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戦鎚聖騎士、少女趣味を疑われる

 ダーリアの竜騎士部隊は犠牲になったこの都市の竜騎士達の遺体の回収とドラゴン共の死体の処理を済ませた。仕事が終わった頃には太陽が沈んでしまった。戦闘後なのもあって夜間飛行を諦めたダーリアはこの都市で一泊する方針としたらしい。


「む」

「あら」


 だったからか、夕食を取りに出かけた俺達とダーリアが再会するのもありえなくはなかった。それにしたってこの広大な都市でばったり出くわす可能性がどれだけあるんだって話なんだがな。


 せっかくの再会なんだからと一緒に夕食を取ることになり、ダーリアの案内でメシも食える酒場を紹介してもらった。酒は明日出発なのもあって軽めのものを一杯だけに容赦してもらい、お疲れ様と乾杯する。


「で、何で管轄外のダーリアがここまで出向いてきたんだ? 応援要請を受けて飛ばしてきたにしては早すぎじゃないか?」

「国境のどこがどの規模の敵襲にあったかはすぐさま情報共有されるわ。で、侵攻経路を予測して次にここが狙われることが分かったからよ。管轄外なのに出しゃばった理由は、何となく分かるでしょう?」

「ここの竜騎士達の体たらくっぷりを見て任せてたら駄目だと判断したのか?」

「そういうこと。情けないけれど油断、平和ボケしてるのよ。魔王軍が起こってもこの国が超竜軍に攻められるなんてなかったのもあるわ」


 鳥獣系の魔物や妖魔が空から攻めてきても竜騎士なら難なく対処出来る。魔獣系の魔物やアンデッド共が攻めてきたなら物を言うのは陸軍の方だ。なので国境沿いはともかく内側は危機感が薄い、とダーリアは吐き捨てる。


 なのでダーリアは自分の部下を徹底的に鍛え上げ、管轄外の範囲の脅威にも対応できる屈強な竜騎士団を作り上げた。なのでこうして別の地方都市に出向くこともこれまで何回かあったそうだ。


「ところが、今回の魔王軍でうちに攻め込んできたのはよりによって超竜軍だった。今頃中央の連中は慌てふためいているでしょうね」

「そう聞くとさ、ダーリアが部隊を派遣できる地域は何とかなるとして、他はどうなってるんだ?」

「情報統制がかかってて全部は把握してないけれど、かなり苦戦を強いられてるみたいよ。何箇所か国境線を突破されて地方都市が陥落したとかいう噂まで飛び交ってるぐらいだもの」

「大問題だなぁ」


 頭が痛くなってきた。もしかしたら聖地に付く頃には超竜軍の本体とかち合う展開になってないか? んで超竜軍長と戦う破目になる、と。ドラゴンの親玉と対峙するなんて想像したくないんだが。


「それで、どうして超竜軍がドヴェルグ首長国連邦に攻め込んだのか検討はついてるの? 僕の時代の連中は幻獣魔王に義理立てしてここへの侵攻を担当するのを頑なに拒んでたけれど」

「うちの時代もドラゴン共がドワーフ圏に襲来したことはなかったなー。もしかして幻獣魔王の威光もとうとう効かなくなっちゃってるのか?」

「いえ。超竜軍長代理はそんな竜じゃなかったですね。副官はそんな軍長代理を懐古厨だとか公然と非難してましたけれど、軍長代理の彼が制御出来ないほどじゃあなかった筈です」

「なら妖魔軍や邪精霊軍と同じように魔王派と正統派で分かれたんじゃないの? で、幻獣魔王のいきさつを尻尾巻いて逃げたって解釈してたら?」

「あー。過去の汚点を自分たちの手で晴らす、とか過激な思想に端を発してここに攻めてきてるのかもね」


 魔王三人衆が好き放題内緒話をしてる間も俺はダーリアと喋り続ける。彼女は余所者どころか異種族である俺達にも普通に接してくれるからとても会話が弾む。こういう食事の席でしか話せないこともいっぱいあるしな。


「ところで、ドワーフの戦士達が紅蓮の姫様とか言ってたけれど、誰のこと?」

「そんなの我らの姫様のことに決まっとるだろうが! がははは!」


 答えたのはダーリアではなく別の席で楽しんでいた彼女の部下達だった。


「ここの腰抜け共のザマを見たか!? 姫様があんなに鍛錬を欠かさないよう忠告してたのを鼻で笑っておきながらこれだ!」

「やっぱそのうち姫様には中央に凱旋してもらってこの国全体の根性を叩き直してもらわにゃあかんよなぁ」

「クソ生意気な小娘だから地方に飛ばされたんだろうなぁ。かー、分かっちゃいねえよなぁ」

「少しぐらい痛い目見ないと分からないのよ。それだけ愚かにならないように保つのが難しいってこと」


 ん? 今の話を要約すると、ダーリアは竜騎士部隊の紅一点を意味する比喩的な姫様じゃなく、本当に姫なのか? んで、こんな感じの気質だから危険視されたか邪魔扱いされたかで左遷された、と。


 しかもダーリアの部下達だけじゃなくここの戦士も知っていたことからも公然の事実のようだな。そんな彼女が超竜軍の派遣部隊を次々と撃退する活躍を追放した側は忌々しく思っているだろうな、きっと。


「へぇ。お姫様だったのか」

「そうよ。悪い?」

「別に。人間の貴族社会に相当するのはどこもあるんだなーと思っただけだ。そのろくでもなさもさ」

「そういうものでしょうよ。生き物は例外なくね」


 言うじゃないか、とダーリアと乾杯を交わす。ちょっと待て、ドワーフの酒をジョッキにそそごうとするな。俺はエール酒で満足してるんだ。酔うのは気持ちよくても気持ち悪くなって頭痛がするのは聖女の奇跡があっても勘弁だからな。


「生意気だったのもあったんでしょうけれど、何より私ってこんな見た目でしょう」

「ドワーフの美意識からは外れてるのは分かる」

「ごくたまに人間の少年少女のようにしか成長しないドワーフが誕生するのよ。華奢で貧相で毛無し。化け物扱いされたことだってあるわ。地方赴任を命じられた時にはせいせいしたぐらいだもの」

「魅力的で可愛いじゃんか。単に見る目が無いだけだろ」


 ……あれ? 何か俺変なこと言ったか?

 ドワーフからは奇怪なものを眺めてる目線だし、女性陣からは汚物を見てしまったような嫌悪感を感じる。当のダーリアは呆れてるようだ。


「ニッコロ。貴方少女趣味でもあるの?」

「は? ……いや、ちょっと待て! 誤解だ!」


 ダーリアの指摘を受けてようやくとんでもないことを口走ったのだと悟った。大人になった屈強な男が無力な少女に迫ってるような構図にも解釈出来るわけだ。先に言っとくが俺にそんな趣味は無い!


「我が騎士……余の全部を奪っておいて……余を弄んだんですね!」

「不潔……。今度から聖騎士じゃなくて性騎士とでも名乗ったら?」

「年齢的には問題ないんだけどさぁ、あまりに倒錯的じゃないかー?」

「お前ら絶対分かってて言ってるだろ?」


 こんな感じに騒ぎに騒いで楽しいひと時になったのだった。

 なお、俺の少女趣味疑惑は何とか払拭できたことだけは付け加えておく。

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