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幻獣魔王、時空魔法を行使する

 次の日、グランプリ会場のスタート位置広場にはダーリアと彼女の飛竜だけがいた。残りは全員観客席や控室。優勝者のダーリアが聖地を貸し切ると聞いて何が行われるのか興味津々なドワーフ達もそれなりに駆けつけていた。


 ダーリアは竜騎士としての完全装備、かつ得物は昨日呼び出した幻獣魔王の牙たる魔王槍。なんと彼女は昨日のグランプリよりも緊張した、そして真剣な面持ちで呼吸を整え、精神を集中させていた。


 ダーリアが魔王槍で床を軽く叩くと、彼女を中心として巨大な魔法陣が形成された。更には彼女の真上の上空にも更に巨大な魔法陣が構築されていく。素人の俺にも分かる。こんな大規模な術式は普通なら個人で組み立てるなんて不可能だ。


 何をするつもりだ、と一同は動揺する。ファイブヘッドヒドラを大技一撃で仕留めたのは記憶に新しい。それよりも遥かにとんでもないことをしでかすんじゃないか、と戦々恐々になるのは無理がない。とは言え人気のあるダーリアがそんなことをする筈ない、との信頼もあってか、誰も席から離れようとはしなかった。


「凄い……凄いですよ! ニッコロさん、あれ凄すぎます!」

「凄い言われても俺は魔法陣を読み解く芸当は出来ないんだが? 分かるように説明してくれ」


 ただ一人、ミカエラだけが魔法陣を見た途端に酷く興奮して目を輝かせた。しばらく解読に時間を費やしていたが、たまらずに俺に同意を求めてきたようだ。俺も興味があったので大人しく彼女のさせるがままに解説を聞くとしよう。


「アレは時空魔法です!」

「時空魔法……? 聞いたことない分類だけど、時間に働きかけるのか?」

「知ってますか? 海峡の底と山の頂上だと時間の流れが違うんですよ。つまり時間は一定の間隔で刻まれるんじゃなくて変数なんです。つまり、魔法で操作可能です」

「理屈は分かった。でもそれを知ってるミカエラにだって出来るんじゃないか?」

「対象の時間を速めたり遅くしたりは出来ますよ。けれどあの魔法はそんなちゃちな子供だましじゃありません。タイムリープ、時間跳躍なんですって!」

「時間跳躍……。えっと、つまり、過去とか未来に飛べる魔法ってことか?」

「はい。余もやれるかなーとは思ってたんですが、へえ、こうするんですか。勉強になります」


 なんてこった。時間は一方通行だから歴史があるんだ。過去にも未来にも行き放題なら世界をいくらでも好き勝手出来てしまう。でも過去に時間跳躍があって歴史を変えた結果が今だとか? うーむ。卵と鶏のどっちが先かと同じだな。


「で、ダーリアが展開するアレはどんな効果なんだ?」

「うーん。個人がタイムリープするにはちょっと大げさすぎますね。全部解読は出来てませんが、おそらく何らかの対象をこの時代に呼び出すための魔法です」

「まさかダーリアが召喚したい相手って……」

「多分、そのまさかでしょう。対象の時代設定が千年ほど前ですし」


 魔法陣が複雑に駆動し、輝きを増していく。それを見届けたダーリアは魔王槍を天高く掲げ、力ある言葉を発した。それは悲願の成就であり、執念の達成であるのか、聖地一体に響くほど思いが込められた大きい声だった。


「タイムオブザヒーロー!」


 天地両方の魔法陣が稼働、光の柱で互いが繋がった。眩しくて思わず目を細める。

 すると、天側の魔法陣から何かが滑り落ちるように現れた。

 これほど大規模な準備だったにも関わらずあまりにもあっけない結果だった。

 ――その呼び出された存在が取るに足らなければ、だが。


 彼らは壮年を過ぎようとしているドワーフと飛竜だった。ドワーフの方は急に呼び出されて混乱しているようだったが、ここがどこか、そして誰が呼び出したかが分かったようだ。スタート開始広場へと飛竜を降下させる。


 そのドワーフの姿を見たドワーフ達に衝撃が走る。彼のことは誰も知らないし見たこともない。しかしドワーフは誰だって彼を知っている。ドワーフとして知っていなくてはならない。


「お、おい。ダーリア姫に呼び出されたアイツ、まさか……」

「マジかよ……やりやがった! 姫様本当にやりやがった!」

「嘘……あの方が本当にわし達の目の前に……!」

「復活だ……伝説の復活だ!」


 召喚されたドワーフは飛竜から降りてダーリアの前まで歩み寄る。彼は動揺を隠せずにしきりに何かをつぶやいていたが、少しして自分の両方の頬を叩いて喝を入れる。それからは堂々とした立ちふるまいで彼女の元までやってきた。


「何かいきなり呼び出されたんだけど、呼んだのはアンタか?」

「そうよ。ようこそ約千年後の世界へ。この時代の全ドワーフを代表してこの私、ドヴェルグ首長国連邦首長の娘のダーリアが歓迎するわ」

「へ? いやいや、すぐには理解出来ないんだけどさ。どうしてドワーフになってんの? アンタ、幻獣魔王バハムートだろ?」

「勿論、アンタに決闘を申し込むためよ! この元幻獣魔王のダーリアが、私に勝った勇者イザイアに! 千年ぶりのリベンジマッチをね!」


 ドワーフの勇者イザイア召喚。

 まさかの事態に会場内の興奮は加速度的に増していった。

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