戦鎚聖騎士、ランドドラゴンを押しつぶす
「ファイヤーボール!」
ティーナは燃え盛る矢を放ち、迫りくるランドドラゴンの一体へと命中させる。その瞬間に爆発を起こして黒い煙が立ち上った。煙が収まると頭部を失ったランドドラゴンの死骸が地面に横たわっていた。
後ほどティーナに話を伺ったところ、いかに皮膚と肉が分厚く鎧のように身を守っていようと、目や鼻や口などに突き刺せばいい理論だそうだ。遠距離の相手の動きを見極めて命中させるなんて離れ業、ティーナにしか出来まい。
ティーナは立て続けに何本も矢を放って次々とランドドラゴンを仕留めていくものの、数が多くて突撃の勢いが止まらない。それどころか犠牲になったドラゴンの身体を踏み越えてこちらへと迫ってくるではないか。
「一文字斬り!」
そんな群衆の脇腹にイレーネの剣が貫いた。さすがのドラゴンの防御力でも魔王剣の前には無力らしく、端にいた一頭は一閃で前と後ろが両断された。イレーネは速度を緩めず次の獲物へと剣を振るっていく……が、新たな脅威に脇目もふらずになおも前進を止めはしなかった。
イレーネが咄嗟に炎の壁を作り出そうとファイヤーウォールを唱えようとした直前、俺達の前に淡く輝く光の壁が形成された。旅の者達に突進しようとしていたランドドラゴン達はその壁に激突して行く手を阻まれた。
「セイントフィールドです! 彼らは余が守りますからニッコロさんは気兼ねなく攻めてください!」
「ありがたい! じゃあ遠慮なくやらせてもらう!」
俺は光の壁の外に出て足止めを食らったランドドラゴンの頭目掛けて戦鎚を思いっきり振り下ろした。命中した瞬間にドラゴンの頭部の頭蓋骨、脳が粉砕、息の根を止めて仕留めきった。
やっぱりドラゴンは硬いなぁ。思いっきり戦鎚を叩きつけても頭部が陥没するだけ。人間相手だったら間違いなく粉砕出来てるし、適当に振ってても当たれば致命傷を負わせられるものな。こりゃあ一撃一撃に神経を集中させないと。
ドラゴンを仕留めていく速度はイレーネが一番早い。二刀流装備の彼女は両手持ちの俺より力が劣る筈なんだが、やはり得物と技量の違いからか、何の抵抗もなくドラゴンを両断してってるな。
次に早いのはティーナだが、いつものように速射で大量の標的に当てようとはせず、一矢を確実に丁寧に射ている。図体はデカいが固くて動き回る敵の狙える部位が狭いのが問題のようだ。
で、ドペは案の定俺である。だってしょうがない。戦鎚だとドラゴンと相性が悪くてね。大人しく剣や斧に切り替えた方が良いんだろうが、しっくりくるのが戦鎚だったんだからしょうがないじゃないか。
「ニッコロさん! これ以上ランドドラゴンを光の結界に近づけさせないでください! 激突され続けると耐久力が保ちません!」
「分かってるよ! ティーナも俺の援護は良いからそっちに向かう個体を優先して仕留めてくれ!」
「分かってるさー! でも数が多すぎる! 大技で一掃するにも溜めが要るんだって! どうにかしてよイレーネ!」
「こいつ等相手に効く飛び道具を連打するより地道に斬ってった方が早いよ!」
だろうと思った。ティーナとイレーネなら指摘しなくても最も効率的な戦法を思いつくだろうし。
「ミカエラこそ大魔法ぶっ放したり出来ないのかー?」
「結界魔法と同時の行使は無理ですね。なので三人共頑張ってください!」
「で、うち等が仕留めてくのと結界が壊されるのとどっちが早そうだー?」
「今のままだと結界の方が保ちません。結界を再展開する間に同行者がランドドラゴンに襲われますね」
淡い光の壁はランドドラゴンが衝突したり火を吹きかけたりする度にゆらぎ、段々と光を失っていく。ミカエラ自身は余裕でも発動した奇跡が保たないか。
仕方がないな。俺がやるしかないか。
「分かった。じゃあうちが極大魔法を――」
「いや、ここは俺がやる! ティーナは引き続き近寄る奴を対処してくれ!」
「え、ニッコロは何かあるのか?」
「ああ。所謂とっておきの必殺技ってやつだ」
俺は仕切り直すために一旦大きく後退して光の結界の中に入った。追撃してくるランドドラゴン共は目の前で光に阻まれて手出しできない。爪を突き立てても牙を剥いても無駄だって。おかげで妨害なく準備出来る。
ぶっちゃけるとあまり使いたくないんだけどな。だってほぼ全ての闘気を解放して行使する大技だから直後は疲れ果てて動けなくなるし、次の日も倦怠感が残り続けるからな。それだけあってかなりの威力を誇る。
「グラビトンクラッシャー!」
暫しの溜め動作の後、渾身の力を込めて戦鎚を地面に振り下ろす。大地に戦鎚が衝突、少なくない量の地面の土が抉れた。しかし効果はそれだけでなく、俺の前方方向の地面が陥没し始めた。
これは地属性の重力魔法グラビトンウェーブを闘気術で再現したもので、前方の一定範囲の重力を操作して超重力場を作り出す効果がある。巨体のドラゴンにとってはたまらないだろう。