1 悪女は仕掛める(1)
「光の魔力は……まだ感知できませんね」
「……そうですか」
「皆が皆、二つの魔力を使いこなすわけではありません。シェリル様の闇の魔力は一族の中でも最高峰──数値的にも申し分はありません」
「お褒めにいただき光栄です」
魔法の授業は、シェリルが二歳の頃から始められた。シェリルが闇の魔力を解放した日からずっと。
あらゆる方法で技を磨き、魔力を練り上げる。五歳にして成熟した闇の魔力を使いこなしても、シェリルの価値は認められなかった。
魔力適正を受けない子どもが魔法の授業をする。滑稽で馬鹿らしい、無様な足掻きに過ぎない。そんなことを教えてくれる人もいなかった。他の授業の最中にその事実を知って、打ちのめされたぐらいだ。
そうして、魔力適正を受けても、シェリルは闇の魔力しか使えなかった。プレ・デビュタントを終えて既に両手で数えるより多くの日が経ったが、シェリルは闇の魔法を使いこなすことしか出来ない。
目の前の魔法士は痛ましい目を向ける。
同情されたと思った途端、苛烈な感情が胸を支配する。
ラグランジュでは、特殊な魔力検査によって、生まれて直ぐに持ち得る可能性の魔力を調べる。望まれた男児でもなく、生まれてすぐに呼吸をとめたシェリルは、当初闇の魔力すら持たなかった。
マデラの気が狂ってしまったのはそのせいだ。
蝶よ花よと育てられ、素晴らしい跡取りが生まれると思ったら、現れたのは魔力すら持たない女児。シェリル自身、マデラの気持ちが分からないことでもない。
どうやら強大すぎる力は幼い子どもの体には毒だったようで、無意識のうちに魔力を封印していたらしい。二歳の頃に本来の魔力を取り戻しても、もう家族の興味を引くことは出来なかった。
王族に近しい、建国の八公だけが許された素養──二つの魔力を持つこと。掛け合わされた二つの魔力があわさって、新たな力に変化する。ラグランジュは闇の魔力と光の魔力を併せ持つ。ラグランジュの家門魔法である、宵闇の魔法を開花させるのに必要な魔力だった。
もう光の魔力を使えても問題のない年頃なのに、未だシェリルは強大な闇魔法を持て余していた。
家庭教師の魔法士が帰ると、屋敷は針のむしろになる。毒入りの紅茶に、適温の範疇にない湯船。父の溜息に、母の癇癪。
飛んでくる手のひらを避けると長引くから引き受けて──そうすると父親は呆れたようにシェリルを見た。
止めようともしないのに。
「あまりマデラ様を失望させないでくださいましね。それでは、失礼いたします」
いつも通りの就寝の挨拶を聞いて、最早悲しいと思う心が麻痺したことを知る。
窓を三度、ノックされる。
許しを与えていないのに、今日も無礼な手紙が届く。同じ 身分にいないくせに、自分を救おうとする愚か者の手紙。
もうやめて欲しい。手に入らないものに期待を抱くのは疲れた。
それでも、確かめてしまうのだから救えない。
「信じて、待ってて」
記された言葉を読み上げる。
一体いつまで?
何を信じればいいの。
誰も助けてくれないのに。
「誰か私を……」
続きの言葉は、言えそうになかった。
◇ ◇ ◇
モルヴィアナがラングラン公爵家に戻る頃には、以前の趣味の悪い装飾品は軒並み撤去されていた。一瞬拉致された時の部屋は金ピカに磨きあげられ、デイビッドの氷の魔法でひび割れる程の脆い作りだった。
ラングランの純血の者が生活出来る空間ではなかったので、デイビッドがこの機会にすべて買い揃えたらしい。どこからそんなポケットマネーが出るんだろうか、と思ったがフォイルナー男爵家は元々王家公認の報奨爵位なだけで、デイビッド自身の財産は別にあったらしい。
ジェイディスにラングラン公爵家の管理ができないと見越しての采配は素晴らしいが、どうしてそこまで思考が働くのに公爵家を乗っ取られてしまったのか甚だ疑問だ。
兄曰く、そういう理屈で語れない行動をするのが人間の感情と言うものらしい。向こうの世界で人間を一通りしたはずのモルヴィアナよりも人間に詳しいのはなぜなのか。
デイビッドは屋敷の検分が終わると、セバスチャンを連れて王城に出仕して行った。どうやらやるべきことが山ずみなようで、暫くはゆっくりと朝食もとれそうになかった。料理長が久しぶりの公爵家で作った朝食は何とかレイモンドとモルヴィアナで平らげることとなったが、これが毎日続くと疲れるものだ。この世界にも存在しているサンドイッチという料理は、この時のためにあるのだと思う。
料理長にそう進めたので、明日からは適量が用意されるかと思われた。
レイモンドは身支度を終えた後、従者のルドを連れてそそくさと屋敷を出ていった。ラングランの修練所はフォイルナーにあったものとは比べられないほど広い。暫くろくに使われていなかったラングランの修練所で早速手合わせをするようだった。
ルドに会ったのはあの麦穂祭りの日以来である。罪悪感を抱くほどでは無いが、申し訳なさは感じていたモルヴィアナは、包帯を巻きつつも以前と変わらぬ動きをするルドを見て安心した。
人間は脆いから、叱責で体調を崩すこともある。ヘレナの腕に着いた傷みたいに熱を持つこともあるから。
変わらず以前と同じ距離で挨拶をしたルドに労りの言葉を掛けて、モルヴィアナは2人を見送った。
そういうわけで引越しを終え、模様替えを済ませ、部屋の確認をしたところで、優雅なティータイムを始めることとする。
「お嬢様、お疲れ様です」
ヘレナの完璧なティータイムは久しぶりだった。暫くは忙しくてケーキ・スタンドを出すほどのものはしてこなかったから。
慣れた手つきでアフタヌーンティーの用意をするヘレナの背中を見る。気がつくと目の前には美味しそうなケーキが並んでいた。
「シャルリーズのこと、お父様はなんて言ってた?」
「お嬢様の望み通り、すぐに魔力適正を受けられる措置が取られるとのことです」
この世界では平民は魔法が使えない。備わっている魔力が貴族に比べて著しく少ないからだ。中には魔法を使うレベルの魔力持ちもいるが、そのどれもが貴族の落とし子である。
だから、平民の娘でありながらどんな魔力にも染まることが出来る、無属性の魔法を使う主人公が聖女等と呼ばれ始めたわけだ。
この国は魔力持ちを集めて、それなりの生活を保証する。魔力持ちは全て国の管理となるわけだ。
魔力持ちはただの平民と違い、魔法の影響を受けやすい。普通の平民が魔導具を介して得られる魔法の効果をその身で受けることが出来る。
現に今はレイモンドの護衛騎士として側に仕えるルドは、レイモンドによる 強化魔法を受けて魔法剣士並の働きが出来る。
元々、ルドに剣術の才能が備わっていたのも大きな要因だが、大人に混じって訓練を受ける彼の技術が見劣りするものでないことは、本来保有している莫大な魔力のおかげとも言える。受け取る側にも魔力の受け皿が必要だという話だ。
ここで、戦果を挙げたものは魔力適正を受けることが出来、特別階級として魔法士になることも出来る。魔法士とは、貴族であれば誰でもなれるジョブであり──魔力を持つ平民が目指す最も高みの立ち位置だ。
──だから、その前提から壊す。
平民なのに魔法が使える、として魔法学園にやってきた主人公の希少性を奪う。
神様は【ナビゲート】でモルヴィアナを導こうとしている。今のこの世界がモルヴィアナが考えたゲームの、最悪の結末に向かっている世界と仮定されたのならば、やることは一つだ。
いずれ来るであろう、 破滅への案内人を、特別でなくすればいい。邪神だか魔王だか──影だかは、モルヴィアナが葬り去ってやる。
そう決めて、今日も今日とて人間には上げることの出来ないステータスを、【向上心】を持って上昇させる。
「平民にも魔法が使えるように……だなんて、お嬢様はどこまで先を見てらっしゃるのだか」
「私は、私の周りの人ができる限り幸せになる世界にしたいだけ。だってみんな魔法が使えた方が、便利だし……安心だわ」
それに、理由はそれだけではない。この世界にはデイビッドの様な貴族は少数派なのかもしれない、と思ったのだ。一途に誰かを愛し、家族を第一に守ろうとする王子様のような男は。
だからこの世に魔力持ちなんて人が出てくるのだ。
「私はお嬢様が無茶をしないよう見守らせて貰いますね」
大好きなハニーレモンを飲み干しながら、そういえば、と気になっていたことを聞く。
「ねぇ。ヘレナはお母様といつ出会ったの?」
「おや、突然に。気になりますか?」
「ええ。だって、前に長い付き合いだって言ってたもの」
ヘレナは困ったように微笑んで、仕方ないですねと腰を折った。地面に膝をつけようとするので、ちゃんと座るように指示する。
「あれは……デイビッド様が婚約をされてすぐのことです。事業に失敗した父が負債を精算するため、古代文明の叡智を売り払った結果、爵位を剥奪されまして……」
「ちょっと待って。今すごいこと言った?」
「昔のことですが、普通に大事件ですねぇ」
つまるところ、ヘレナも貴族の出と言うわけだ。ヘレナは「お恥ずかしながら」と謙遜するように呟いた。
古代文明の叡智というのは 地下遺跡から発掘された物のことを言う。通常の魔導具で再現できない──ジェイディスが何故か持っていた腕輪のように、 特殊な魔法などを使うことが出来る。
未だ、いつ頃から存在するのか、どうやって造られたのかが分からない、まさに神代の遺物である。女神が遺したものだと主張する研究者たちもいる。
先日モルヴィアナがRTAした 地下遺跡はゲームで言う始まりのダンジョンなので出土しなかったが、郊外にある通常の 地下遺跡からは初回クリア時に獲得できたりする。
一応レア物の扱いだが、すべて国が管理しており、報奨として下賜されることもある。そうして下賜されたものを売り払ったとなると──どこに売り払ったかにもよるが国賊と言われてもおかしくない行為だった。
「幸い国外に流れることはなく。その頃、デイビッド様はシャンヴァルスの戦いの褒賞で名誉騎士と式部卿と近衛騎士を兼任されておりましたので……たまたま父を捕縛したのがデイビッド様だったのです。母と兄も一枚噛んでいたようで、知らぬうちに、と。──お嬢様にお話することでもありませんが、私はあまり期待された子ではなかったので、一人残された私を何故かアーデルハイド様のお世話係に任命されてのです。きっと、デイビッド様が拾ってくださらなければ、このような暮らしは出来ていなかったでしょう」
ヘレナが名を口にすることすら憚る小さな男爵家は、八公の一つ、風のリシュタンヴェルゼによって生まれた男爵家らしい。リシュタンヴェルゼに連なる一族として手に入れた風の魔力を、ヘレナだけ受け継がなかった。
望まれない娘──ヘレナは妾の子だったらしい。父が捕まり母と兄が自害した結果、ヘレナは平民となった。三十を超えた今も、血を継ぐことをよしとせず、浮いた話もなくモルヴィアナに忠誠を誓ってくれている。
「アーデルハイド様を見た時は驚きました。このような神秘的な方がこの世に存在なされるなんて、と」
「お母様、とても美人だもんね」
「ええ──本当に、お嬢様はアーデルハイド様に瓜二つです」
それは、モルヴィアナが何よりも嬉しい言葉だった。素晴らしい人達と血が繋がっているという喜び。あの世界で味わえなかった血の繋がり。
神様はあの世界こそが異世界だと言ったけれど、モルヴィアナは二十余年もの記憶がある。存在しないものだよと言われても、受けた記憶は薄れはしない。
おかげで衒うことなくジェイディスに報復できたのだから結果的には良かったのだけれど。
「へレナ、ありがとう。私が今までお母様がいない寂しさを感じなかったのは、きっとヘレナがずっと傍に居てくれたからだと思う」
「お嬢様……」
ヘレナは母ではない。母代わりではあったけれど、母だと思ったことは無い。
それでも、モルヴィアナの寂しさを埋めてくれたことには変わりない。
モルヴィアナは大好きなハニーレモンの香りに酔いしれながら、ヘレナにもう一度感謝を告げたのだった。
父と兄が用意してくれた、公爵令嬢というものになって一日目は手紙の精査で終わった。
国王陛下の命令により裁判内容は秘匿とされた結果、新聞社の一面を飾ったのは母アーデルハイドの真実だった。父も全面的に取材に協力したらしく、二人の燃え上がる恋は実話として再度出版されるらしい。
ヴァイオレットからも速達で手紙が届いていたが──ヴァイオレットの風の魔法は、ジャックに劣るがそれなりの精度である──普段とは比べ物にならない乱れた文となっていた。次の授業はこの騒動で延期になっているのだが、今から根掘り葉掘り聞かれる未来が確定したと言うわけだ。
氷刃の貴公子と炎の乙女の伝説も相まって、今この国で一番話題の公女となったモルヴィアナの元には信じられないぐらいの手紙が届いていたのだ。
なにより、王妃殿下がファースト・ティータイムの手伝いをすると自分から言い出した。元々パーティも、決まった派閥とクローズドでしかしてこなかった王妃だ。モルヴィアナがどのようにして王妃の関心を得たのか気になったのだろう。面倒なことをしてくれた。
だが、そのおかげでモルヴィアナは理由を作り上げる必要なく、シェリルをパーティに誘うことが出来る。──これは、断ることの出来ないお誘いだ。
「お嬢様、烏が二羽です。どうしますですか」
部屋の前でヘレナに下がるように伝えておいて正解だった。噂を聞きつけてゴシップ社が使わせたパパラッチを上手く捕まえたシャルリーズが部屋の中心で待っている。
両手には言葉通り二羽の烏。ゴシップ社が使う偵察用の 魔導具だった。魔導具を利用すれば魔力を持たない平民でも魔法を使うことが出来る。これは 魔力探知の魔法が組み込まれていた。
丁寧に嘴を掴んで鳴き声を抑えている。ごく普通の人間相手には全く見劣りしない戦闘力だった。
目元に録画機能があることに気づいていないシャルリーズを確認しながら、モルヴィアナはその魔法を無効化する。これも真実の瞳の特典である。
「躾が行き届いているな」
「はい、にーにが……コホン、ジャックが教えてくれました」
「それぐらいの身のこなしがあれば、私の専属に付けるだろう」
「えへへ、お嬢様の侍女に頑張ってなります!」
数日後には魔力適正を受けて光の魔力と診断が出るはずだ。鍛錬はその後でいい。シャルリーズにはモルヴィアナが昔からやっているデイリークエストの内容を教えて様子を見ることにした。
シャルリーズは慣れた仕草で獲物を受け渡し、流れるようにカーテシーを披露する。
シャルリーズから烏を預かると、音もなく窓際から男が現れる。ずっと居たくせに出るタイミングが分からなくていつも様子を見てしまうのがジャックの癖のようなものだった。
「本当にこんだけでいいんですか? もうちょっと仕込んどいた方が使えると思うけど……」
「スラムの娘が出来すぎるのは問題だ。ただでさえ、今注目を浴びている状態だし、余分な原因は取り除いておきたい。何より、磨けば光る程度の原石の方が、私の躾で使えるようになったと思わせられるだろう」
──物心着く頃に屋敷から追い出されたと聞いていたが、レイハウスである程度の躾はされていたようだ。貴族の礼節に関しては心得がある、ということか。
「シャルリーズ、最後にもう一度、選択権をやろう」
せっかく育てるのであれば、無駄な時間を過ごしたくはない。既に敬愛を抱いている相手に疑う必要もないが、これはモルヴィアナが持つ竜の属性による【契約】の一つだ。人間と違い、魔力を持て余す竜はその言葉ひとつにも魔力を馴染ませることが出来る。
以前の世界で死ぬ思いで覚えたD言語のプロットを書き出す。この世界の魔法は基本的にD言語の組み合わせらしい。それらは、ドラゴンにしか発音できない、音声にならない鳴き声のようなものになった。
体液を媒介していないのであくまで竜の中の口約束、というものだが人間に比べればいくらかマシだろう。
これでシャルリーズは、少なくとも生半可な覚悟如きではモルヴィアナの元を去ることが出来ない。
欲しいのは可愛いお人形ではなく、使える駒だ。
「私のところに来れば豊かな暮らしはできるが今のような穏やかな暮らしはできない。私が手放すと言えば、お前はすぐにでも自由になれる」
甘い言葉。出来るだけ慈愛に満ちた微笑みを心掛ける。シャルリーズは真っ直ぐにモルヴィアナを見つめながら、考える素振りもなく即答した。
「……はい、お嬢様。私はこの数日、本当に幸せでした。怖いものはなくて、お腹は満たされて、会いたいと思えば、にーにが来てくれる。今まで生きて来た中で、一番幸せな数日間でした。──だから。私はお嬢様の元で力を磨き、恩を返したい。これで、答えになってますですか?」
──お前の兄とはもう会えない可能性だってあるのに?
試すような言葉をなげかける。これからシャルリーズの一番はモルヴィアナになる。兄とモルヴィアナが危険に晒された時、シャルリーズは問答無用でモルヴィアナを選ぶ必要がある。モルヴィアナが連れ帰るというのはそう言うことだ。モルヴィアナの家族は心優しく、全てのものを受け入れるが、それはその者が役割を果たした時だけ。
シャルリーズはモルヴィアナのメイドとして引き取られる。だから、シャルリーズはモルヴィアナに命を捧げる必要がある。
もちろん、モルヴィアナはシャルリーズに命を捧げられるようなヘマを起こすつもりは無いが、それがシェリルを幸せにするために必要不可欠であるならば、手段は選ばないだろう。
その時のために、モルヴィアナは再三確認する。たとえその時に、裏切り者だと詰られても、遂行出来るように。
「はい。私と兄は、貴方に忠誠を捧げます」
真っ直ぐな瞳に嘘偽りがないことを理解して、モルヴィアナは微笑んだ。
「ふっ、可愛い金髪の娘は好きだ」
「シャル、金髪だったこと初めて嬉しく思いますっ!」
不思議に思ったモルヴィアナを察してか、ジャックが口を開く。
「下町で金髪ってのは大体貴族の落とし子だ。普通なら魔導具で隠すが……シャルのは強すぎて俺じゃとても……」
「なるほどな」
だからあんな端の方で暮らしていたのか。敢えて危ない煤を被るような仕事をしてまで美しい金色とその瞳を濁らせた。この世界では根本的な髪色を変える方法が存在しない。髪色を偽るというのはその人間が表を歩けない存在だと主張するようなものだからだ。
今目の前にいるのはシェリルに似た、輝かんばかりの金髪を見る。
──ああ、私もこの色だったらなぁ。
モルヴィアナは、家族と同じ銀色の毛を気に入っている。それが、紛れもなく家族の証だと思えるから嬉しい。
でも、少しだけ。金色だったら本当の姉妹のよう見えたのにな、なんて思ってしまうのだ。
だからシャルリーズは好きだ。少しだけ心が慰められるから。
シェリルに会えない時もこの色を見れば思い出せるから。
モルヴィアナは眩しい気持ちでシャルリーズを見た。花が綻ぶような笑みを浮かべて、シャルリーズの頭を撫でてやる。
「シャルリーズ、これからはその金髪を心から喜ぶがいい。そうすれば私が嬉しい」
「はい、そうするです!」
──うん、敬語のお勉強は後ほどゆっくりとしてあげなくては。
契約が済んだところで後方支援者顔をしている男に視線をくべる。
「それと、お前にもう一つ頼むことがある」
「今からか?」
「ああ、早く済ませておきたい」
嫌な顔をした男は、それでも命令を拒めないのだから健気なやつだ。




