戦鎚聖騎士、グランプリに参加する
「素晴らしかったですよ! さすが我が騎士です!」
レース終了後、俺達はミカエラに満面の笑顔で迎えられた。
うん、ミカエラから称賛されるとやっぱ嬉しいな。守りたい、この笑顔。
「お疲れー。アイツは超竜軍の四巨頭の一角だったけど、なんくるなかったなー」
ティーナもまた関心した様子だった。
てか四巨頭って何だよ。知ってたなら事前に教えてくれてても良かっただろ。
「うまく『僕』と同調出来たみたいだね。次もこの調子で頑張って」
勇者イレーネは素直に俺の健闘を称えてきた。
魔王イレーネとさっきまで会話してたので混乱するんだが。
「何か超竜軍の雑兵が大量に乱入してくるかと身構えてたんだが、参加してるのは大物だけだったな。あと倒せばいいのはサウザンドドラゴンだけか?」
「いえ、年月を重ねたドラゴンは人化の術を覚えられます。ほら、シルヴェリオが晩餐会の時にしてたみたいにですね」
「えっと。つまり、ドワーフに化けて予選を通過した超竜も紛れ込んでるかもしれないってことか?」
「その可能性は高いでしょうね。シルヴェリオとアントーニオだけが乱入しているとはとても思えません」
ミカエラ曰く、四巨頭とは軍団長無き今の超竜軍の実質的な頂点なんだそうだ。幻獣魔王時代から生きているのはシルヴェリオとアントーニオだけで、他二人はイレーネも知らないらしい。
「ドラゴンって寿命は数百年単位なんだろ。イレーネの時代から交代してるのか?」
「その時の勇者に討伐されることもあるんだって。ちなみに僕だって何頭か仕留めたことがあるよ。当時は六巨頭とか呼ばれてたっけ」
「あー、うちも何匹か倒したなー。どいつも幻獣魔王を知らない新世代の若造だった、とかシルヴェリオの奴は昔に言ってたぞ」
「シルヴェリオ達は幻獣魔王を言い伝えるために生存を選んでたんですよ。彼らがこの選択をしたのは今でも信じられません……」
イレーネとティーナは古の竜達の決断に理解を示したがミカエラだけは納得出来ていないようだった。これは知識として知るドラゴンと彼らの考えが乖離しているためだろう、と個人的に思う。
昼休憩を挟んでいよいよグランプリ開催時間になった。会場には大勢のドワーフが詰めかけて今か今かと盛り上がっている。超竜軍の乱入があっても熱気は冷めておらず、むしろドワーフの威信をかけて返り討ちにしてやるとの気迫に満ちていた。
「さあて、じゃあ行ってきますかー」
「ご武運を、我が騎士」
ミカエラの激励に親指を立てて返事し、スタート位置に向かった。
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さすがに敗者復活戦の参加者とは見るからに格が違った。誰もが歴戦の強者といった雰囲気を醸し出している。触れれば火傷しそうな、または切ってしまいそうなほどの気迫に満ち、まるで今から決戦に臨む戦士のようだった。
中でも注目を集めていたのはやはり超竜軍のサウザンドドラゴン、シルヴェリオのようだ。ほぼ全ての選手が彼を警戒している。次点はやはり真紅の姫君ダーリアか。こちらはドワーフの期待を一身に集めているようだ。それから首長嫡男や厳格な竜騎士など、少なからず有力選手が目を付けられているようだな。
かく言う俺達も結構警戒されている。ドラゴンライダーもどきを仕留めるために他のドワーフ選手を軒並み蹴散らしちまったからな。余所者に好き勝手されたんだ。相当頭にきているに違いない。
「ニッコロ。本戦出場おめでとう」
俺も体をほぐして備えていたら、ダーリアに声をかけられた。彼女の姿は普段の竜騎士姿と変わりない。他の選手は華々しい舞台にふさわしくそれなりに着飾ってるのにな。灼熱の業火を思わせた真紅の髪は兜の中でまとめあげてるようだ。
「ありがとう。ダーリアは結構余裕そうだな」
「場馴れしてるだけよ。レースにも何度も参加してるし、緊急出動だって何辺もこなしてるもの。それでもグランプリともなると興奮してるし緊張もしてるわ」
「そのわりに身体から適度に力が抜けてるな」
「普段の力を発揮したいからね。ま、残念だけれど優勝は私がいただくから」
絶対の自信を込めて微笑んだダーリアは踵を返した。
他の選手にとっては宣戦布告にもなる宣言だが、俺達の目的は超竜軍のドラゴンの撃退。グランプリの結果は別に気にしてないんだが……。まあ、せっかく出場するんだから全力で挑ませてもらうとしよう。
それにしても、一通り選手を見渡しても様子のおかしい選手は見られない。本当にこの中に他の超竜達が潜んでいるのだろうか? ドワーフに化けてその爪と牙を隠し、周りから一切疑われていないだなんて……。
「イレーネ。この中に超竜は潜んでるのか?」
「分からない。シルヴェリオとアントーニオは何となく分かったけれど、僕が会ったこともない奴だと気配を探れないから」
「そうかぁ。じゃあ誰が超竜であってもいいように全員に用心しなきゃいけないわけだな」
「馬鹿だねぇニッコロは。さっきみたいに全員倒しちゃえばいいじゃん」
「でーたーよーこの戦闘狂はさー。確かにそれが一番手っ取り早いのは認めるけれどさぁ。良心が咎めると言うかさぁ」
「どうせ戦い始めたらノリノリになっちゃうよ。臨機応変にやってこう」
ともあれ所定の開始位置につく。ドワーフ首長国連邦首長による開会の言葉だとかが述べられ、いよいよ開始時間となる。緊迫した空気が辺りを支配し、どの選手も前方を見据えてこれからどう立ち回ろうかと考えを巡らせる。
そして開幕を知らせる幕が切って落とされ、全員が一斉に飛び……立たなかった。




