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81、敵グループの意外な素顔?

突然現れたドロップキック小男に驚くアオイ。だが不思議なことにバルタザールたちが小男を止めることはなく。非常無常なグループの意外な素顔とは。

 

 え、何この人。誰? なんであいつ蹴られてんの?

 頭に浮かぶいくつもの疑問。もちろんそれらへの答えが思いつくなんてことはなく、俺は若い男がバルタザールの玉座へと頭から突っ込んでいく様を突っ立って見ていることしかできなかった。まるでボウリングのピンのように玉座の一部たちが飛んでいく。


 小男はといえばドロップキックを決めた直後、優雅に着地を決め――そして追撃をしにいった。


「誰がっ! 子供にっ! 手を出したですって!?」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ!」

「そんな悪いことをしたのはこの手かぁ――――っ!」

「すいまっ、すいません! すいません!」

「問答無用! 手を出すような大馬鹿者は今すぐ滅ぶべし! いや滅べ!」


 ペシ、ペシ、ポコ、ゲシ、ペシ、ペシ。

 チョップ、チョップ、拳、蹴り、チョップ、チョップ。

 小柄な手足から繰り出される攻撃の嵐はけして強力そうには見えなかった。が、それでも人間玉座に視界を塞がれた若い男には十分な恐怖だったのか、縮こまった状態で悲鳴を上げている。

 子供のような男が大の大人をボコボコにしている異様な光景。しかし何より不思議だったのは、周りの連中が誰ひとりとして小男の暴挙を止めないことだった。あのバルタザールも仲間が攻撃されているというのに、額に手を当てるばかりで近づきすらしない。


 何を見せられているんだと思いつつ、俺はまじまじと襲撃者を見つめてしまう。ふわふわの白い癖毛に、ガラス玉のようにくりくりとした緑の瞳。背丈は俺より少し大きいくらいだろうか。外見だけ見れば少年とも少女ともとれる中性的な見た目で、子供らしからぬガサついた低い声を聞かなければ男だとわからなかったことだろう。


 誰も止める者がいないのをいいことに、小男は哀れな若い男にさらなる追撃を加えようとする。具体的に言うのであれば、二十発目のチョップを。


「滅! 滅! め――――」

「……あァー、そのへんで」


 その時、ようやくバルタザールがアクションを起こした。小男の振り上げた手を掴み、追撃を防ぐ。まるで細枝のごとき腕が大男の手に包まれた瞬間、俺はまさかそのままポキッとやる気かと思わず身構えたが、小男が捕らえられていたのは一瞬で、バルタザールは想像よりもあっさりと小男の腕を手放した。


 不服なのかむすり、とした顔をバルタザールに向ける小男。バルタザールと並ぶとその華奢さが更に際立つ。バルタザールがライオンなら小男は子羊のようだった。捕食者と被捕食者。肉食獣と草食獣。真っ向からぶつかればどうなるかなんて、考えなくてもわかる。

 これから始まるであろう正義感の強い小動物系襲撃者への残虐ショーを見たくなくて、俺は咄嗟に顔を背けた。


「何するのさ、()()()()()()

()()()()()。これ以上ァ他の連中がビビっちまうと思ったもんで。それに、そいつも十分反省してますんで」


 が、聞こえた内容に即座に視線を戻す。その瞬間目に飛び込んできたのは小男の前に膝をつくバルタザールという、更に衝撃的な光景。そして――


「エイドリックの頭、どうか機嫌をなおしちゃくれませんか。ガキに怪我もないし、」

「子供」

「……子供に怪我もないし、こいつらも反省してます」

「僕は子供を連れてこいと言っただけで、怖がらせろなんて言ってない」

「そりゃまあ、そうですけど」

「それに、ちゃんと手下を統括しろって言ったのはお前だろ」


 頭。その言葉に反応して脳みそがようやく回り出す。誰の目にも子羊とライオンの力関係は明らかだった。

 そうだ。こいつは哀れな子羊でも、正義感に駆られた襲撃者でも、何でもない。恐らくはこいつが、いや、こいつこそがバルタザールが言っていた「あの人」なのだ。


 ふてくされ表情の丸い緑の目が俺の方を向き、ごくりと喉が鳴る。

 エイドリックと呼ばれた小男、いや誘拐グループのラスボスが、目の前にいる。言動からしてバルタザールたち荒くれ連中はこいつを中心に動いているのだろう。なら、こいつが薬づくりのために子供の誘拐を指示しているはず。けど、こいつは今しがた俺らが受けた(と、思っている)酷い扱いに憤っていた。

 頭が混乱する。どういうことなのだろう。加害者側のはずなのに、自分たちの欲望のために子供を誘拐するような集団のトップなのに。どうしてそんな、まるで傷つけることを想定していないような物言いをするのか。

 わからない。こいつは、何だ?


「あっ!」


 不可解すぎる状況に頭がこんがらがってきた時だった。エイドリックが唐突に上げた声に肩が跳ねあがる。何だ今度はどうしたっていうんだという気持ちで下がっていた視線を上げれば、緑の目を吊り上げた状態でズンズンと近づいてくるエイドリックの姿が目に入ってきて、口から悲鳴が飛び出しかける。

 まさか、俺たちがわざと捕まったってことに気づいたのだろうか。

 頭をよぎる不安に、心臓が暴れ始める。口の中が乾く。

 そして目と鼻の先にエイドリックの顔が近づいた瞬間――どうしてか縛られていたはずの手がふっと軽くなった。

 驚いて見れば、拘束が解かれた俺の腕。


「ごめんなさい、怖かったでしょう。でも、安心して下さいね。僕の目が届く範囲であれば、こいつらに悪さはさせません。もう酷い思いも、痛い思いも、しなくていいんですよ」

「……へ、ぁ?」

「ようこそ、僕らの家へ」


 そして、ニコニコ笑顔で俺を縛っていた縄を持つエイドリック。

 誘拐グループの、しかも怪しい薬を作っているリーダーから出るとは到底思えないような穏やかで優しい言葉を真正面から浴びた俺は、きっとこの世界で一番間抜けな声を出しているに違いなかった。


ひょっとして、実は悪い人じゃないのでは?


いつも読んで下さりありがとうございます。もし面白いな、続きが気になるなと思っていただけましたら、ブクマ、いいね、感想、★マークからお気軽に評価をいただけますと励みになります。


また、おそらくこれが今年最後の更新となります。今年は様々な方に読んでもらい、また多くの感想も頂くことができました。応援していただけたこと、読んで、そして感想をいただけたこと、深くお礼申し上げます。


よいお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
 お邪魔しています。  これは、大ドンデン返しじゃないでしょうか? 実に面白い! ますますこの国の実情が気になります。
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