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第5話

サンダルソンに行く前、つまり長期休暇を迎える前にこの山程ある仕事を片付けなければいけない。

キクノクスに移住して四ヶ月、ようやく書類を名前順に仕舞うだけではなく段々と仕事は増やされていった。

とはいっても元の世界でやっていたようなことだけど、パソコンもなくコピー機もないからすべて手書きだ…。腱鞘炎になる。

あまりに多用する文章は判子を作られてそれを押して流用している。

それをポポンと押すのも俺の仕事だ。

「サハラさん、次これをお願いします」

「はいはい」

ノイシュくんから渡された束に目を通して担当者に種類分けしていく。

移住者の処理に加えて雑務がどんどん多くなっていったが、単調作業より楽しくあちこちに目を配らせなくてはいけなくて仕事をしているという実感がある。

多分、今日の酒も美味い。

今日はどこで飲もうか、一人でのんびり食べようか考えていると一日はあっという間に終わってしまう。

キクノクスは辺境の地と言われるが海の幸も山の幸も本当に美味くて仕事がなくなった移住者の理由は就職難民だけじゃないだろうと思っている。

事実、通っている店で知り合った奴もキクノクスの料理が美味くて移住してきたと話をしていた。

キクノクスに移住することになって本当に良かった。ありがとう、王様。


そしてようやく待ちに待った長期休暇になり、サンダルソンまでノイシュくんと朝一の相乗り馬車で行くことになった。

「そんなに遠くないので何事もなければ夕方に着くと思います。夕食はサンダルソンで食べましょう」

「分かった」

ようやく仕事から解放されても相変わらず尻が痛い馬車で早く着かないかなとノイシュくんと話をしながら思った。

俺に知識があったら絶対スプリングとか作って快適な馬車移動をバルロットさんに提案していた。

よくSNSの広告に出てくる俺TUEEEEは叶っているけど意味ないし、料理が出来るわけでもないし学もスキルもないし快適異世界生活みたいなのにはまだ程遠いような、でもこれくらいの不便さが田舎に来たみたいで本当に地方に移住したって感じがしていいんだよな。

いや、さすがに馬車じゃないけどな。

「…揺れるねぇ」

「馬車ですからね」

なんてのんびり年下同僚とおやつを食べながら話すくらいでちょうどいい。

そういえば、魔王が統治しているからか魔物って人間が暮らす範囲内で見掛けたことないよな。この間のドラゴンは別にして。

そこら辺も管理してくれてるのかな?

ありがとう、魔王。おかげで平和な世界で暮らせています。

「そういやサンダルソンのつまみは知っているけど酒はどんなのがあるの?」

「さあ?僕は飲酒しないのでよく分からないですけど、地酒があった気がします」

「美味い料理に地酒かぁ……」

「ほどほどにしてくださいね」

ノイシュくんに釘を刺されてしまい、今回はそんなに飲めそうもないな…いや、せっかく長期休暇に出掛けるんだ!ノイシュくんには申し訳ないが飲めるだけのもうと思い、これなくて残念そうにしていた代わりにバルロットさんと飲む用につまみと一緒にお土産でたくさん地酒を買っていこうと決意した。

そしてサンダルソンの話をしていたら相乗りしていた他のお客さんもサンダルソンに行くらしくお勧めの店や観光スポットなんかを教えてくれた。

「ありがとうございます」

二人でお礼を言って余計に話が盛り上がった。


「あ、牛が見えてきた」

「サンダルソンの領内に入ってきましたね」

牧歌的とノイシュくんは本当に牧歌的というかのんびりした田舎町って感じでいいな。

しばらくすると相乗り馬車は停留所に停まり俺達は馬車から降りた。

「ここがサンダルソンか」

「どうします?先に宿を探しますか?食事にしますか?」

「先に宿を探そうか。荷物を置いて少しゆっくり休もう」

いい加減尻が痛いから休みたい、とは若い子は思わないんだろうか。

ノイシュくんに尻痛くない?って聞いたらセクハラにならないだろうか?

最近は男同士でもそういうことに配慮しなくちゃいけないからな。

……異世界でもそうなのか?

いや、配慮してし過ぎないこともないよな。

黙っておこう。

「それじゃあ、宿を探しましょう。早くしないと安くていいところはすぐに埋まってしまいますよ」

と言いながらノイシュくんは先に歩き出した。

宿泊先に見当でもあるんだろうか?

てくてく歩くノイシュくんの後ろからついていくと一件の宿屋に辿り着いた。

他の建物と大して変わりのない、ともすれば素通りしてしまいそうになるこの建物がノイシュくんのお目当ての宿屋なんだろう。

「ごめんください」

と言いながら入っていくのでそのままひょっこりつられて入ってみた。

中は清潔感が保たれており、奥からいい匂いがしてきた。

「ここは食事もとれる宿屋なんですよ」

ノイシュくんが説明してくれてそのままカウンターまで行ってチェックインの手続きまでしてくれた。

えっ、俺の年下同僚が優秀過ぎる。

「部屋は隣なのでなにかあったら遠慮なく訪ねて来てくださいね」

と、言いながら渡された鍵を持って部屋に案内された。

寝室も清潔感があり落ち着ける雰囲気だった。

荷物を置いてベッドにごろりと転がって人心地つく。

相乗り馬車で半日って短いようで長いよな。

尻が二つに割れた。

なんてくだらないことを考えながらごろごろ疲れを取るようにしたらうとうとしてきてしまい、このまま寝落ちしそうになったところでノックの音で目覚めた。

「サハラさん。夕食に行きませんか?」

「ああ、今行く」

財布を持ってドアを開けるとノイシュくんが待っていた。

「どうしますか?ここで食べることも出来ますし、馬車で教えていただいたところでも行ってみますか?僕がご案内出来る食堂もありますし……」

そう説明されている間にも奥から美味しそうな匂いがしてくる。

「疲れたしとりあえず今晩はここで食べて明日観光スポットを巡りながらノイシュくんのお勧めの店や教えてもらった店を覗いてみよう」

腹の虫を抑えるように腹に手を当てて言うとノイシュくんはくすりと笑って「分かりました」と同意してくれた。

奥の食堂に行き二人で悩みながらメニュー表を見ていると、悩んでいる料理が同じことが判明して二人で頼んでシェアすることにした。

それにしてもこの日頼んだお勧め欄にあったサンダルソンの地酒が美味い!

サンダルソンの料理と良く合っていて、地産地消が一番だなと思った。

「美味しいね、ノイシュくん」

と、ほろ酔い気分で言えばジュースを飲んでいたノイシュくんから釘を刺される。

「明日も観光があるんだから飲み過ぎないでくださいよ」

「はいはい」

今日はあと二点くらいグラスで別の酒を貰って明日は他の店でお勧め欄にあったほかの地酒を飲もう。

サンダルソンにいる間に制覇しよう。

少量なら昼間でも許してくれるだろう。

ノイシュくんは長期休暇だというのにこんなおじさん同僚の観光に付き合ってくれるし、なんだかんだで優しいからな。

そういやサンダルソンでチーズ流行らせようって思ってたけど牧場かトルトリンみたく商人に話をしてみたら乗り気になってくれるかな。

食べたいな、チーズ。

ナチュラルチーズは生乳に乳酸菌や酵素を加えて固めることで作るってテレビでやってたな。

原料となる生乳を加熱殺菌して、乳酸菌や酵素を加えるとたんぱく質が固まりプリン状になる。

これをカットして水分を出してその水分が抜けて豆腐のような固まりとなったものを型につめる。

それを圧搾し、さらに水分を出す。

ここでチーズの原型が作られる。

それから塩を加えて表面に塩を擦りこむか、または塩水に浸して雑菌の繁殖を抑えて、風味を良くする。

最後に熟成。この過程で、たんぱく質が分解し、アミノ酸になる。

もうひとつ、プロセスチーズはナチュラルチーズを原料として作らる。

原料のナチュラルチーズの種類によって、出来上がるプロセスチーズの味や食感が決まる。できればこちらで工夫してもらいたい。

ナチュラルチーズを細かく粉砕し原料となるナチュラルチーズは、一種類の場合から数種類の場合まで様々ある。

原料に乳化剤を加え、加熱して溶かす。そしていろいろな形に成型する。

そして冷やせば完成。

…そのはずだ、多分。前にテレビで見た。上手く説明できるかな。

そして楽しい夕食が終わるとノイシュくんと別れてあてがわれた部屋へと戻りいい気分でぐっすり寝た。

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