその性質上聖女を天敵にしてるらしく、正直わたしからしたら苦戦するような相手じゃなかった。


 隊長格を何体も倒していよいよ軍長と戦うところまでこぎつけた。わたし達全員調子は良かったし軍長を相手にしても負ける気はしない。このままの勢いで次は魔王城に攻め込んで魔王も倒してしまおう、そんな話をわたし達はドナテッロに抱かれながら交わした。


「報告は以上です。明日には魔影軍長を討ち果たしますので吉報をお待ち下さい」


 わたしが水晶を介して大聖女イスラフィーラ様へ報告している間もドナテッロはわたしの身体を弄び続けたし、わたしもわたしでいつイスラフィーラ様にばれるんじゃないかってハラハラしてドキドキした。嘆声が漏れそうになってこらえるのが精一杯だったわ。


「分かりました聖女ラファエラ。引き続き勇者殿に助力して役目を全うなさい」

「畏まりました」

「ではこちらからも近状を報告します。事実だけを述べるので受け止めるように」


 そこからイスラフィーラ様から告げられた事実はわたしには受け入れ難かった。

 ミカエラが今度は超竜軍を退けた? ドワーフ達と手を組んで?

 ガブリエッラ様が魔獣軍を殲滅した? 周辺国家と共に?

 更には……、


「は……? 新たな勇者、ですか?」

「ええ。そちらにいるドナテッロ殿とは別の者が教会より正式に勇者として認定されました。聖女ユニエラと共に旅立ち、魔王城に向かっています。無論、魔王を討ち果たすために」


 イスラフィーラ様の眼差しはまるでわたしを攻めているようだった。

 お前がもたもたしているから別の勇者と聖女を派遣した、と。

 夢から覚めたような思いだった。愕然とした。頭がぐらついた。


「で、ですが……ドナテッロがいるのに、どうして……?」

「はあ。聖女が複数名いるのに勇者が一人だけなんて誰が決めたんですか? 良くあるとまでは言いませんが、複数の勇者が並び立った時代もありましたよ」

「そんな急がなくてもわたし達だけでも充分……!」

「だから何ですか? 最近の貴女達の評判は聞いています。義務をこなせば良い、とでも思っているのですか?」


 この時点でわたしはコルネリアと一緒にドナテッロを黙らせた。次の瞬間には彼が癇癪を起こして暴れるかもしれなかったから。都合が悪くなるとすぐ感情を露わにするのが彼の欠点よね。人は完璧じゃないからしょうがないけれど。


「魔影軍長を討伐したら一旦聖都に帰還なさい。その頃には全てが終わっているでしょうから」

「大聖女様!」

「二度は言いません。聖女ラファエラは役目を全うするように」


 聖都との接続を一方的に切られた。


 どうしようどうしようどうしよう。

 このままだとわたし達は軍長をたった二体仕留めただけで終わっちゃう。

 同期のミカエラですら三軍を、片手間だったガブリエッラ様が二軍、ユニエラ先輩は魔王を撃破したっていうのに。


 聖痕を宿した正真正銘の聖女はこのわたしなのに!

 役目を全うするように? わたしは役目を全く果たせてないじゃないの!

 これじゃあ何のためにヴィットーリオを手にかけたのよ……。


 結局その夜は一睡も出来なかった。


 ■■■


 魔影軍の本軍はとてつもなく往生際が悪かったわ。


 劣勢を見て取ると恥もかなぐり捨てて撤退し始めたものだから追撃しなきゃいけなかった。しかもまとまって魔王城に帰還するとかじゃなくて四方八方にちらばって個々に逃げ出したものだから大変だったわ。


 雑魚は共に戦った人類連合軍に任せてわたし達は魔影軍長を追ったわ。山を超え、谷を超え、河を渡って、やつの後を追った。ただようやく追いついても奴は部下を捨て駒にしてまた逃げ出すものだから、かなり時間を取られちゃったわ。


 そうして魔影軍長ただ一人になるまで追い詰めて、ようやく奴を捉えることが出来た。奴が逃げるよりこちらが追いかける方が速い。それでも奴は戦わずに逃げに徹するものだからわたし達も必死に奴の後を追った。


 そこでわたしは彼らと再会した。


 聖女ミカエラと聖騎士ニッコロ。

 わたし、そしてヴィットーリオの同期。

 そしてわたしよりも聖女らしい……憎たらしい女と。


 ニッコロや彼の仲間らしき女性達はすかさず戦闘態勢に入るけれど、なんと魔影軍長は彼ら……いえ、ミカエラへと跪いて頭を垂れた。何があったか理解出来ないうちに奴はとんでもないことを口走ってきたわ。


「申し訳ございません魔王様! 我の力及ばず、勇者めに敗北を喫しました!」


 コイツは一体何を言っているの?

 ミカエラが魔王? だって魔王は魔王城にいて、ユニエラ先輩達が倒そうとしているんじゃあ……。


 一方のミカエラは……あまりにも冷静だった。

 凍てつく眼差しで魔影軍長を見下ろす。

 聖女のとはとても思えない、背筋が凍るような恐怖と威圧感を覚えた。


「魔影軍を割っての独断専行。正統派、でしたっけ? 貴方達にとって魔王はルシエラなんでしょう? 追い込まれたからって余に擦り寄るのは都合が良すぎませんか?」

「い、いえ! 我は改心致しました! これからは魔王様に忠誠を誓う所存です!」

「それでルシエラの方が有利になったらまた手のひらを返すくせに。そんな恥知らずはルシエラはおろか余にも不要です」

「お、お慈悲を……!」


 ミカエラは巨大な光の矢を形成して魔影軍長へと向けた。魔影軍長は悲鳴をあげながら逃げ出すけれど、そんな鈍重に走ったところで助かるわけがないでしょう。奴は選択を誤った、ただそれだけね。


「シャイニングアローレイ!」


 ミカエラが放った光の刃が魔影軍長を一刀両断、魔影軍長はただの鉄くずと化して大地に音を立てて崩れ落ちる。


 残されたのはミカエラと彼女の旅の友、それから勇者ドナテッロとその一行。


 魔影軍長を倒したことで人類圏から危機は去って大団円。あとは平和な世の中が待っている。聖女ミカエラとその喜びは分かち合うべきよね。……本来なら。


 けれどわたし達とミカエラ達は対峙する。

 わたし達はこれまで以上に警戒心を強めながら。

 何故なら目の前にいるのはわたしが知るミカエラじゃない。


 彼女は――だから。


「ミカエラ……」

「お久しぶりですねラファエラ。ヴィットーリオをその手にかけたって聞いてましたが、元気そうでなによりです」

「っ……! そんなことより、さっきのは何?」

「何って言われましても。ただ裏切り者を粛清しただけですよ」


 やはり彼女が……いや、コイツが、わたしが倒すべき敵。

 聖女が討ち果たすべき存在!


「貴女が魔王なの?」

「はい、そうです」


 ミカエラはこんな状況でもいつものようにわたし達へと微笑んだ。


「余が魔王ミカエラです」

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