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第七章

第七章


「ああああああああああああああ……」

「……そんな怖い声ださないで」

「いやだってさ」

「落ち着いて」

「むりだよぉ」

「代表生徒になれなかったことは残念なことで。でも運営委員に選ばれたのはいいことよ。勉強になるっておっしゃってたから」

「それはそうだけどぉ……」

 ツユをなだめるロカ。

 代表生徒の発表があったのちに、運営委員の発表も行われた。

 全校生徒集合だったが、皆さん動きに無駄がなかった。おかげでスムーズに運んで。

「みんな知りたがってましたもの。隣の人かもって」

「ふふふ。皆様のご協力があったため、予定より早く終わってよかった」

 ツユとロカの部屋でお茶をしている。

「まさかツユが運営委員に選ばれるとは思わなかったわ」

「……あの場で叫ばなかったことをほめたいと思います」

 ロカが、頭を抱えバタバタとしているツユをみて、苦笑している。

 確かにあの場では、冷静を努めていたけれど、今のこの子の様子をギンシュ様がみられなくてよかった。

「ねえツユ」

「……はい」

「他の運営委員の方とはお話できたの?」

「はい。しました。ご挨拶も兼ねて」

「その印象は?」

「とても穏やかな方が多かったです」

「今後会議が行われるから、そういう印象を持っているのならよかったわ。準備などでバタバタするとどうしても、余裕がなくなってしまうことがあるから。落ち着いた方たちならそういう不安もへるでしょう」

「そもそもそういうことが起こりえるってことですか!」

「あら。なにが起きるかわからないでしょう」

「アベリアさん。あまりツユをからかわないでください」

 ロカが苦笑いを浮かべている。

「あらあら。ふふ」

 かわいらしい二人だ。

 わたわたとするツユ。

 困ったように笑うロカ。

 本当にこの二人は素直ないい子だ。


 :       :     :


 会議は適時行われていて。

 一生懸命動いているツユを見て、ロカがほほ笑んでいる。

「がんばっているな」

「ええ。とても優秀な子です」

「君の自慢の担当一年生だね」

「名誉あることだと頑張っています」

「……君が栄誉あるだなんて」

「おかしいでしょうか」

「そんなものに君自身は興味がないだろうにね」

「何が名誉かどうかは人によって異なりますよ」

「そうだな。そんな君が指導生を務める子は、名誉だと考えてくれている。押しつぶされないといいな」

「どういうことですか」

「いや? 他の運営委員はあまり働いていないようだからな」

「当日の仕事のほうが多いですから。そこまでの業務は寮長であるお三方の業務が多いですから」

 運営委員が決まるまでの間も準備があった。他校との連絡。開催校として視察対応もあった。開催の知らせの手紙も、来賓への連絡も。学園との交渉も。

「学園側がしてくれればいいのにな。まあ勉強になるからいいのだけれど。明日の会議は大会二日前にくる代表生徒の受け入れについての確認だったな。なんで前入りするんだろうな。会場を確認したい、応援にくる他生徒と分けたいということらしいが、先生たちとしても、ばらばらとするのは気にならないのだろうか」

「例年通りということですが。こちらが一度に対応しなくてはいけないのは大変だろうかというのもありますが」

「手分けして対応するという話なのにな。すまない。今いったところでどうにかなることでもないのだが。つい出てしまった」

「いえ」

 ギンシュ様がこういったことをおっしゃるのは確かに珍しい。

 お疲れなんだろう。

 愚痴のようなもの。こぼしていただける相手になったということだろうか。

 ……まあいい。それも側付きの務めだ。

「お茶を淹れてもらえるか」

「承知いたしました」

 何を淹れようか。

「どうしてだれも何も言わないんだよぉ。俺が突っ込むしかないのか?」

 ツーアリア先輩が大げさに頭を抱えている。

「口ではなく手を動かしてください。まだすることは残っているんですから」

 コンペキ様の淡々とした声に。

「こちらの確認をお願いいたします」

「ここはこっちにお願いするわ。これはまだいいと思う」

 キタ先輩とリョクスイ様が書類を確認されている。

「いやいやいや。そうはいってもな」

 手を動かし始めてツーアリア先輩。

「こちらに置いておきますね」

「ああ。ありがとう」

 新しく淹れた紅茶を置く。

「休憩にいたしましょうか」

 キタ先輩が手をパチンとたたかれて。

「そうしましょうか。コーヒーを」

「はいはい」

 慣れた手つきでツーアリア先輩とキタ先輩がそれぞれに用意をされていく。

「俺が邪魔をしましたか」

「いや。ちょうど集中力も切れてきたので。息抜きは大切ですよ」

「ふふ。運営委員にも動いてもらっているとはいえ、することが多いのは確かね。そうそう。先ほど話題に出していたけれど。二日前入りする生徒たちの事だけれど」

「書類申請はきちんと受理されていたよ」

「ありがとうございます。学園側との交渉はコンペキ様がご対応してくださっていましたものね」

「前入りの理由としては、会場の確認。安全の確認ってことらしいが、例年ただ前入りだけして、のんびり過ごしているという記録だが」

「ギンシュのいう通り昨年は例年通りだったよ。ただ今回はそうはいかないかな」

 明日の会議の話が始まった。

 皆様、休憩はどうされたのだろうか。

「特にインペトム学園は少し警戒した方がいい。今季の生徒会長はなかなかに好戦的な方と聞く。一方でアパタイト学院はつながりを重視する傾向にあるらしい。学園対抗大会のきっかけに、寮長と議会のつながりを求めてくるだろうな」

 ツーアリア先輩の他校情報。


 ……学園の名前としては知っているし、どの地区にあるのかというのも知ってはいるけれど。


「例年の対応を予定しておいて。念のために会場の安全確認が入っても大丈夫なように、学園側には安全装置を見せられるように話をしておこうかなって思ってます」

 キタ先輩の報告に、リョクスイ様が満足げにほほ笑んでおられる。

「安全装置の確認だけですめばいいがな。正直こえーんだよ。あいつ来るかもって思うと」

「彼の事は共有する必要はないでしょう。今年度の代表生徒にはなっていないのだから」

 彼というのは誰の事だろうか。

「あら。その彼とはどなたのことでしょうか。私も何人か他学園には知り合いがいるからわかるかもしれないわ」

 リョクスイ様がにっこりとほほ笑んでいる。

「少なくと代表生徒ではないようだな」

「……」

 ツーアリア先輩を見るコンペキ様の眼が少し怖い。

「別に隠すことじゃないだろ? 去年面倒だったし、それに去年の記録みたらわかることだしさ。でね。こいつなんだけど」

 そうおっしゃって、去年の記録を示してくださった。

 指をさされたところに記載されていた名前。

「ああ。あの学園か」

 ギンシュ様が納得された様子だった。

 残念ながら私は知らない方だったけれど、他の皆様はご存知の用で。

「確かに彼ならそういうことをいって確認したがるのもわかります。……今年もそれはありえますね」

 そうリョクスイ様が少し微笑みを崩された。

「え? 今回の代表生はいないだろ? 似たやつでもいるの?」

 ツーアリア先輩が代表生徒の資料を眺められている。

「代表生ではなく執行部や生徒会のほうです。今年度からメンバー入りしたようですわ」

 示された書類に記載されている名前。

 こちらも残念ながら私の知らない方だった。

「この子。私の遠い親戚すじに当たるのですがこの学園のことをあまりよく想っていないのです。まあ。自分が落ちたというのが大きいのでしょうけれど。合否の発表からずっと、この学園はよくない。私を落とすなんてありえない。わかってないってずっと言っていて。まったく品のないことをするものだとご両親が頭を抱えていると聞きましたわ」

「そんな生徒が。という言い方はよくないけれど。そんな生徒がどうしてそんな重大な役割を?」

「ギンシュ。この学園事態がこちらにたいしてあまりよく想っていないんだよ。昨年の代表生徒だった彼もこの学園の生徒だしね。安全性に対して穴があればそこを突きたいという考えは他の生徒も同じだったようでね。去年も止めるどころか、あおるようなことを言っていたよ」

 コンペキ様も言葉を選ばれなくなって、吐き出されている。

 よほど面倒なことだったのかしら。

「言われた時のために、しっかり確認しないとな」

 ツーアリア先輩がその日の確認を日程表で確認されている。


 お父様の作られた安全装置。

 お父様が作られたものに欠陥などない。

 だからそもそも疑うこと事態がありえないことだけれど。

 ……お父様が作られたものだから疑っているとも考えられるのか。


 :       :           :


「お待ちしておりました」

 コンペキ様を先頭に最後尾は私。

「ああ。よろしく頼む」

「出迎え、ありがとう」

「よろしくお願いいたします」

「……よろしく」

「……」

 五者五様の態度。

 コンペキ様が笑みを絶やされていないし、ギンシュ様も表に出されていないので、私も目を伏せて待つ。

「こんにちは。……今はリョクスイと呼ぶべきかしら」

 スッと前に出てきたのは、話に聞いていた親戚の方。

「ええ。そうしていただけると嬉しいわ。他学園の方だけれど、郷には郷に従えという言葉があるでしょう」

「承知いたしました」

「ありがとう」

 にこやかにほほ笑むリョクスイ様だけれど。その笑みはどこか怖い気がする。

 いつも我々に向けるような柔らかいものではない。

 ……怖いな。

「はい。会長。いいでしょうか」

 親戚の彼女が手をあげられて。

「今大会の安全性の確認をしたいのですが」

 これがリョクスイ様のおっしゃっていたことか。

 リョクスイ様の笑顔がピクリと動かれた。

「と、うちの後輩が言っているがどうだろうか」

「安全性の確認とは何をどう確認されますか」

 コンペキ様がいつもの笑みを浮かべて対応されている。

 予定調和というように。

「会場でいくつか魔法を展開させてください」

「それはかまいませんよ」

 コンペキ様は笑みを崩されない。

「その前に。皆様の宿泊場所に案内をさせていただければと思います。お荷物もありましょう。時間はまだありますので。のちほどということで」

 そうおっしゃって、運営委員が前にでて。

「皆様を案内させていただきます」

 スッと頭を下げる運営委員たち。

 ひいき目だろうが、ツユのお辞儀が特別きれいに見えた。

 ……あの子一段とそういう点に気をつけていたから、その成果かしら。

「ありがとう。ただ個人が魔法を放ったとしても効果はないだろうから、対戦にしてはどうだろうか。実際種目に対人戦はあるだろう」

 そっとコンペキ様に目を向けた。

 笑みは崩されていない。

「対戦ですか。一度検討させていただいてもよろしいでしょうか。それでもし怪我をしても責任の所在となってしまっても困りますから」

「おや。怪我をするということは安全性の確保がされていないということを暗に示しているのかな」

「揚げ足をとるようなことはやめてください。安全性の確保すなわち無傷ということではありませんから。多少のけがや魔力の消費はつきものですよ」

 コンペキ様の声は終始落ち着かれていて。

 二人の会話を他の皆様は黙認されている。

「他の皆様はどうでしょうか。安全性についてどこか不信感などありますでしょうか。もしそうであれば、確認をご覧いただければと思います」

 ここでの立ち話は意味がない。時間の無駄。

 コンペキ様の対応はとても落ち着いていて、おだやかで。

 少し怖いとすら思ってしまう。

「対戦するとしたら、だれが出てくるのか楽しみです。いいだしたのは私ですから、私に行かせてください」

 嬉々とした声が聞こえてくる。

 ……。

「さて。先生たちに報告をしてきてくれる?」

「ほーい」

 コンペキ様がツーアリア先輩に指示を出された。

「学園側が許可を出さない理由はないので。対戦ってことになるんだろうけれど。どうします?」

 ツーアリア先輩がおられない状態で決められるということは、参加させたくないということ?

 ツーアリア先輩が対戦されるところを見たいという思いもあるけれど、コンペキ様が数に入れていないということは、参加させたら問題になるという判断だろうな。

「あの子がでるのなら、私がいいのでは?」

 リョクスイ様が手をあげられた。

「それであれば、自分が出ます。危険です」

「あら。私の心配? 不要よ?」

「いいえ。相手の心配です。手加減などされないでしょう? それにあなたが勝つでしょう? そうなれば遺恨ができてしまうでしょう? 相手はただでさえ、この学園に対して敵意しかないのですから」

 ……声色が厳しい。

「あらあらあら。あの子の事を心配するのに、私の事を心配しないだなんて。側付きとしてどうかしら」

「側付きとしてあなたの実力を正しく理解しているからのものです」

「ふふふ」

 空気は変わらないあたり、お二人の間では当たり前の会話なんだろうなと理解する。

「俺が出ようか?」

「やめてくれるかい? それこそ手加減なしで、いくら安全装置があったとしても、無茶をするでしょう」

 ぬっと顔を出されたツーアリア先輩が会話に入られた。

「おかえりなさい」

「ほいほい。ただいま戻りましたよっと。で。俺もだめ。リョクスイ達もだめ。ってなったらコンペキお前か? はたまたギンシュのお二方か?」

 私にふらないでほしい。

 ギンシュ様に目を向ける。

 ……とてもにっこりと笑っておられるのが。

「俺としては側付きを推薦するかな」

「なぜですか?」

「コンペキ様もご存知だと思いますが、彼女の腕は相当です。負けるはずがない。というのと。彼女はここでは一番下の学年になります。相手をあの生徒がするのであれば、学年が異なります。勝敗がつくのかどうかもわかりませんが。こちらが負けても、花を持たせた。また下級生です。上級生が勝って当たり前ということで大したことではないでしょう。また、こちらが勝てば、安全装置の証明のために精一杯彼女が務めたというだけのこと。側付きとして仕事をしたと言えますよね」

 なんとも適当な。

「無理があるように思うけれど。リョクスイ。君はどう思う?」

「あらあら。私はあの子とこの子であれば、こちらが勝つと思いますわ。それに」

 にっこりと私に笑いかけて。

「あの子に劣るものをギンシュが側付きにしたとは思えないわ」

 ……買いかぶりすぎである。

 どうしてか皆様、過大評価しているのだけれど。

「さて。当の本人はどうかな」

 こちらに視線が集まる。

 ツーアリア先輩もキタ先輩も。私なら大丈夫という目をされている。

 ……ギンシュ様の推薦だ。応えるのが務め。

「承知いたしました。ギンシュ様の推薦に応えます。精一杯務めます」

 スッと頭を下げる。

 ……さて。どうしたものか。

「無理に引き受けたのではなくて?」

 リョクスイ様が更衣室に入ってこられた。

 制服では埃や砂で汚れてしまうから。動きやすい恰好に着替えているところで。

「いえ。私がすべきことであれば、行うまでのことですので。一ついいでしょうか」

「あら。なにかしら」

「どこかいいところで止めていただけますか? きっと終わりなどないでしょうから」

「あらあらあら。ふふふふ。そうね。私が間に入るわ」

「よろしくお願いいたします」


 さて。どうしましょうか。

 安全装置の作動は問題なく行われている。

 昨日のうちに起動の手順は問題なく行ったし、お父様の作られたもので不備などなくて。

 少し大げさにした方がいいのだろうか。

 構築式も詠唱もどちらもいれよう。

 ……ツユとロカ。あの子たちのマネをしようかしら。

 ふー……。

 ここに私が立つことになるなんて。

 顔をあげた。

 観覧者席に各学園の代表生徒たちも座っている。

 ギンシュ様たちの場所も確認した。

 ……そんな目で見ないで。

 大丈夫よ。ツユ。

 少しだけ笑みを深める。


「あら。あなたなの」

「よろしくお願いいたします」

 目を合わせずに頭を下げる。

 この方の眼は悪意に満ちている。

 運営委員に頼むというのも頭をよぎられただろうけれど、この役目をあの子にはさせられないし、この眼にさらしたくない。

「まあいいわ。はじめましょう」

「はいはい。それでは。いざとなれば私が間に入って止めるわ。いいわね」

「お願いいたします」

「……ええ」

 いつも以上に笑みを深めて、リョクスイ様が合図をされた。

 ……詠唱と構築式。どちらもしてきたのか。

 私は。

 風で囲みそこに火も加えて。

 火の柱の中に閉じ込めた。きっと出てくる。

 私に向けられたものは水の龍の形をしたもの。

 こちらに向かってくるから、杖を足に向けて、身体強化をして。

 攻撃をよけていく。

 音がうるさいけれど、ギャラリーにはある程度抑えられているはず。お父様の組まれていた式にはそういったものがあった。魔法の内容によっては鼓膜を破るほどの音が出るものもあるから。

 パリパリパリ。

 ……あら。柱が凍りついていった。

 水関連の魔法が得意なのかしら。

「この程度?」

 杖でドアを描いたのか、その形で氷の塊が外れた。

 そのまま杖を私に向けられて。

 スッと上にあげられた。

 龍からの攻撃をよけながら、杖の先に視線を向けると。

「雲?」

 色の悪い雲が漂っていて。

 ゴロゴロと音を立てている。

 ……雷か。

 確か水と電気って組み合わせたらだめだったはず。

 観覧席は流れ弾が当たらないようにしてるけれど。……それも示しておくか。

 杖を下に向けて。

 剣の形をかたどって。龍の水も借りて氷でコーティングして。

 ガシャーン。

 と私めがけて落ちてくる雷をよけて。

 左手に注視する。

 円状になっているこの場所に格子を描いて、番号を振っている。その番号でどこに雷を落とすのか調整している。三手まとめて決めているようね。そこから落ちてくる順番はランダムと。……よし。

 一気に距離を詰めて。

 三列前まで近づいたところで。左手に持っていた剣を観覧席に向けて投げた。起動に雷が落とされる場所をいれて。

 っん。

 なかなかの音が響いたし、破片も飛び散ったけれど。安全装置が作動して、防御膜が張られている。

 安全装置の作動を示すことができたかな。

「なによ! 馬鹿にしているのっ!」

 落ちてくる雷の量が増えた。

 ……。

「よけるばかり。攻撃する気なんてないじゃない。どういうことよ」

 ……。

「私を見なさい!」

 龍の速度も速くなっている。

 さて。龍と雷によって足元はぬかるんでいるし、ぼこぼこになっている。まともに走ると足を取られてしまうかもしれない。

 だから。

「失礼いたします」

 そのまま横を通りすぎて後ろに回って。

 首に杖を当てた。

「あっ」

 とっさに杖を手で払いのけたことで。

 杖を持つ手をつかんで。

 足を引っかけ押し倒して。顔の真横に雷を一つ落とした。


「とっても良かったわ」

 リョクスイ様はとても満足されたようで。

「ひやひやしました。あの一手は」

 キタ先輩は苦笑い。

「あら。私にはちゃんと視線をくれたわよ」

「はい。あの瞬間にリョクスイ様が雷と受け止めてくださるように合図をさせていただきました」

「まさか、粉々に散った氷の中に文字をいれるなんて考えもしなかったけれど。ふふふ」

 お父様がお母様にされたことの一つで、氷の中に文字を刻み込んでいて、それを粉々に割った時、キラキラと反射すると同時にサプライズで伝わるといった形らしい。砂をまぜていたから、読みにくかったでしょうに。リョクスイ様は正しく拾い上げてくださった。

「私はまだやれます。決着がついていません!」

 大きな声で自身の先輩に訴えている。

「勝敗を決めるものではないはず。会場の安全装置の動作確認だった。それは達成されたはずだが」

「ですが」

「あらあらあら」

 リョクスイ様がにっこりと笑って。

「勝敗つけたかったかしら?」

 私の方を見られても。

 ……。

「皆様が学園の安全に対し不信感をお持ちならば何度でも。ご納得いただけるまで対応いたします」

「その! その張り付けた仮面のような笑みで、心にも思っていないでしょう! 私は負けてなどいません。あの時止めずに続けていれば」

「そこまでだ。すまない。後輩は失礼なことをいった」

「いえ」

 表情を変えない。

「私からも謝るわ。親族が失礼したわ」

 リョクスイ様と会長が頭を下げたことで、ぐぐぐっと唇をかみながらひきさがられた。

「他の皆様はいかがでしたか?」

 コンペキ様が他の生徒の方に目を向けられた。

「しっかりと確認した」

「こちらも満足している」

 他の学園の方々はそれぞれうなづかれている。

「それならよかったです。ギンシュ側付き。ありがとう」

「いえ。務めをはたしたまでにございます」

 とっても嬉しそうにしているギンシュ様にホッとした。

 ギンシュ側付きとしてコンペキ様から感謝のお言葉をいただけたし。

「観覧席の安全性に会場の耐久性。どちらも示すことができてたな。こっちに投げられた時はなかなかに驚いたが。あの二人真似した感じか?」

 ツーアリア先輩がにやにやとされているので。

「精いっぱい頑張りました」

 とだけ答えた。

 誰をまねたかなど、あの子たちだけがわかっていればいい。

「そっか」

 にっこりとほほ笑んでくださった。

 後ろには運営委員がいて。

 うん。

 私はちゃんとギンシュ側付きだ。

「さて。今日はもう休みましょう」

 とコンペキ様の言葉に、それぞれ部屋に戻っていった。

 寮長たちは一度部屋に戻り、再び会議室で打ち合わせをすることになっている。

 ……ふう。

 部屋にはって一息ついた。

 そっと足首をなでる。

 少し痛かったけれど、問題ないかな。

 無茶をしたのかもしれない。身体強化は試験の時に使うことがあるから慣れていたけれど、今日は少しだけその範囲を広げていた。通常よりも強化度合を高めていた。そのせいかな。反動が来ている。

「ロカです」

「ツユです」

 ノックと共に二人の声がした。

「どうしたの?」

 運営委員には今日はもう休みに入ってもらっているのだけれど。

「お疲れさまでした」

「お疲れ様」

「少し顔色が悪く見えたので。大丈夫ですか?」

 ……あら。

 出した覚えはないのだけれど。

「ふふふ。大丈夫よ。ありがとう」

 そっと廊下にでた。

「ならいいのですが。……この花。ドアに立てかけてありました」

 あら。

 私が戻ってきて、二人が来るまでの間に置かれていたのかしら。

 ロカの手から渡されたのは。

「黄色いバラね。ありがとう」

 ……あの方かしら。

「バラって、色や本数によって意味が違うと聞きました」

「そうね。ありがとう。部屋にいれておくわ」

 とりあえず中に入れて、一輪挿しにさしておく。

「この後会議があるとうかがっています。お邪魔しました」

「いいのよ。他にはいいのかしら。何かあったのでは?」

 私の顔色を気になってきただけとは思えない。

「……あの生徒の言葉が気になって。怒っておられなかったですが、私は嫌だったので」

 うつむいている。

「聞きました。安全装置の確認のために手合わせをされたと。とても勉強になったと」

「勉強になったのならよかったわ。私も勉強になったから」

 どうすればお父様の安全装置が作動するのか。それを知ることができたし。

「ご気分を害されたのではないかと」

 二人が私を気遣ってくれている。

「大丈夫よ。私はただ務めを果たしただけだから」

 二人の背中に手をまわす。

「気にしてくれてありがとう。いい子を担当できてうれしいわ」

 

「そうか。双子が気にしていたのか」

「ええ」

「ごめんなさいね。本当に」

 リョクスイ様が申し訳なさそうにされている。

「リョクスイ様は悪くないです。あの方が悪いのですから」

 キタ先輩が紅茶のカップを置きながら、苦笑されている。

「会長に小言を受けたようだったよ。ちらっとそんな様子を見受けた」

「俺もそれ見たわ。コンペキも見てたんか」

 コンペキ様の横にドカッとすわっておられるツーアリア先輩。


 今日一日皆様お疲れの様子。

 ギンシュ様に入れた紅茶は甘みのあるものにしたけれど。二杯目は後味が残らないものでスッと抜けるものにしようかしら。お茶菓子はツーアリア先輩が用意してくださったおせんべい。ぱりぱりといい音が響いている。


「さて。今日の報告と明日の確認できたね。書いてある通りだよ。よろしく頼むね。これは運営委員にも共有しているから。はあ。ここからは気を抜いてもいいかな」

 コンペキ様がだらっとされた。

「何飲む? いれるぞ」

「あまいのをお願いできる」

「ほーい」

 お二人の軽い会話を横に。

「私は次、甘くないのがいいわ」

「承知いたしました」

「俺はコーヒーをお願いしても」

「承知いたしました」

 それぞれが希望を出されたので、それに動く。

 香りがふわっとそれぞれからわいて。

「ありがとう」

 カップを置いて、所定の場所に戻ろうとすると。

 ポンポン。

 と椅子をたたかれた。

 ……。

 スッと座った。

 キタ先輩の横に座っておられる。

「今日一日お疲れ様。他校の生徒の案内は運営委員がしてくれるからこちらが会うことは減る。教員は教員が対応する。代表生徒同士は大会開始まで顔を合わせないように別区画にいてもらっているから鉢合わせがないように対応しよう。っと。もう会議は終わったのにね。ごめんね」

 コンペキ様が再び書類を手にされていた。

「そうだぞー。はい。おしまーい」

 子どもに言い聞かせるように書類をひょいっと取り上げられた。

「ふふふ。まだ始まったばかりなのでしょうけれど。私も疲れました」

 リョクスイ様も少し力を抜いた座り方をされている。

 ……皆様お疲れの様子。

「君は大丈夫かい? 魔力消費がはげしいだろう」

「問題ありません」

 魔力という点であればたいして減っていない。あの程度であればそこまでだ。

「たのもしいな」

 ……今日は終始ギンシュ様が嬉しそうにされている。

 この様子をみて、他の四人の方もニコニコとされている。

 ……まあいいか。

「ギンシュ側付きとして恥じぬよう今後とも精進いたします」

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