半地下本屋は異世界ダンジョン
「こんなところに本屋があったんだ……入ってみようかな」
大学生の俺は、講義をサボって街中でフラフラしていたとき、いつもと違う通りを抜けたら、知らない本屋を見つけた。
レンガ作りで、半地下の入り口。
ランプをかたどった、レトロでおしゃれな看板。
いいじゃん、こういうの。
興味を持って、その店のドアを開けると、店内からひとりの女性が俺の胸に飛び込んできた。
「助けて下さい!」
彼女は、この本屋の店員らしく、店名のロゴが入ったエプロンをしていた。
アルバイトの女子大生……?
俺と同じくらいの年齢だろうか。
ポニーテールが印象的な、可愛らしい人だ。
女性が助けを求めているのだ、手を貸さないわけにはいくまい。
「何があったんですか」
「この店は、豊富な洋書の品揃えが売りなのですが、輸入した品物の中に、本物の魔法の本が混じっていたらしく……」
「本物の魔法の本!?」
「あふれ出た魔力で、店内は作り変えられ、奥底が知れぬダンジョンになってしまいました。今もダンジョンはリアルタイムで変化と膨張を続けています。魔法の影響でモンスターまで出現し、私のバイト先が魔窟になってしまいました」
バイト先が魔窟……って、なんかおもしろパワーワード。
でも、モンスターとか出るなら、ちょっと怖いかな……。
「お願いです、助けて下さい! 私の他にもバイト仲間や、お客さんが、まだ中にいるんです!」
「俺なんか……力になれるかな。ケンカ弱いし。警察とか呼んだ方がいいんじゃないですか」
「ですよね……。すみません、見ず知らずの方に、命知らずな冒険をお願いするなんて、私の方がどうかしてました」
「まー、RPGの冒頭ではよくあるシチュエーションですけどね」
「ああ、こうしている間にも、モンスターの触手で、私のバイト仲間の女の子はぬるぬるの触手まみれに! 服を溶かすスライムの攻撃で、あられもない姿に! そんな場所に行けなんて、危険すぎるお願いですものね……申し訳ありませんでした、警察に電話を」
「事情が変わった。俺が行く!」
「えっ、いいんですか! ありがとうございます、お客さん! 心強いです! 偶然ですが、ここに、”ひのきのぼう”と、”かわのたて”がありましたので、何かの足しになれば。あと支度金として100ゴールドも」
「ひのきのぼうとか、かわのたて、偶然あるもんですか!? 完全にRPGの冒頭じゃないですか。この100ゴールドって、日本円でいくらなんですか?」
「レートが1ゴールド=1円なので、100円ですね」
「自販機でドリンクすら買えない支度金……」
「さあ頑張って来て下さい! 魔法の影響で、本に書かれている絵や写真が実体化して襲い掛かってくる場合もあるみたいですけど……」
「マジですか……」
「(ひそひそ)当店には、18マークの暖簾の奥に、18歳未満は購入できない系の本も揃えておりますので」
「よっしゃー! 行ってきまーす! 待ってろ18マーク!」
こうして俺は、変化と膨張を続ける本屋の半地下ダンジョンに踏み出した。
(つづ……かない)