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戦鎚聖騎士、グランプリの強制参加が決定される

2024/9/15に投稿漏れした本エピソードを追加しています。

「と、言うわけでニッコロさんにはグランプリに参加してもらいます!」

「どっからどう飛躍したらそんな結論になるんだ?」


 グランプリの開催まであと二日に迫った。ドヴェルグ首長国連邦中のグランプリ出場者や観客が首都や聖地に集い、大いに賑わっている。選手達は至る所で本番に向けての最終調整に取り掛かっているようだ。


 超竜軍による宣戦布告は戒厳令が敷かれたため、一般のドワーフには一切伝わっていない。首都や聖地を守護する中央軍の竜騎士も多数参加するため、彼らが総力を結集して乱入してくるドラゴンを返り討ちにする算段らしい。


 首長嫡男は自分がドラゴンを討ち果たして新たなる勇者となってみせるなどと意気込んでいたけれど、俺が見た限りでは冴えないから無理じゃないかな。いや、飛竜に乗ったらぜんぜん違うかも知れないけれどさ。


 超竜軍もドワーフ達もあくまでグランプリで雌雄を決するつもりらしいので、参加しない俺達はただ眺めて見ているだけだろう。もし全面戦争に突入してしまったらその時はまた身の振り方を考えればいい。


「いいですか。当日参加が認められているならニッコロさんだって殴り込みをかけられますよね。ドワーフと超竜軍両方の鼻を明かしてやりましょう!」

「待て待て待て。俺一人が戦えば何とかなる武闘会とは違うんだぞ。飛竜に乗る必要があるの。飛竜! 分かってるか?」

「借りればいいじゃないですか。競技用の飛竜を」

「そんな即席の組み合わせで勝てるほど甘くないだろ……。そもそも、一般ドワーフと比べれば巨体な俺じゃあ飛竜には負担が大きすぎないか?」


 と、思ってたんだけれどなぁ。どういうわけかミカエラがやる気を漲らせてるものだから、どうにか落ち着くよう言葉を重ねているわけだ。参加するだけならともかくドラゴンを迎え撃つなんて芸当はどう考えたって無理だろう。


「ドラゴンだったら別に飛竜じゃなくたっていいんだろ。ミカエラは何かあてがあったりするのか?」

「いえ。あいにく超竜軍とはあまり交流を持たなかったので、召喚魔法で呼び出せるドラゴンがいません。教国に来てから遭遇したドラゴンは大したことありませんでしたし」

「じゃあそんな無理難題を押し付けないでくれよ。俺にだって出来ないことはあるんだからさ」

「うーん。イレーネとティーナはどうなんですか?」

「へ? うち?」


 ティーナはまさか自分に話は振られまいとでも思っていたのか、ミカエラに声をかけられて素っ頓狂な声を発しながら自分を指さした。それから改めてミカエラの希望を頭の中で整理して、頭を掻いた。


「無理だな。この前も言ったけれどうちが乗れるのはヒッポグリフとかグリフォンぐらいだって。一応フェネクスを召喚して空を飛び回るぐらいは出来るけれど、グランプリの趣旨からは外れてるだろー」

「僕も無理だよ。魔王として乗り回してたアーマードワームなら今でも呼び出せるけれど、僕にしか乗れないからニッコロを活躍させられないよ。だからって僕はグランプリに参加する気なんてさらさらないしね」

「ほれみろ。やっぱ無理じゃねえか。今回は大人しく諦めな」

「むー。せっかくニッコロさんの活躍が見れると思ったのに!」


 そうむくれるな。後で何か美味いものでもおごってやるからさ。


 とまあこの話は早くも終了するはずだったんだが、何故かイレーネがこちらの方へ向けた視線を外そうとしなかった。俺の顔に何か付いてるわけでもないので、もしかしてイレーネには何か起死回生の一手でもあるのか?


「ニッコロが僕に身を委ねて協力してくれるなら、グランプリにも出られるよ」

「打開策があるのか……。それにしてもその言いっぷり、不安になるな」

「別に取って食おうってわけじゃないから安心してよ。で、どうする?」

「やれることがあるならやった方がいいだろ」


 ドラゴン退治をドワーフに任せっきりにして観客席で飲み物と菓子を両手に堪能するなんて趣味は俺に合わないんでね。凄く面倒くさいのだがミカエラがご所望なんだ。仕方がないので叶えてやろうじゃないか。


 そんな内心を見透かされたのか、イレーネは穏やかに微笑んできた。とたんに恥ずかしくなってきたんだがごまかすのもアレなので冷静に務める。もはや一種の悟りに入ったな。単なる開き直りとも言う。


「じゃあニッコロ。脱いで」

「……は? 脱ぐ?」

「駄目ですよイレーネ! こんな日中に公衆の面前で破廉恥な真似は!」


 何いってんだコイツ、と思った俺は決して悪くない。

 まあ、何となく言わんとしていることは分かる。が、言い方があるだろう

 ミカエラは邪推して咎めたのか察しておきながらとぼけたのかは分からんな。


「何でそうなるのさ!? 防具だけでいいって!」

「だったら初めからそう言えよ……」


 イレーネに言われるがまま聖騎士の鎧を脱いでその場に並べた。これに一体何の意味があるのかと不思議に思いながらも腕を広げて何も防具を付けていないことをイレーネに確認させる。


 するとイレーネはゆっくりと腕を上げて俺を指差し……ただならぬ雰囲気に思わず身構えてしまった。というか指先が向けられた瞬間に嫌な予感が体中を駆け巡り、たまらず何かされる前に攻撃をしかけようとすら反応しかけた。


「ダークマターアームド」


 イレーネが力ある言葉を発した瞬間、彼女が身にまとっていた魔王鎧が分解した。そして向かいにいた俺へと取り付き始めたではないか。引き剥がそうとする間もなく小手、具足と次々に装備されていき、最後に頭を兜で覆ってその現象は終わった。


 目の前には魔王鎧を脱いだ状態のイレーネがいる。彼女は休息時や就寝時には魔王鎧を脱ぐことはあれど、何かしら一部分は必ず身に纏っている。それはその肉体が勇者イレーネのを乗っ取ったもので、魔王鎧の方が本体だから。


 それが今はどうだ? 魔王鎧の全てが俺の全身を包み込んでいる。これではまるで鎧の魔王がその依代を勇者イレーネから俺に変えたみたいじゃないか。

 冗談じゃない。俺はまだ肉体を明け渡す気なんて……、


「そんな心配しなくても取って食うわけじゃないって説明したよね?」

「うわぁっ!?」


 いきなり耳元でイレーネの声が聞こえてきた。向かいにいるイレーネが喋ったのかと思いきや、彼女が口を動かした様子はない。それにまるで耳元で語りかけられるように近くから声は発生してたようなんだが、どういうことだ?


「兜から語りかけてるんだって」

「あ、成程な。妙な気分だなぁ」

「それで、気分はどう? 身体の支配権を奪おうとはしてないから多分問題ないとは思うんだけれど」

「気分は変わらずだな。身体の方は……」


 腕を回して屈伸して身体を捻って。うん、特に動かすのに支障はないな。それに心なしか聖騎士の鎧を装備してた時より調子がいいと言うか、力がみなぎってるというか。もしかしたら魔王鎧を装備した効果なのか?


「あ、一応やろうと思えば僕も動けるよ。ほら」

「ちょ、いきなり変な体勢にさせるな!」

「ぶっははは! 何やってんだよニッコロ!」

「ぷっ。ちょっとイレーネ、ニッコロさんにそんな真似を、くくくっ、させないでくださいよ……ぷはっ」


 いきなり手足が勝手に動き出して変なポーズをさせられた。ティーナは大声を上げて爆笑してくるしミカエラは咎めながらも笑いをこらえてるし。くっそ、穴があったら入りたい気分だ。


 しかしイレーネにその気が無いので笑い話で済んでるんだが、これいつでも鎧の魔王が俺を乗っ取ってくるかもしれないと考えたら末恐ろしいな。むしろ現代になるまで封印し続けた勇者イレーネの使命感と根性を尊敬するよ。


「少し動くよ。これで呼び出してもニッコロも乗れるはず……サモンリビングアーマー!」


 イレーネが動かした俺の手が突き出されると前方に巨大な魔法陣が地面に形成された。淡く輝く魔法陣の中から爪、翼、頭部が生えだし、やがては一体のドラゴンが這い出てくる。


 漆黒の鎧身にまといし鋼のドラゴン……いや、これ本当にドラゴンか? 鎧の中身が闇に閉ざされてて全く見えないんだが。もしかしなくても鎧の中身はがらんどうだったりするのか?


「アーマードワームはリビングアーマーさ。ドラゴンに装備する鎧のね」

「あー、理解した。……ドラゴンに鎧装備させて空を飛べるのか?」

「ドラゴンは翼羽ばたかせて飛ぶ種族ばかりじゃないからね。僕を纏っている状態の今ならニッコロの命令にも従うはずだよ」

「お、おう。とりあえずやってみるわ」


 恐る恐る俺はアーマードワームへと近づいていく。その鉤爪が振り下ろされて八つ裂きにされることも想定に入れて警戒はするも、手が触れられるぐらい近寄っても何もされなかった。ただ兜の傾き具合から俺の方を見ているように感じられた。


「じゃあちょっと乗ってみようか。僕が跳んで乗せてもいいけれど?」

「馬に乗るのとそこまで変わらないだろ? なら問題ないな」


 軽く跳んでアーマードワームの背中に乗っかった。鞍どころか手綱すら無いんだが、不思議と安定感があった。アーマードワームは鋼の翼を広げると空へと飛翔、瞬く間に大地がどんどん離れていく。


 これは魔力……いや、闘気を放出させて重力を振り切ってるのか。熟練した闘気の担い手なら空を舞うように飛べるらしいんだが、まさかここまでの巨体でそれを可能にしているなんてな。ドラゴンの鎧恐るべし。


「それじゃあ軽く飛ばすよ。首都との往復ぐらいなら丁度いいか」


 イレーネの言葉とともにアーマードワームは加速を開始。鉄の翼は風を受けるようやや斜め方向に伸ばしているだけで一切羽ばたかせない。闘気の噴射だけでこれだけの速度を出しているのか。魔王鎧に身を包んでなかったら風圧でとんでもないことになってたかもしれないな。


 ドワーフの渓谷があっという間に後方へと小さくなり、代わりに前方に首長国連邦中央首都が見えてきた。アーマードワームは中央首都を旋回して渓谷への帰路につく。その間他の飛竜達も結構な数追い抜いたようだ。中には衝撃波で制御を失って墜落仕掛ける飛竜もいた。すまんね。


 着陸の際は闘気を逆噴射させてゆっくりと大地に降り立った。何か凄まじい経験をしたのは分かるんだがあまりに衝撃的すぎて上手く言語化出来ないな。飛竜乗りが空に魅せられる気持ちが実感として分かったのは間違いない。


「どうだった? この子、中々早かったでしょう」

「そうだな。もしかして俺達がぶっちぎりで優勝しちまうんじゃねえか?」

「はははっ! さすがにそう上手くはいかないよ。何せあの空の覇者とまで言われた幻獣魔王すら勝てなかったからね。僕らは超竜軍の撃退に専念すべきさ」

「勿体ない気もするんだが、まあ俺達はよそ者なんだしそうだよな」


 戻ってきた俺達にミカエラ達が駆け寄ってくる……前に、何やら空が暗くなった。見上げると何やら大勢の竜騎士達が飛竜を飛ばしてこちらに向かってくるじゃないか。また超竜軍が攻めてきたのか、と一瞬思ったが、すぐに原因を察した。


 魔王鎧に身を包んだ存在がリビングアーマーのドラゴンに乗って聖地や首都を縦横無尽に飛び回る。鎧の魔王の時代は幻獣魔王よりもっと後。ドワーフにとっては何世代も前の話なんだが、記録は新しいだろう。


「じゃあニッコロ。ドワーフ達の説得はよろしくね」

「り、理不尽だぁぁ!」


 俺の叫びは渓谷を取り囲む砂漠に溶け込むように響かなかった。

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