82、キラキラサプライズプレゼント
誘拐集団のボスはまさかの子供にやさしいタイプ。部下へとドロップキックをかましたボスのエイドリックは、アオイたちに対し荒くれ集団のトップとは思えない丁寧な対応をとる。アオイとガネットは彼に導かれるまま奥の一部屋へ。そこでアオイが見た光景は。
※※※
「さあどうぞ、座ってください。ここまで疲れたでしょう」
「は、はぁ。どうも」
「……そうだ、暖かい飲み物でも淹れましょうか。胃に入れれば、少しは落ち着きますよ」
きょろきょろと周囲を見渡す俺が怯えているようにでも見えたのかもしれない。エイドリックは俺とガネットを部屋に通してから早々に奥へと引っ込んでいった。聞こえてくるカチャカチャと食器がこすれ合う音に、ポットへと水をそそぐ音。どうやら本当にお茶でも用意してくれるらしい。
奴の背中を見送ってから、俺はヒソヒソ声で隣に話しかける。
「……どうすればいいと思います?」
「どうするもこうするも、乗り込むって言ったのはあんただろ? 今さら怖気づいてんじゃないよ」
「だ、だって、こんなの想定外すぎますって!」
助言を求めたというのにこの仕打ちだ。額を押さえるこちらのことなど気にもせずにあくびをするガネットに、俺は深くため息をついた。
だって、誰が予想できるだろうか。薬のために子供を攫う誘拐集団のボスに、お茶を淹れてもらっている状況なんて。
部屋を変えようと提案したのはエイドリックだった。こんな強面共に囲まれていては俺たちが怖がって話もできないだろうと。
「なら、俺が」
「強面一号が何言ってんのさ。お前の仕事はそこの奴隷商の相手。それと、そこで伸びてる馬鹿、片しといて」
別室への案内に名乗り出たバルタザールの提案を一蹴し、エイドリックは俺たちふたりだけを部屋の外へと連れ出した。どうやら奴の方には奴隷商と誤解させたライゼたちのことを任せるらしい。
下手な動きをするわけにもいかず、蟻の巣のように入り組んだ廊下をエイドリックに先導されるがままに歩き、たどり着いたのは最初に入った場所からかなり離れたひと部屋。廃材やゴミが散らばる雑然とした通路とはうって変わった整とんされた部屋に通され、流れるように部屋のソファーに座らされ――そして、今にいたる。
「で、どうすんだい。優雅にお茶会と洒落こむのかい?」
「そんな場合じゃないから相談してるんじゃないですか……!」
硬いがクッションのあるソファーに、傷があるがきれいなテーブル。部屋の隅に置かれた背の低い棚の上には、何に使うのか丁寧に並べられたピカピカの小石や磨かれた木の実。壁には子供が描いたような似顔絵が数枚、額縁に入れられて飾られている。同じ人物を描いたのか、画風の違いはあるものの、描かれている人物の特徴は一致していた。
「……本当にあの人がボス、なんでしょうか」
「さあてねぇ。見た目通りじゃないかもしれないし、その逆かもしれない」
「頼りにならないなぁ」
「お前が弱っちくしたんだろうが」
白い綿あめのような頭に緑の円で描かれた目。絵のモデルはどう見てもエイドリックだろう。似顔絵はどれもがにっこりと笑っており、その周りを同じく笑顔の子供や、花が彩っている。その光景はどう見てもあの男が子供たちから慕われているようにしか思えなくて。
「一応、聞くんですけど。……本来の理由を話した方がいいと思います?」
「知らんね」
「ちょっと!」
アルルを探しに来たことを、本当のことを話すべきだろうか。俺の思い違いで、本当に子供たちのことを大切に思った上で行動している人であれば隠さず打ち明けた方が解決は早いかもしれない。相手はこの国の住民だ。しかも、アルルに接触している可能性も高い。あの子の安全を考えれば、それが最善な気もしてくる。
だというのに、ガネットときたら間を置かずの即答だ。恐らく考えすらしていない。悩みが悩みなだけに、適当な返事に対し思わず怒りをにじませると、ガネットはそれすらも鼻で笑いながら続けた。
「第一、まともに話してもないのに、打ち明けるべきかなんてわかるもんかい」
「そ、それはそうかもしれませんけど」
「あいつの腹が黒かろうと白かろうと、確かめるには飛び込むしかないのさ。大体、今ここでグジグジ悩んで何が変わるっていうんだい。ええ?」
会ったばかりで判断できるわけがない。知ろうとする前に、無駄に不安がっている方が時間と労力の無駄。悩む暇があるなら動け。ガネットが言いたいのはそんなところなのだろう。それはまあ、その通りかもしれない。しれない、が。それにしたって即答はないだろう。ちょっと相談に乗る、くらいの優しさはないのかこの女神は。
「大事なことだからグジグジ悩んでるわけですが」
「その悩んでる時間が無駄だって言ってんだよ。頭ごちゃごちゃさせるより動きな」
この体育会系脳筋女神。正論だけじゃどうにもならないときもあるんだぞ。
ガネットの「何度も言わせるな」と言いたげな態度を前に、そんな言葉が喉元まで出かかる。その時だった。
「――!」
キィ、と微かに耳に届いた、扉が開く音。言い合っていたことも忘れて、俺はガネットの後を追いかける形で後ろを振り返る。目に入ってきたのは確かにさっきまで閉じていたはずの部屋の入り口で、自然と鼓動が早くなった。
誰かが入ってきた? 何のために? もしかしなくても、罠にかけられた?
いくつもの不安が泉のように湧き上がる。心臓の音はさらに激しさを増し、緊張に胃の底が氷を流し込んだように冷たくなった。最初からすべてお見通しで、この部屋に通したのも、戦力を分散しつつ俺たちを油断させるためで――
「なんだ。ガキんちょかい」
「え、子供?」
が、その緊張が続いたのもガネットが発した言葉を聞くまでの間だった。冷静になって扉の隙間を見れば、下からこちらを覗く目と視線が合う。
「ぁ、あ、あたらしい、子? おにいちゃ、あたらしい、ともだち、きた」
「しっ、シー! だめだよ! びっくりさせるんだから、しずかに!」
「あっ、あ、そ、そう、だった」
聞こえてきたのは子供の声。アルルより幼く聞こえる彼らは俺たちを見てしばらくの間硬直していたが、「お兄ちゃん」と呼ばれた短い髪の子が先導する形で部屋に入ってきた。静かにしてほしいらしく、口の前に人差し指を立てて。その後ろを髪の長い、彼よりさらに小さな子がついていく。服装はふたりとも同じで、大人用のシャツをワンピースのように着ていた。
似たような顔の子供たち。兄妹なのかもしれない。
「こ、こんにちは、きれいな、えっと、お姉ちゃん」
「あ、は、はい。こんにちは?」
「あの、ちょっとだけ、知らんぷりしてもらってもいい?」
「知らんぷり?」
「ぼくらが来たって、エイドリックさんに言わないでほしいの」
「……それは、どうして?」
「えーと……」
緊張した様子で話しかけてきた兄に思わず眉をひそめる。どうして知られてはいけないのか。知られたらまずい何かでもあるのだろうか。パッと見た感じ怪我の痕跡はないが、もしかして。
しかし兄の方が言いづらそうに理由を口にするより先に、今度は妹の握りこぶしが突如ずいっと俺に迫る。それは止める間もなく俺へと急接近し――ぶつかる前に鼻先でパッと開いた。
「こ、これ、あたらしいの、ひろったからっ、な、ないしょでっ、びっくりさせたくて!」
「もー! 見せたらだめって言ったじゃん! バラしちゃうかもしんないのに!」
「あっ、あ……そうだった……な、ないしょ! いまの、なし!」
手のひらにはきれいな赤褐色をした、形のいい小石がひとつ。
そういうことか、と俺は焦る子供ふたりに気の抜けた笑みを向ける。まさかついでに棚の上に飾られた謎の小石たちの正体も判明するとは思わなかった。
「……バラさないし、言いませんよ。そうだ、ソファーの後ろに隠れるのはどうですか?」
そう言ってやればパアっと顔を輝かせ、いそいそとソファーの裏に縮こまる子供たち。その姿を前に、俺はついさっきまで握りしめていた手から力が抜けていくのを感じていた。
本当にあまり難しく、ごちゃごちゃ考える必要はないのかもしれない。
かわいいサプライズプレゼント
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