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93、ようやくの再会と、仲間の新たな謎

間一髪、ライゼの危機を救う形で合流を果たしたアオイたち。長らく行方不明となっていたアルルとライゼはようやくの再開を果たす。しかし合流は「めでたし」では終わらない。新たに合流したモモの口から出た、驚きの言葉とは。

 



 ※※※




「……何だその顔は」


 俺はよほどのアホ面をさらしていたに違いない。一瞬でライゼの顔がいつも通りのしかめっ面に、加えて怪訝な表情へと変わる。


「あのライゼが、笑って、お礼を……? 天変地異の前触れか……?」

「は?」

「なんでもないです! ──それより」


 ついでに思わず口から出た素直な感想によって、怪訝な表情へさらに眉間の皺が追加されてしまった。しかしそれだけ衝撃的だったのだ。あのライゼが、いつも若干迷惑そうにしている感が否めない奴が、笑って素直にお礼を言うなんて。あいつのことだから「真剣勝負の邪魔をするな」くらいは言われそうだな、なんて思っていたのに。

 が、今はそれよりも注目すべきことがある。目の前の部屋の惨状についてだ。


「わ、私たちがいない間に何があったんです? 確か、そっちは仲間として潜り込む計画だったはずじゃ」

「ああ、こちらの目的がバレたから襲われた。だからその相手をしただけだ」

「……『だけ』で終わらせていい状況に見えないんですけど」


 最初に通された部屋は短時間でこれだけ変わるかと言いたくなるほどに、散々な有様だった。倒れている下っ端の山に、その中からにょっきりと横たわって伸びている大きな足。そして部屋のあちこちに飛び散った赤。

 俺がちらりと伺うように見上げれば、ライゼは顔をさっと逸らした。そんなことをしても頬にべったりついた赤い跡は丸見えだというのに。


「あの、怪我」

「大事ない」

「いやこんな飛び散ってるのに大事ないも何もないですって。いいからさっさと」

「いい。そんなことよりお前たちの方こそどうなっている」


 伸ばした手を軽くぺしりと手の甲で跳ねのけ、構っている場合かと言わんばかりに迫ってくるライゼ。吐血を「そんなこと」で片づけていいわけがないが、何も知らないこいつからしてみれば、自分の身体より何が起きたかの方が気になるのだろう。

 確かに、これはしょうがない。だって分かれて行動してから数時間、こっちであまりに多くのことが起きすぎているのだ。


「聞いたぞ。エイドリックを切りつけ、逃走したと。そっちで一体なに、が──」


 が、今は何より優先すべきことがあるだろう、ライゼ。

 さらに追及しようとしたライゼが俺の背後に気が付いた途端、口が固まり、目が丸くなる。その視線の先、気まずそうに俺の後ろに隠れようとした彼女を、黙って奴の前に押し出した。非難するような目が向けられるが、心を鬼にして耐える。


「…………ぁ、ぇと、ライゼ、お兄ちゃん、その」

「……」

「え、ぇぇ、と、私、あの、薬を、探そうって、思って」

「……」

「そ、そしたら色々話、聞いて、気づいたら、思ってたより、長く、いちゃったみたい、で……一か月以上行方不明だったっていうのも、お姉ちゃんから聞いて、さっき初めて気づいて」

「……」

「……その、あの……た、ただいま?」

「……、はぁ──────……」


 恐る恐るそう口にしたアルルに、ライゼは固く引き結んでいた口をようやく開くと、それはそれは長いため息をついた。そして肺の酸素が全部出きったんじゃないかと思うくらいの息継ぎなしのノンストップため息をやっと終えると、彼女の頭の上へ、ぬぅっと手を突き出し、


「……無事で、よかった」


 衝撃に耐えるようにぎゅっと目を瞑ったアルルの髪を、優しくかき混ぜた。酷く怒られると思っていたらしい彼女は、その手つきに目をこぼれ落ちんばかりに見開いている。


「怒らない、の? だって私」

「お前のことだ。別に考えなしに突っ走ったわけでもあるまい」


 アルルに視線を合わせるよう、ライゼが膝をつく。その声は心から安堵していることがよくわかる、穏やかなものだ。


「お前なりに考えて、助けようとしたんだろう。ひとりでも、なんとかしようと」

「……うん」

「それは、なかなかできないことだ。お前ほどの歳の子供なら、尚のこと。……誰にも相談しなかったことは、褒められたものではないがな」


 ずずっと鼻をすする音が響く。叱られる直前の子供のように青ざめていたアルルの頬は紅潮し、ライゼを見上げる目には怯えからくるものではない涙が溜まっていた。


「異国の地で、よく頑張った」

「……っおに゛ぃ、ちゃ……」

「誰かのために行動できるお前を、俺は誇りに思う。……けどな、あまり心配をかけさせてくれるな」


 我慢しきれなかったアルルの足が床を蹴り、目の前の身体へと飛び込んでいく。衝動に任せたその動きには結構な勢いがあったが、ライゼは両腕でしっかりとそれを受け止めた。そしてグズグズと鼻をすするアルルの目を覗きこみ、髪や額についた汚れを指でそっと拭う。


「怪我は」

「……ない、ぃ」

「なら、痛い思いや、怖いことは」

「……ない、ないよ。ちょっと怖かったけど、それ以外は、全然」

「そうか」


 ライゼは怪我の有無を確認しながらアルルの背中をさすり、それらがないことがわかるとフっと口角を上げ、


「こんの、バカ」

「いっっっ──!? いっ、いひゃい! いひゃいっへは!」

「行先も言わずひとりで飛び出す奴があるか!」


 容赦なく彼女の頬をつねって伸ばした。柔らかい頬はあっという間に餅のように伸び、アルルはジタバタと暴れるがライゼは微動だにしない。頬つねりは数秒以上続き、目に新たな涙が浮かび始めたところでようやく指が離された。


「周りにどれだけ迷惑をかけたかわかっているのか」

「うぅ……お、怒らないんじゃなかったの?」

「怒らないとは言ってない。体調の確認が先だっただけだ」

「ぅ、嘘つき! わ、私、すっごい優しいって感動してたのに!」

「……どうやらまだ反省し足りないらしいな」

「ぃぃぃぃぃっ! ほへ、ほへん! ほへんにゃさいぃぃぃぃぃっ!」


 またびよびよと頬伸ばしの刑に処されてしまった哀れなアルルの悲鳴を聞きながら、俺は肩を竦める。途中「見てないで助けてくれ」と言いたげな視線を何度も受け取ったが、今しばらくは甘んじて受け入れてもらうほかない。何せライゼは俺たちの中で一番心配していたのだし、怒りたくもなるだろう。

 それに「怪我はない」と聞くまでの間、あいつの手が小刻みに震えているのに気づいてしまったのだ。軽い気持ちで止めに入るなんてこと、できそうにない。




「……あのぅ、口挟んですいません。つまり、どうなったんです?」


 サトルがおずおずと口を出してきたのは、頬伸ばし刑延長の数秒がようやっと終わったころのことだった。まだヒリヒリするのか、アルルは赤くなった頬をさすっている。


「ええと、俺らはそっちがエイドリックって人を切りつけたって聞いてるんですけど」

「あ、それ嘘です。あれの自作自演です」

「え」

「あの人、とんだ猫かぶりですよ。記憶に干渉する異能のおかげで善人面してるとんだペテン師です」

「え、え? あんないい人そうに見えたのに……」

「……坊や、あんたもちったぁ疑うってことを覚えな」


 呆然とした様子のサトルに呆れた様子のガネット。だが無理もない。俺だって少し前まで騙されていたのだ。心を痛めながらも子供たちを利用しているというガワをすっかり信じ切っていた。


「異能、ということは転移者か。なら、これは女神の指示か?」


 転移者、という言葉にライゼの瞳が細まり、場の空気がピリリと張りつめる。が、俺はその反応に首を横に振った。


「いいえ。これは彼らが勝手にしていることです。そして恐らく──女神シャムランも、彼らの動きを()()()()()()()()()

「……そこまで断言できる根拠は?」

「さっき聞いたので」

「……聞いた?」

「ええ、この子たちに」


 首を傾げるライゼを横目に、俺は自身の背後へと視線を向ける。おどおどとした様子のマシュー、それとは対照的にモモは堂々とした立ち姿だ。

 まったく、危ないところだった。出会い方はほぼ最悪に近いものではあったが、この子たちに会わなければとんだ()()()をしているところだったのだから。


「マシューとモモです。この子たちはシャムランの関係者でして、モモはシャムランに呼ばれた転移者なんですよ」

「何だと?」

「あっ、転移者といっても協力的ですよ。誤解も解けてますし、それにここまでもモモの異能を使ってもらって──モモ?」


 のんびりと話している余裕はないが、多少は紹介しておくべきだろうと俺はモモたちへと振り向き、そこで気づく。モモがただならぬ表情をしていることに。


「モモ、モモ? どうしました!?」

「……なんで?」


 モモはこれ以上ないほど大きく目を見開き、呆然とした様子で何かを見つめている。信じられないと言いたげな表情で、一体何を見ているのか。俺はごくりと唾をのみ、彼女の視線の先を辿る。そして桃色の瞳が凝視しているものの正体にたどり着いた瞬間、俺はモモの口から出た言葉に、耳を疑った。


「なんで、()()、ここ、いる?」


 聞き間違いではない。モモは項垂れた様子の()()()()()()()()()、そう言ったのだ。


何で彼女をそう呼ぶのか。


ここまで読んで下さりありがとうございます。もし面白いな、続きが気になるなと思っていただけましたら、ブクマ、いいね、感想、下の★マークからお気軽に評価をいただけますと励みになります!

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 お邪魔しています。  アルルと会えて本当に良かったですね。アルルのドキドキする気持ちもわかりますよ。絶対怒られるって思っちゃいますよね。  それでも、ライゼの『アルルの頬っぺたを引っ張るオシオキ』…
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