焦熱魔王、ドワーフの体たらくに暴言を吐く
「じゃあこの都市の基地に駐留してる竜騎士の部隊で迎え撃てばいいだろ。高度の低い位置を戦場にすれば地上部隊からも援護も出来るし。どうしてこんな慌てふためいてるんだ?」
「それが……ここ最近空から国境線を突破されることが少ないため、首都中央軍はともかくここのような地方都市の部隊の実力は魔王軍の襲来に耐えきれは……」
「いくら何でも話にならなすぎだろ……。他のエルフが聞いてたら吹き出して笑っちゃうぐらいだぞ」
なのにこの体たらく。どれだけ訓練を疎かにしてたんだって話だ。
まあドワーフ共の現状がどうだろうが今は関係ない。大事なのはどうやって迫りくる脅威に備えるか、だな。
冒険者ギルド内が大騒ぎしているのは、地上から上空のドラゴンに攻撃できる魔法使いや射手を緊急募集しているから。しかし全ての魔物の中で頂点に君臨するドラゴン属が相手なものだから、皆尻込みしているわけだ。
「なのでティーナ様、どうかお願いします! このクエストを受けてください!」
「いや、うちは慈善活動してるわけじゃあないからなー」
「ですが、ティーナ様は視界に移る範囲は全て射程圏内だって噂されてたじゃないですか! ならソニックスカイドラゴンだって姿が見えたら……」
「あのなぁ。確かに超遠距離でも当てるだけなら簡単だけど、ドラゴンはどいつもこいつも防御力が高くて仕留めきれないんだって!」
ティーナは大声を上げて彼女を頼ろうとするドワーフのギルド職員を黙らせた。白金級冒険者を万能の英雄だと勘違いしているのかもしれないが、さすがのティーナでもそこまで化け物じみた曲芸を臨まれたらたまったものではないのか。
「ある程度の距離・高さまでおびき寄せてくれないとうちには無理だぞ。そしてそれには竜騎士部隊の強力が必要だ」
「……っ」
「冒険者ギルドから正式に要請しろ。そして何が何でも要求を飲んでもらえ。それがうちがクエストを受ける条件だ。報酬は適当に見積もってくれ」
「わ……分かりました。直ちに軍部に要請します」
ティーナはギルド職員から書類を受け取って緊急クエストを受注するとの署名を行い、踵を返した。俺達も彼女の後に続く。ティーナが向かった先はこの地方都市を囲って築かれた城壁の上。ここからなら外側を一望出来る。
既に地方都市に駐留してる地上軍も配置についており、バリスタや投石器などの対空兵器も準備されていた。まさかの事態にうろたえは見られたものの、皆この都市を守るんだとの気迫に満ちている。
「悪いなみんな。勝手に付き合わせちゃってさ」
「水臭いですよティーナ。世界を苦しみから救うことが聖女の使命。超竜軍の好きにはさせません!」
「さすがに見て見ぬふりは出来ないって。なら率先して戦うまでだ」
「そういうこと。ま、さっと片付けてぱっと今日の用事を済ませちゃおうよ」
一方の俺達聖女ミカエラ一行は落ち着いてソニックスカイドラゴンの群れが来るのを待つ。連中は速度に特化した分火や雷とかを放射してこないし魔法も行使しない。単に突撃や噛みつき、爪での引き裂きしか能のない単純な魔物だ。この都市を襲う気なら向こうから近寄ってくるだろうさ。
さて、そんなふうに敵軍を待ち構えていたわけだが。後方から竜騎士部隊が出陣していった。そして都市の上空で待機、と思いきや、ソニックスカイドラゴンが向かってくる方角へと飛んでいくではないか。
これにはティーナも顔をひきつらせた。
「……なあ。うち、ちゃんとギルド職員にドラゴン共の引き付け役よろしく、って頼んだよなぁ?」
「ああ、確かに聞いた」
「戦術も何もあったものじゃないだろ! これだからドワーフはさぁ! アイツ等の脳みそは酒浸りのくず鉄なんじゃないのか!?」
「ちょっとティーナ、声でかいって……!」
好き勝手言うエルフを睨みつけるドワーフ共は、しかし怒りを堪えて何も反論してこない。悔しいだろうが考え無しに突撃していく事実は変えられないからな。そして国境を守る部隊が返り討ちに遭ったところから察せられる通り……、
「遠く遥か彼方で戦闘が始まったみたいだぞ。どんな感じか実況してくれ」
「ソニックスカイドラゴンの速さに翻弄されてるな。動きを追いきれなくて反応遅いし、隙を見せた奴から落とされてってるぞ」
「どんな種類のドラゴンにも対抗できる豊富な技術とやらはどこ行った?」
「やみくもに攻撃して外してるせいで、何が秘密兵器なのかさっぱりだなー」
案の定この都市の竜騎士部隊はあえなくソニックスカイドラゴンの餌食になって帰ってこなかったのだった。無駄死にどころかこっちの士気まで奪う悪い方向にしか結果を残さなかったな。残当である。
うるさく飛び回るだけだった蝿……もとい、竜騎士部隊を一掃したソニックスカイドラゴンの集団は今度こそこちらに狙いを定めて突撃……するかと思われたその時、突如明後日の方角から幾重もの電撃が奴らに襲いかかった。
「あれはチェーンライトニング?」
この光景には見覚えがあった。そして抱いた予感は正しいとすぐに分かった。
遥か向こう、俺達が来た国境近くの地方都市の方角から急速に接近する一団の姿あり。ここの都市の部隊とは違って乱れ一つ無い隊列を組んでの飛来は改めて見ても芸術的にすら思えた。
「来た! 姫様が来た!」
「紅蓮の姫様が来たぞ!」
「これで勝てる!」
と、ドワーフ達には大歓迎状態だったがドラゴン達には地獄の宴だろう。
ダーリア率いる竜騎士部隊が応援に駆けつけてきたのだ。




