戦鎚聖騎士、ランドドラゴンの群れに遭遇する
「結構行き交う人が多いな」
「都市と周辺の町や村の間には強い繋がりがあるみたいですね。そこは教国連合とあまり変わらないようです」
「ドワーフは人間とかと比べて歩幅が狭いから、共同体意識も村や町で完結してるかと思ってたんだがな」
「ニッコロさん、ほら、馬じゃなくて見たこと無い家畜に車を引かせてますよ!」
地方都市から出発した俺達は街道をひたすら進んでいく。常に反対方向に向かう人とすれ違うってほど道は混んでいなかったが、それでも結構な人数が往来していた。町人や商人といったこの地域の住人が半分以上を占めていた。
街道を進む人は徒歩や家畜に引かせる車に乗っているので、教会より支給された馬車で旅をする俺等はかなり目立った。聖女は御者席に座ってるわ籠の屋根にはエルフの射手が座ってるわで、注目が集まってるな。
「お、ニッコロ。面白いものが見れるぞ。上を見てみ」
「上……?」
ティーナに促されて上空を見上げると、飛竜よりも大きいドラゴンが何か籠を背負って空を飛んでいた。ドラゴンは地方都市の方角から俺達の真上を横切り、やがて空の向こうへと消えていった。
「飛竜便って言ってな。渓谷でも希少な大型種を使って人や物を運んでるんだ」
「へえ! さしずめ空の旅ってやつか! そりゃ凄いな。じゃあもしかして地方都市から聖地までもひとっ飛びだったりするのか?」
「一般市民が使おうと思ったら事前に予約しなきゃいけないし、賃金何ヶ月分の飛竜代を払わなきゃいけないぞー。うちも数えられるぐらいしか使ってないな」
「うげぇ。俺達は大人しく地面を這いつくばって進むとしようか」
さすがに地方都市と宿場町を結ぶ街道では魔物に遭遇せずに済んだ。地方都市の戦士団が定期的に巡回して交通を脅かす魔物を都度駆除しているのもあるだろう。俺達も町に来るまでに戦士団一行とすれ違ったが、歴戦の戦士と言った感じだった。
宿で一晩明かす。天候は曇り。雲行きや空気の湿気具合から判断するに、雨とは当分無縁そうだ。ここから先の食料は地方都市で準備したばかりだから問題なし。さあて、それじゃあ次の町に向けて出発しますかー。
「……なあ、ティーナ」
「んー、何だー?」
「こういうことって良くあるのか?」
「あるぞ」
宿場町を出発した俺達だが、そんな俺達の馬車の後ろを旅の集団が付いてくる。商団や子供連れの母親、出稼ぎらしき中年男性、武器をたくさん背負った職人など、様々な事情の人々がこちらから離れないのだ。
ティーナ曰く、別の町へ行く場合は魔物や盗賊から実を守るために護衛を雇う。冒険者だったり騎士団だったりと複数の選択肢があるが、金がかかるのは共通だ。身の安全には代えられないがなるべく出費は抑えたい。そこで騎士団や一流冒険者が移動する後ろを付いていく手段が考案されたわけだ。
「冒険者にとっては商売上がったりだから追い払いがちなんだけどなー。ほら、うち等は聖女ご一行じゃん」
「奉仕活動の一環と解釈できないわけでもないってことか。けどさ、便乗するだけだと俺達が連中を守る義務は発生しなくないか?」
「その通りだぞ。アイツ等が付いてくるのはあくまで自己責任。こっちは守ってやらなくてもお咎め無しだな」
「とはいえ、冒険者や騎士団に払う報酬を丸々懐に入れたままに出来る利点には代えられないわけか。で、今回は都合よく俺達が通りかかったからここぞとばかりに皆して頼ってきたってことだな」
「鬱陶しいと思うなら追い払ってもいいんだぞー。少なくとも冒険者は旅の邪魔する奴を排除する権利があるしなー」
「いや、いい。ケチくさいことは俺がしたくないし、そんな格好悪いと真似はミカエラが嫌う」
とは言え、ただ彼らに付いてこさえるのも何かあったら後味が悪いので、イレーネに最後尾で後方を守ってもらうことにした。俺達が先頭で進み、籠の上でティーナが全体に目を光らせる。
出発した宿場町で情報収集しても道中特に異変は起こっていないようだし、野生の魔物が出没しても難なく対処できる程度と聞いた。なのでそこまで用心はしていなかったのだが……あいにく神は俺達に試練を与えたがっているようだ。
「ニッコロ。丘の向こうから何か近づいてくる」
「っ! ティーナ、こっちに来る前に仕留められるか?」
「アレ相手にすぐ全滅させるのは難しいなぁ」
「おいおい、エルフの名射手が何を言って……」
ティーナが顔を向ける方向を見据える。確かに丘の向こうから何やらこちらへと疾走してくる四つ足の群衆が……ああ、成程。確かにありゃあ弓が効きづらいだろうな。その岩のように硬く分厚い皮膚は矢を通さないだろうし、何より数が多い。
ランドドラゴン。トカゲにも似た身体付きをした陸棲生物は四つ足で這うように素早く動くのが特徴だ。全長は成長した個体は人の数倍にも大きくなる。大きな口に噛まれれば身体は引きちぎられること必至だ。
「野生の群れが迷い込んできた、わけじゃあないよな?」
「当たり前じゃないですか。アレは超竜軍の先発隊ですね。さあ、出番ですよニッコロさん! 我が騎士の活躍を切望します!」
「へいへい。んじゃあ働くとしますか」
俺は馬車から降りて戦鎚を構える。
さあ、どこからでもかかってこい!




