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ショコラ・ショー


 赤いベルベットの敷かれた小箱の中には、大小様々なチョコレートカラーの真珠がまばらに丸く並んだブローチが一つ。それぞれの真珠は真円というにはいびつで、薄っすらと縦に線が入っている。とろとろに溶けたチョコレートをフォークでひっかいたような線だ。シレーヌは「なるほど」と小箱の中を覗き、面白そうに口許に微笑みをのせる。

 この手の話には疎くてなあ、という前置きとともに差し出された、小箱に収められたバロック真珠のブローチ。「魔女の足跡」と名付けられたそのブローチを見つめて、「おそらくは淡水真珠ですね」とシレーヌはカウチソファにゆったりと身を預けた。


「見ただけでわかるもんか」

「宝飾品や貝の生態に興味があれば」


 自然と覚えてしまうものです、とシレーヌはふんわりと笑って「うっすらとした線が見えるのは安価な淡水真珠に見られる特徴なんですよ」と小箱の中身を指差す。へえ、と感心したような声を出しながらも「安価なのか?」とコウは首を傾げた。


「俺が預かった時には“かなり高価なもの”って言われたぞ。……まあ、早めに手放したいから買い取ってくれるなら言い値でって話だったし、そういうもんなのかな」

「手放したい?」

「いわくつきらしい。じゃなきゃ回ってこないさ。こんな話」

「いわく……。それは、どんな?」

「関わると不幸になるとか言ってたな。よくある話だし──それ以上は聞かせてもくれなかった。ただ、この“魔女の足跡”に隠された呪いを解いてほしいと。それが望みだと。といてくれるなら言い値で手放す。そういう契約をしてきた。元々タダで回収できるとは思っていないし、別にいいんだけどな」

「懐が痛むのもあなたではないし?」

「そう」


 ニヤリと笑ったコウに「わるい人」とシレーヌは呟いて、「あなたは“魔女の足跡”を知っていますか」と優しく笑う。しばらく考えてから「見たこともないな」と返し、あくびを噛み殺したコウに「ほんとうの足跡のことではありませんよ」とわらって、細い指で宙にくるくると円を描いた。


「魔女の足跡。──このブローチの持ち主はサセックスにお住まいの方ではありませんでしたか? あるいは、ブローチのルーツがサセックスであるかと」

「へえ。そこまでわかるもんか。当たりだ。イングランドのサセックスで預かった。……それも真珠から分かることだったりするのか?」

「いいえ。“魔女の輪”であればフランスやドイツがルーツだといったでしょうし、“ドラゴンの休息場”であればチェコだと推理しましたね。もう少しヒントを出しましょうか。“妖精の輪”」


 ふふふ、と笑って楽しげなシレーヌは試すようにコウを見つめている。しばらく考え込んでからコウは「菌輪?」とブローチを指差す。眠気のせいか頭がよく働かない。強行軍でここまで来たのは失敗だったかと考える一方、早くここへつけて良かったとも思う。この空間はいつだって安心できる。

 コウの答えに正解です、とシレーヌはまた空中にくるくると円を描く。


「きのこが円状に発生したもののことを菌輪と言いますが、イングランドのサセックスの方ではこれを“魔女の足跡”と呼ぶのです。菌輪は……“妖精の輪”と言われることのほうが多いのかしら?」

「あー……まあ、言われればフェアリー・リングって感じだなあ」


 イギリスの森の方に仕事で行ったときにこんなようなのを見たな、とコウは改めてブローチを眺める。大小様々な形の真珠が円を描くように並べて留めてあるのは、確かに菌輪を彷彿とさせた。ただ、言われなくてはわからなかったとも思う。

 コウが森で本物のそれを見たときは、白っぽいキノコが日の当たらないところに丸く輪を描いて生えていたのだ。

 日本で生まれ育ったコウからしてみれば、まさしくおとぎ話みたいな光景で。本当にこんなものがあるのかと少し感動したのを思い起こし、それから「魔女か」と呟いた。疲れたような声音だったことにコウ自身は気付かずに。


「魔女絡みの逸話だったらごめんだぞ。また呪われるのは心底うんざりだ」

「その時はまた解いてさしあげますよ。わたしのかわいいカエルの王子さま」

「勘弁してくれよ……」


 数ヶ月前にヒキガエルになった時のことを思い出し、コウは顔をしかめる。仕事上のやむを得ないことで魔女の機嫌を損ね、呪いをかけられたせいだった。シレーヌが気付いてくれなければ今頃はカエルのままだっただろうし、最悪の場合死んでいたかもしれない。今はすっかり冬だが、人間のコウはヒキガエルの越冬の仕方なんて知らないし、実行できるとも思えなかった。

 荒れなんてものとは無縁そうな白い手のひらが、醜いヒキガエルのコウを手のひらに乗せてくれなかったら。そしてその鼻先にキスを落としてくれなかったら。シレーヌがカエル嫌いでなくてよかったと心から思った出来事だった。柔らかい唇の感触をもはや覚えていないのだけが心残りだった。

 並の“魔女”の呪いであったとしても、通常なら解呪は難しいと聞くが、シレーヌやここに住んでいるもうひとりなら話は別だ。あっさりと呪いを解いてしまうし、人にはできない方法で“怪異”のたぐいも無力化してしまえる。


「でもお前、本当のカエルにキスなんかするなよ。サルモネラ菌がいたり寄生虫に感染したりするからな」

「それは……。わたしのようなものにも影響はあるのかしら」

「それが分からないからやめとけって話だよ。万が一ってやつ。コイとかはカエルも食うし、サルモネラ菌を保有したりしてるけどさ。お前が感染して無事でいられるかはまた別の話だろ」

「まあ。コイと同列に語られたのなんて初めて」


 くすくすと笑いながらシレーヌは「それはさておき」と薄青色の瞳をきらめかせる。ブローチにそそぐ眼差しは好奇心の塊だ。うつくしい一組の眼がこうして煌めくのを眺めるのがコウは好きだった。澄んだ泉の水面のようで、いつまででも眺めていられそうな気がしてくる。


「『関わると不幸になる』……その詳細は語られず。呪いそのものが秘匿されているではありませんか。まるでトリュフチョコレートのよう。柔らかく繊細なガナッシュを包み隠すのは素晴らしい発想かもしれませんが。いわくつきの“いわく”すら教えていただけないのでは、わたしにもどうにもできませんよ」


 「関わると不幸になる」だけではあまりに抽象的すぎるとシレーヌは言うくせに、その顔は楽しそうだ。


「だよなあ……」

「他にわかっていることはありませんか? 現在の“魔女の足跡”の持ち主の曽祖父、曽祖母あたりに宝石商がいたとか」

「……お前、本当は全部わかってるんじゃないのか?」


 当たってるよ、とコウは上品に微笑む淑女に首を傾げる。大した話もしていないのに、ブローチ一つを見ただけでここまで話が進んでしまった。

 俺にはなんでそこまで分かるのかわからない、と口にしてしまえばシレーヌが「得意分野というものです」とテーブルに置かれたティーカップに手を伸ばす。細い指が持ち手に優しく絡み、たおやかな手のひらが金の蔦模様に添えられる。優雅に紅茶を一口。同じデザインのティーカップなのに大きく見えるもんだな、とコウは自分の前に置かれたカップを見る。コウにとっては片手で包み込めてしまえそうな華奢なカップだった。


「あなたはサメの見分けができるでしょう? でも、そのことはわたしにはできないことです。それと同じ。わたしからすれば、どれもこれも似た形の生き物の見分けが付くほうがわからない。あなたからすれば、ブローチの見た目と名前だけで来歴を推し測れるのが信じられない。それだけのこと」

「そうかあ……? サメだって似てるように見えても結構違うぞ」

「それが経験の差なのでしょうね。わたしはたまたま、宝石と“いわく”を、あなたはサメのことを心得ている」


 さて、とシレーヌはカップをソーサーに戻す。品の良い所作は一つの音も立てない。立ち居振る舞いといい雰囲気といい、何もかもがどこかの令嬢じみたこの女性が“人間ではない”のにコウはまだ慣れていなかった。


「あなたがこのブローチをわたしのところへ持ってきたのはいい判断でした」


 細い指がチョコレートのような真珠の一粒一粒をゆっくりとなぞっていく。瞼を縁取るレースのように繊細な白いまつげが伏せて、珊瑚のくちびるには微笑みが乗る。一瞬だけ真珠がどろりと溶けたように見えてコウは息を呑んだが、瞬きをして見つめ直せばそこにあるのは溶けてもいない真珠たちだ。何だ今のはとシレーヌに目をやれば、シレーヌは少し困ったようにコウを手招いた。


「こちらへいらして。わたくしの隣に。わたくしのそばに。あなたの方へ飛んでいっては危ないものですから」

「飛ぶ?」


 シレーヌが優雅に腰掛ける青いカウチソファに慎重に腰掛けて、コウはシレーヌが触れたままの小箱の中のブローチを見つめる。先程まではなんの気もなく触れていたはずのものが途端に不気味に見えてきた。シレーヌがコウを隣に座らせたということは、今コウはシレーヌに守られる立場にあるということだ。


「あなたはホープ・ダイヤを知っていて?」

「ホープダイヤ? あの、持ち主が呪われるダイヤのことか」

「ええ」

「この真珠もその手のヤツってことか?」

「いいえ。“その手のヤツ”というよりは──」


 シレーヌの指先はチョコレート色の真珠を撫でている。淡く色づいた爪は時折掠めるように真珠を引っ掻いていた。

 薄青色の瞳をゆらりと揺らめかせ、シレーヌは唇をゆっくりと動かす。


「これは、そのホープ・ダイヤそのものです」


 シレーヌが真珠のブローチを握り込む。その途端にどろりと溶けた何かがシレーヌの手にまとわりついた。泥のようにもチョコレートのようにも見えるそれは生き物のように動き、ズルズルと白い肌をなぞるように這い回る。目が覚めた心地だ。肝も冷えた。とはいえシレーヌにまとわりつくそれをそのままにするわけにもいかない。それを振り払おうと立ち上がりかけたコウにシレーヌは首を横に振った。


「だいじょうぶ」

「大丈夫ってお前」


 ブローチは手放し小箱の中へ。留められていたはずの茶色の真珠は消えていて、代わりに金属の台座だけが残されていた。茶色くどろどろともたついた何かはシレーヌの腕にへばり付きながらコウの方へとその不定形の体を伸ばす。シレーヌはそれを遮るように茶色のそれを掴み、手のひらの中に閉じ込めてしまった。


「……ホープダイヤって青いダイヤモンドじゃなかったか?」

「ええ。そのとおり」

「これ、茶色い真珠だったよな」

「ええ。ご覧の通り」


 うぞうぞと動いている手のひらの中のものをシレーヌは注視している。


「これは、茶色の淡水真珠であり、ホープ・ダイヤとその性質を同じくするもの」


 切り離されたのです、とシレーヌは眠気を誘うかのごとくやわらかな声で、手のひらの中のものを捏ねている。


「宝石は磨かれてこそその美しさを発揮する。ホープ・ダイヤとてそれは同じ。原石から切り出し、研磨し、人の手によって人を惑わす魅力を身につける。けれど」

「けれど?」

「真珠は、取り出されたそのままの状態で……人を惑わす。美しいのです。まやかしのように」


 手のひらを擦り合わせて何かをすりつぶすようにしながら、シレーヌは立ち上がりティーカップの上でしばらく手を動かす。見つめていたコウの目の前でカラカラとかすかな音を立てて、何かきらめくものがティーカップの中へと落ちていった。

 ティーカップの中を一瞥し、シレーヌは先程おいたばかりのブローチに手を被せる。シレーヌが白い手を小箱の上からどければ、そこには元通りの“魔女の足跡”が真珠特有の柔らかな輝きとともにベルベットの赤い海に浮かんでいた。


「手品、みたいだな」

「人を惑わすのは宝石だけではないということです。わたくしたち“怪異”もまた、そのうちのひとつ。そしてわたくしたちは……時として、同類をも惑わす」


 呪いは解けませんが、とシレーヌは“魔女の足跡”が収められた小箱を指差す。


「呪いそのものは取り除きましたよ。呪い以外は不要であるというのなら、持ち主の方にこのブローチを返してしまってもよろしいかと」

「取り除いた?」

「真珠の方にはなんの瑕疵もありませんでした。──問題だったのはこちら。“核”のほう」


 ティーカップをちらりと見てからシレーヌは「あなたは覗かないように」とコウに釘を刺す。“飛んで”きますからね、と美しい声で念を押して。

 核って、とコウはシレーヌを見る。シレーヌはティーソーサーでカップに蓋をしているところだった。陶磁器の皿による物理的な蓋で“飛んでくる”のが避けられるものなのだろうかとコウは思ってしまうが、シレーヌがやることに無駄があったことは少ない。


「真珠の核ってことだよな」

「ええ。真珠はどうやってできるかご存知でしょうか?」

「……貝の内側に砂粒とかが入り込んで出来るとかじゃないか」

「概ね正解です。細かい部分は省きますが、貝の内側に外套膜のかけらと核になりうるものが入り込むと……真珠が作られます」


 シレーヌはコウヘ目を向け、両の手のひらを使って丸を作る。体の内側で真珠を作る袋を作るんです、と手のひらで作った丸をコウの方へ少し近づけた。


「この真珠袋の中で“核”に真珠の元となるものが分泌されて、核を何重にも覆い、そうして出来上がるのが真珠というわけです」

「覆われた“核”が呪いだったって?」

「ホープ・ダイヤの……ご兄弟とでも言うべきでしょうか。研磨された際に切り取られたものの欠片かと」

「欠片?」


 なんでそんなものが真珠の中に、とコウはシレーヌに聞いてしまう。シレーヌは「どうしてでしょうね」と首を傾げるだけだ。人為的なものだとは思いますが、とは言いつつも言及を避けてシレーヌはうっとりとため息をつく。


「わたくしは“フレンチ・ブルー”を見ることは叶いませんでしたから。あと百年ほど長く生きるか、ないしは百年早くあのダイヤが発見されていたなら……惜しいことです。王の胸元に留まるその姿をぜひとも見てみたかった」

「フレンチブルー?」

「ホープ・ダイヤはフレンチ・ブルーと呼ばれていたブルーダイヤから切り出されたものです。昔はフランスの王が所持していたそうですよ」


 へえ、とコウは思わず感心してしまう。そんな話は初めて聞いた。ホープダイヤが再研磨されていたものだったとは。きっと最初からあの大きさで、グレイッシュブルーの静かな煌めきを湛えて輝いてきたものと思っていたのに。


「でかくて綺麗なもんならそのままの状態で残せばよかったんじゃないのか。何も再研磨しなくても。磨いたぶんだけ小さくなるだろ」

「美しさを引き立てるには必要なことと職人たちが判断したのでは? 大きさも一つの価値ではありますが、見たときの美しさをさらに引き上げることができるというのなら──やってみる価値はあったでしょう。あるいは、盗品であることを誤魔化すための措置であったのかも」

「盗品? あのダイヤって盗まれてるのか」

「フランス革命のさなか、6人の窃盗団によって。……でなければフランスからイギリスへと渡るはずがありませんよ」


 シレーヌはふふふ、とたおやかに微笑む。あれほどの宝石を望んで手放す人はそうはいないはずです、と続けて。


「“フレンチ・ブルー”は盗まれてからどこかのタイミングで再研磨され、ダニエル・エリアーソンの手に渡りました。イギリスのダイヤモンド商です。1812年に彼が現在に伝わる“ホープ・ダイヤ”の持ち主であったことが記録に残っています」


 これは、とシレーヌはティーカップを指差す。先程なにかがカラカラとこぼれ落ちていった光景をコウは思い出していた。それは、とコウはつぶやいてしまう。シレーヌはいつものとおりに柔らかく微笑んでいた。


「その欠片ってことなのか。フレンチブルーから切り出されたときの……欠片?」

「そういうことです。……どうしてわざわざ養殖真珠の核に使われたのかはわかりませんけれど」

「変な話だな」

「魔女の足跡と名付けられるくらいですし、魔女が実際に関わっていても不思議はなさそうですね」


 これの納品にはわたしが行きましょう、とシレーヌはふう、とため息をつく。あなたが持っていくのは不安ですから、と続けて。


「わたしたちが眠りについてから、世界にはずいぶんと怪異が溢れたのですね。昔はこれほど多くの怪異に遭うことはありませんでした」

「へえ。昔のほうが多いのかと思ってた」

「いいえ、全く。少なくとも……存在を実感することはなかったように思います。まるで境界線が揺らいでいるみたい」


 少なくともわたしは、“眠る”前に魔女に出会ったことはありませんでしたよ、とシレーヌはコウの頬を撫でた。頬を撫でた先、コウの耳に留められたイヤーカフスを指先でくすぐる。何か温かいものが耳元で弾けたような感覚があったが、シレーヌは微笑むだけだ。


「しばらくは火の前にいらして。暖炉の前で十分ですから。耳飾りはそのままに。そのかわり、火傷にならないように留意して」

「……魔除けが必要なレベルで呪われてたりしたか?」


 火も、ピアスも、魔除けとしてよく知られているものだ。気付かぬうちに宝石の呪いを身に受けでもしたのだろうかとたずねたコウに「わたくしがそれを許すとでも?」と珊瑚のくちびるが柔らかく紡ぐ。


「少し寝たらいかが。ここまでこれを持ってくるのに疲れたんでしょう。ここならわたしもいますから、安心して寝てくださって結構。ショコラ・ショーをいれてまいりますから、それを飲んだら少し寝て」


 暖かい暖炉の前ならよく眠れることでしょう、とシレーヌは困ったように笑ってコウの額にキスを落とす。


「ショコラ・ショーってなんだっけか……」

「ホットチョコレートですよ」

「さっきのどろどろのやつ思い出しそうだな」

「記憶ごと飲み下しておしまいになったら」


 軽やかに笑ってシレーヌの冷たい手がコウの頬から離れていく。それを名残惜しく思いながら、コウは言われたとおりに暖炉の前へと移動した。


 パチパチと爆ぜる薪を見ながら、コウはゆらりと揺れる炎の向こうに一人の少女を幻視する。

 魔女は火炙りか水に沈められるかして人に退治されるものだ。その本質が良いも悪いも関係なく。魔女とされた時点で怪物であり化け物であり、人類の敵だ。


 いつか、いつかシレーヌがコウのよく知る〝魔女〟と出会ったとして。その時にシレーヌはあの少女をどうするだろうか。コウよりずいぶん小さくて、つややかな黒髪のあの少女は退治されてしまうのだろうか。あのブローチのように〝本質〟を隠して振る舞うあの子は。


 ゆらり揺らめく熱の塊にコウは手を伸ばしてしまう。


「飲み下せたら、楽なのにな」


 甘さも苦さも愛しさも憎しみも。

 すべてを溶かして飲み下せたなら、どれほど楽だったことだろう。

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