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恋愛小説

 昔、といってもほんの五、六年前のことなのだけど、僕は御徒町の四階建てのマンションに住んでいた。そのマンションは当時僕が勤めていた会社の借り上げ社宅で、僕の前には身寄りのない十八歳の女の子、その前には僕より一回り以上歳上の林さんという社員が住んでいて、女の子は彼氏と同棲を始める為に出ていって、林さんはその時の彼女が妊娠して結婚して広い家に越すために蔵前の1LDKのマンションに引っ越してちょうど空いていたタイミングで僕が入居することになった。社内では恋愛運の向上に効用がある物件だと噂する人もいた。

 二十歳の僕は一人暮らしの経験も家財道具を揃える資金もなかったので、その女の子が置いていった全てで生活をやりくりした。会社まで徒歩十分も掛からないし一人暮らしをする分には十分な広さだったので僕は何の文句もなくそこで新しい生活を始めた。

 この家の唯一の問題点は隣の部屋に住むネパール人が何やら怪しい宝石関係の会社の事務所として借りているようで不特定多数のネパール人の出入りがあって、何やらネパール語の電話や口論の声がたまに漏れ聞こえてくるくらいだった。住んでしばらく経つと、ゴミ出しや何やらで何度か顔を合わせるようになった。彼らもまた隣の部屋は定期的に住む人が変わる部屋だと知っているようで、歴代の隣人との付き合い方について説明してきて、前任者たちに聞いてもどうやら上手い関係で付き合っていたようだったので僕も何となくたまに世間話をしたり、彼らが仕事上で接する日本人に対しての社交辞令やビジネスマナーについて相談を受けたが、当時の僕の社会人経験ではよく分からないことの方が多かったので、彼らに同情する立場でやり過ごしていた。


 部屋は殺風景で女の子の置いていった小物類を捨てると余計に広く、そして築年数を感じる壁についたヤニや破れかけている網戸に目が開くようになったが、掃除は隅々まで行っていたし、何より物が溢れていない部屋に対して満足だった。

僕は大学を休学してその会社に入社して、経理の真似事や会社が展開する飲食店の手伝いなんかもしながらそれなりの収入を得ていたので、上野の中町通りに飲みに出たり、大学時代の友人たちとキャンパスのある明大前の方で飲んでいた。

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