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やりたかった事

 

「先輩、本当に大丈夫なんすか」

「全然問題ないよ」


 問題ない事を表すように僕は力瘤を作ってみせた。


「俺よりも、紗倉(さくら)の方こそ大丈夫だったか? 怪我とかしてないか」

「……あたしの方は、先輩のおかげでなんともないっす」


 ショッピングモールを後にした俺たちは、屋敷を目指して日が暮れ始めた住宅街を歩いていた。

 紗倉の手には無事に戻ってきた服屋さんの袋が大事に抱えられている。


「本当に良かったっす」

「そんなに大切にしてくれるなら買って良かったよ」

「当然っす! あっ、でもあんな無理はもうしないでくださいっす。本来ならあたしが先輩を守らなくちゃいけない立場なんすから」

「えー、女の子に守られるのってダサくないか?」

「何を言ってんすか。先輩はあの大上(おおがみ)家の時期跡取り、大上大地(だいち)様なんすよ。何かあったら大変っす」


 きっと現当主である親父でも同じ事をしたと思うけどな。


「紗倉だって女の子なんだから、ああいう時は無理しちゃ駄目だろ。頼れる時は男に頼りなさい」

「あの時は、必死だったからノーカンっす」

「それ使い方間違ってないか?」


 それにしても、本当に大事にならずに済んでよかった。

 警察の人もまさか俺が大上家の嫡男って事は気付いてなかったっぽいしな。……たぶん。


「そういえば、結局最後にゲームで遊べなかったな」

「えっ?」

「ほら、言ってただろ。ゲームセンターで最後にやりたい事があったって」

「あー、それゲームじゃないんすよ」

「えっ、そうなのか?」


 場所がゲームセンターだっただけに、てっきりやりたいゲームがあるのではと思ったがどうやら違ったらしい。


「先輩と、プリクラを撮りたかったんす」

「プリクラ……?」


 聞き覚えはあった。しかし、どういったものかまではよく分かっていなかった。

 撮る、という事は撮影するものである事は確かなんだろうけど。


「写真が撮りたかったって事か?」

「写真……。まあ、そうっすね。思い出が形に残るんで」

「ふむ……」


 確か、プリクラというのは女性に人気らしいが男の俺からしたら。


「スマホで撮るのじゃダメなのか?」

「えっ」

「いや、プリクラはダメでもスマホでならいくらだって撮ってやるぞ」

「いいんすか!」

「もちろんだ。ほら!」

「…………何やってるんすか? 先輩」


 表情が明るくなったかと思えば、スマホに映る紗倉は何やら不服そうな顔をしている。


「いやほら、写真」


 俺はもう一度スマホを構えるが、紗倉はポーズを取るどころか肩を落としてしまう。


「はあ……。相変わらず先輩は先輩っすねー」

「ん?」

「そうじゃなくて、撮るならこうっすよ」

「うわっ!」


 紗倉は俺の腕に抱きついて、自分のスマホを空に掲げた。


「ど、どうしたんだよ急に!」


 ち、近い。それに腕に柔らかい感触が……。


「どうしたもこうしたもないっす。あたしは先輩と写真が撮りたかったんすよ!」


 いきなりの大胆な行動に、俺の体温は急上昇。

 な、なんだか分からないが、胸が締め付けられるくらいドキドキしている。


「ほら、先輩! スマホの画面見てくださいっす」


 そう言われて上を見ると、俺と紗倉の顔が画面に映っているのが見えた。

 その瞬間、紗倉はシャッターを切る。


「写真って、二人でって事だったのか……」


 俺の腕から離れた紗倉はスマホを操作しながら言った。


「当たり前じゃないっすか。一人でプリクラ撮る人なんてあまりいないっすよ」

「そ、そうか。でも写真なら屋敷で何度か撮った事あるだろ?」


 俺の部屋にあるアルバムには、昔紗倉と二人で撮った写真が何枚か残っているはずだ。


「あんな社交的な奴は意味ないっす。先輩とのプライベートな写真があたしは欲しかったんすよ」


 確かに、さっきの写真はそういうラフな感じではあったな。

 まるで俺と紗倉が……。いや、俺と紗倉はそういう関係ではないか。


 ピロン。


「ん?」


 すると、俺のスマホに一件の通知が入った。


「はい! 先輩に今の写真送ったから受け取って欲しいっす」

「ん、了解」


 スマホに送られた添付ファイルを開くと一枚の写真が画面に表示される。

 少し緊張気味な俺と、笑顔いっぱいの紗倉との二人きりの写真。

 プリクラは撮れなかったけど、こういう写真を撮るのも嬉しいものだな。

 俺は紗倉から送られた画像を保存する。


「…………」

「どうかしたんすか?」

「いや、なんでもないよ」


 俺は紗倉にバレないよう、そのままその画像をこっそりとホーム画面に設定するのだった。


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