表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/184

戦鎚聖騎士、次の聖地に向けて出発する

 戦いに幕が下り、夢の時間は終わろうとしていた。


「名残惜しいけれど時間切れね。これ以上この時代に留まっちゃうと元の時代に戻れなくなるから」

「そうか。残念だな。ダーリアとは何度だって戦いたいのに」

「それが無理なのは歴史が証明してるわ。せめて私を相手できる後身が育つようにしときなさいって。昨日のグランプリなんてドワーフとしての技量だけで勝てたわよ」

「そりゃあオレもだって。道具に頼りまくったレースなんてダーリアとぐらいだし」


 二人の決闘はどちらが勝ったか、それを確かめるのは無粋だろう。一応同着にならないよう魔道具で映像判定が出来るらしいのだけれど、ダーリアもイザイアも聞くのを拒んだ。ただ、何となく分かる。二人だけはどちらが勝ったか分かっている、と。


 ダーリアは満足しきって晴れ晴れとした表情を見せるも、イザイアは帰る時間が近づくにつれて段々と顔が曇っていった。ダーリアが不思議に思っていると、どうやらイザイアの視線はダーリアの使っていた槍に視線が向いているようだった。


「なあ、それ」

「ん? これ?」

「誰が作った槍なんだ?」

「は? 何言ってんのよ。これはイザイアが……晩年に作った武器だったっけ」

「……!」

「幻獣魔王の牙すら打てるようになるなんて凄いじゃないの。どんなに叩いても熱しても傷一つ付けられやしないのに。ドワーフの歴史を紐解いても幻獣魔王の牙を素材に出来るのはイザイアぐらいよ」

「そうか、そうか……」


 イザイアはほっと胸をなでおろす。ダーリアは訳が分からないと困惑気味だったが、すぐに彼が何を考えていたのかを察し、意地悪な笑いを浮かべて彼へと近寄る。イザイアは赤面しながらダーリアから目をそらした。


「ははーん。どこぞの馬の骨が幻獣魔王の牙を素材にした槍を作って、それを私が使っている、とか思ってくれたんだぁ」

「そ、そんなわけあるか。ダーリアがどんな得物を使ってたってオレには関係ないし」

「知ってる? ドラゴンにとって自分の重要な体の一部を送るって行為は相手への最大の賛辞や求愛を意味するのよ。幻獣魔王がどんな気持ちでイザイアに牙を送ったか、知りたい?」

「べべ別に。使える極上の素材がたまたま幻獣魔王の牙だっただけだろ」


 おーおー見せつけてくれるねえ。俺達だけじゃなく多くのドワーフが見守る中で繰り広げられるのはまるで初心な男女のような親密なやりとりだった。往年のドワーフと千年転生を繰り返したドラゴンがようやくここまで来たのかと思うとこう、感動するな。


「しっかりと愛用させてもらうから。イザイアは帰って早くコレ作ってよね」

「……ああ。分かった。約束する」


 ダーリアが魔王槍を掲げると先程の巨大な魔法陣が今度は逆回転で駆動し始めた。空を見上げて魔法陣が光り輝き出すのを確認したイザイアは飛竜に騎乗し、空へと飛んでいく。


「じゃあなダーリア。オレがいなくても寂しがんなよ!」

「そっちこそ後世のドワーフにバカにされないようシャキッとしなさいよ!」


 ダーリアとイザイアは互いに手を振り、ドワーフの勇者は魔法陣の向こうへと消えていった。時間跳躍を成した魔法陣は役目を終えて輝きを失い、動きを止め、やがて霧散していく。


「さようなら、イザイア。私の運命の人……」


 ダーリアは暫くの間空を見つめ、一筋の涙をこぼし、慌てて袖で拭った。


 □□□


 一日経ってもドワーフ達はダーリアとイザイアの一騎打ちについて語り合った。もはや二日前のグランプリや超竜軍討伐については誰も口にしない。それほどまでにあの決闘はドワーフ達の脳を焼いたのだろう。


「準備出来たかー?」

「うん、問題無し」

「荷物は全部積んだぞー」

「身支度も終わりました。いつでも出発できますよ!」


 いよいよドワーフの渓谷を後にする日がやってきた。聖地は巡礼したし超竜軍は撃退したし、もうここでやることは何も無い。グランプリでの戦いの疲労も回復したことだし、いよいよ俺達は最後の聖地に向けて出発することにした。


 宿で朝食を取った俺達は荷物を馬車籠に乗せる。首長が見送り云々と提案してきたけどミカエラが固辞した。聖女としての義務で聖地巡礼してるわけじゃないのを理由にしてたが、見送られるのが面倒なだけだろうなぁと思う。俺も同感だが。


「そう言えばミカエラ、昨日教会から届いた報告書、ちゃんと目を通したか?」

「勿論ですよ。情報を知ることはとても大事ですからね!」

「ガブリエッラ様もラファエラ達も頑張ってるなぁ。そろそろ本軍との決戦だって」

「こっちは片手間に超竜軍を無力化したのを踏まえたらのんびりしすぎでしょう」


 ドヴェルグ首長国連邦にいる間もパラティヌス教国連合を始めとする人類圏の情勢は教会から定期的に報告されている。俺達が町を訪れる度に教会に報告してる対価みたいなものだな。


 それによるとガブリエッラ様達は周辺国家の軍勢と共にいよいよ魔獣軍との決戦に望む予定らしい。悪魔軍を討伐した時と同じ戦法、雑魚は軍隊に任せて自分達は本陣に襲撃を仕掛けるつもりなんだとか。


 一方のラファエラ達は魔影軍を相手に苦戦中だ。盾役のヴィットーリオが抜けた穴が中々塞ぎきれないようだな。それでも着実に幹部を倒していき、彼らもいよいよ軍長との決戦に臨むまでこぎつけたとか何とか。


「これで人類圏を暴れる正統派魔王軍は完全に鎮圧出来るな。となるとそう遠くないうちに反転攻勢して魔王城に攻め込む計画が立案されそうだが……」

「そうなったら返り討ちにするようドゥルジとゾーエには命じてます。さすがにそこまで好き放題させるわけにはいきませんからね」

「あー、あの魔王城で会った直轄軍長とスライム軍長か。あれ、エルフの大森林から撤退した邪神軍長のディアマンテは?」

「彼女達は遊撃隊なので別の拠点にいる筈ですよ。逐次の報告は受けてませんがね」


 そんなもんか。

 となると、最後の聖地では今度こそ魔王軍と関わらなくて済むな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ