無愛想で麗しい君は、
「お、今日も早いなぁ千秋くん」
「うす」
短い間隔で昇る白い息と軽快な足音が、俺の存在へ気付いて緩やかに消え去った。
無愛想な略称された朝の挨拶はもう慣れたものだ。
「毎日毎日寒いってのによくやるねぇ。普通怠けたくなるのに」
「青地さんこそ散歩すか」
「そんなところ。最近妙に目が覚めんのが早くてさぁ。二度寝できるほど若くもないから軽く、ね?」
「はぁ、そうすか」
聞いておきながら生返事に近い、興味皆無の頷きへ「相変わらず覇気がないな」と顔を顰めそうになる。
しかし静かに息を整えている様子にぐっと不満を飲み込む。
顎下に伝う汗を手の甲で拭い、乱れた髪を適当に撫でつける仕草は雑把そのものだ。
だが年頃の若造より顔が整っているせいか、一つ一つの振る舞いがやけに様になって映る。
同性の俺が評価するのだから、異性から散々黄色い声を浴びているに違いない。
「君さぁ。好きな女の子とかいないの?」
「藪から棒になんすか」
「いやさぁ。一度だって浮いた話を聞いた事ないじゃない。彼女がいる気配も自慢げにモテ武勇伝を話すこともないし」
「別に興味無いんで」
会社の部下たちと比べものにならない欲無しだ。たまたまランニング中の彼と顔を合わせた時からそうだが、いまいち俗じみた会話に興味がない。匂いさえ感じない。
ゆとり世代というか、さとり世代というか。
「というか女の人に言い寄られても困ります」
居心地悪く首を撫でる千秋くんに眉を顰めた。
「なんでまた。手放しで喜ぶことじゃないの。可愛い子に好きです! って言われたらさぁ」
「いや……自分にはどうしてあげる事もできないし」
「いやいや。そこは付き合ってあげればいいんだよ」
「……えっと」
歯切れが悪く呟いた千秋くんが俺を真っ直ぐに見つめる。
言いかけては口を噤むのを繰り返す彼に、一体何なんだと訝しげると。
「青地さん……自分のこと、男だと思ってませんか?」
「…………は?」
超ド級の爆弾が千秋くんから放たれた。