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11、大事なことは大きくしよう!

故意ではないが、ポールをきれいなポールにしてしまったアオイ。ギャン泣きのアルルを前に、ポールを元のクソガキに戻すべく、マニュアルを見ていると……

「ごん゛な゛の゛ボール゛じゃな゛い゛!」

「あー、うん。そうだよな、ごめんなー……」


 しっかりしているので忘れていたが、アルルは子どもなのだ。それもまだ小学校低学年ほどの。そんな子が仲良のいい友達の人柄が変わってしまって、怖くないわけがない。


「な、泣かないでくれ、君が泣いてしまっては、ボクは……」

「喋らないでっ‼」

「はっきり言う君も素敵だ……」

「ポールはそんなこと言わないっ!」


 正拳突きからよろよろと復活したポールにぴしゃりと言い放つアルル。すごい拒絶具合だ。俺は顔を覆ってしまったアルルの背をさすりつつ、ゾンビの如く正拳突きから復活しようとしているポールに目を向けた。


 ポールはポールでなかなかにしつこい。これだけ拒否されているのにそれでもキザったらしいセリフを吐けるのは、やはり女神の祝福のせいなんだろうか。


「……すみません、私のせいです」

「……お姉ちゃん」

「だ、だいじょーぶ。大丈夫ですよー。きっと元に戻るから! ねっ?」

 パートの人を思い出しながら精一杯優し気に聞こえる声を出しつつ、宥めてみる。確かこんな感じでぐずってお子様ランチの皿を振り回していた子どもを大人しくさせていたはずだ。

 すると、こすりすぎて赤くなった目でアルルがこっちを見上げてくる。どうにか涙は止まったようだが、まだ鼻をぐすぐすと啜っていた。


「……ううん、いいの」

「えっ」

「お姉ちゃんは治してくれただけだもの」


 涙声に俺の良心がキリキリと痛む。誰だ一瞬でも「治ったしいいんじゃないか」とか思ったやつ。人の心が無いのか。


「ポールはずーっと意地悪ばっかりだったから、だから女神様の祝福できっと良い子になったのよ。だからっ、私は、ポールは、このまま、でも……いいと、おもう」

「ぜっっったいに戻す! 戻すから!」


 どう見たって別人なのにそれでも受け入れようとしているアルルの肩を掴み、揺さぶる。絶対戻す。絶対に元のクソガキに戻す!


「はは、麗しき女神よ。戻す? ライゼお兄様、彼女らは一体何を――」

「……お前は少し黙っていろ」


 何が起こっているのかわかっていないらしいポールを横目に、善は急げと俺はマニュアルに顔を突っ込んだ。女神パワーでこんな事態になったのだ。マニュアルにその解決法が書いてある可能性は大いにある。

 パラパラとページをめくり、世界の状況や魔法の使い方なんて項目を通り過ぎて、ようやく目当てのページにたどり着く。女神の祝福についてのあれこれが書かれた箇所だ。


 俺は目を皿のようにしてその項目を読み漁り、そしてわかった事実にへなへなとその場で膝をついた。

 それに驚いたのか、ライゼがのそのそとこちらに近づいてくる。


「おい、どうした。なにか厄介なことでも――」

「……戻るって」

「なんだと?」

「……祝福で、精神に影響がある場合もあるけど、大体はちょっとしたら戻るって」


 俺はライゼを見上げる。もちろんマニュアルの「女神の祝福について」のページを開き、「祝福の効果について」と書かれた項目を指さしながら。


「ほ、ほら、ここにそう書いてある!」


 祝福のやり方を読んだときは気が付かなかったが、よくよく見れば効果が書かれた文章の下に手書き文字の注意事項が小さく添えられていたのだ。これを見つけたとき、こんな大事なこと小さく書くなと少し怒りが沸いたが、この際そんな怒りは横に置いておく。今はわかったことを伝えるのが先だ。


「アルル、見てください! ここに書いてある通り、ポールは――」

「お、お姉ちゃん?」


 首を傾げるライゼをスルーし、俺は座り込んだままのアルルに近寄った。だが予想を反し、アルルの顔には何故か喜びではなく困惑が浮かんでいる。

 彼女はマニュアルと俺の顔を交互に見ながら、隣の巨漢と同じように首を傾げた。


「あの、()()()()()()()()()?」

「え?」

「お姉ちゃんの手しか見えないんだけど……」


 その言葉に俺は目を瞬かせる。まさか、と思いマニュアルから手を離してみるとアルルの目は手の方を向いたままだ。下に落ちたマニュアルを追おうともしない。相変わらず俺の手を見て、首を傾げている。

 もしや、マニュアルが見えていない?


「……何をしているんだ?」

「あ、そのー……ポールが戻るってことがわかったので、その報告をですね」

「! お姉ちゃん、ポール戻るの⁈」

「え、ええ、そうです。今は祝福が少し効きすぎてしまっているだけなので」


 改めてポールのことを伝えれば、俺の言葉に「やったあ!」と飛び跳ねるアルル。ホッとしたんだろう、その顔にさっきまでの無理をした陰りはない。俺も一安心だ。


 ただそれの代償として、俺はライゼから再び疑惑の眼差しを注がれるようになった。喜ぶアルルの後ろから、「こいつ一体何が見えているんだ」という視線がグサグサと俺に突き刺さる。例の転移者事件で少しは怪しまれなくなったと思っていたのにこれじゃ振り出しだ。


「いや、ほら、私女神なので。お二人に見えないものも見えちゃったりするっていうか」

「……」


 話しやすくなったと感じていたライゼの雰囲気が、あっという間に近寄りがたかったころに戻ってしまい、俺はがっくりと膝を付く。この異世界で、ようやくちょっとは前に進めたはずだったのに。


 しかしまあ、起きてしまったことはしょうがない。面倒ではあるが、こうなってはまた信頼を取り戻すしかないだろう。

 そう考えて落としっぱなしだったマニュアルに手を伸ばしたとき、背表紙に書かれた見覚えのない細かな一文に、目が吸い寄せられる。


 ――注意! 神のマニュアルは他女神以外には見えないので証拠としての機能はありません。


 その書き方はまるで通販番組の注意文だった。布団乾燥機や美容剤の宣伝と共に「効果には個人差があります」とか「再現通りの効果が出る保証ではありません」とか、一瞬だけ表示されるやつ。


 マニュアルと呼ぶには随分と豪華なハードカバー本。その装飾に紛れるように書かれていた一文の読ませる気のない小ささを見て、俺は思う。

 あの神、今度会ったら一発殴ろう。


一瞬だけ出てくるあの文章、マジで読ませる気ない説。

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