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最終話 いつかまた二人で

「……あっと言う間だったわね」


 船の上、遠ざかっていく島を見ながらわたしはつぶやいた。

 夢のような時間は過ぎて、今はまた海の上。二日後にはフロレンシア王国に到着する。いつも通りの日常はすぐそこだ。

 名残惜しさを噛み締めながら、わたしは隣に立つディオンに問うた。


「ディオン、楽しかった?」

「あなたと一緒にいて楽しくないなどということはあり得ないが、その上で言うなら……この旅のことは一生忘れない」


 彼が笑みを浮かべて答える。それにつられてわたしも微笑んだ。


「そうね。本当に素敵な旅行だったわ」


 つけている首飾りを指で挟み、そっと撫でる。カーネリアス公国を発つ前、港まで見送りに来てくれたキャリィとシャリィがくれたものだ。二人で綺麗な色の貝殻を集めて繋ぎ合わせて作ってくれた、世界に一つだけの贈り物。


「また来たいけれど……それは難しいわよね」


 今や豆粒ほどの大きさになってしまった楽園に向かい、わたしは小さくため息をついた。

 わたしたちのために、ユーディニア様が用意してくれたのは豪華な屋敷での時間とたくさんの品物の他に――実はもう一つある。

 カーネリアス公爵の署名が入った、特別な申請書だ。これを公国に送れば最優先で滞在先の手配を行ってくれる。本当に限られた場合にしか発行されないもので、わたしとディオンが存命の限り有効期限もずっと続く。

 ……ただ、これを使う機会はきっともう訪れないだろう。今回は王国のたくさんの方々のご厚意で休暇を得ることができたが、大魔術師とその従士として生きる以上、やはりその役目を命ある限り果たさなければならない。


「……いや、また必ず来よう」


 静かに、でもはっきりとディオンが言った。


「え……?」

「お互いに役目を全うして、生まれた子供たちが皆巣立ったその時に……また、あなたをあの場所へ連れて行く。約束だ」


 それは何十年も先のこと。その時には海に入ったり馬に乗って走り回るのはさすがに大変だろうけれど……景色が綺麗なところで二人でゆっくりお茶を飲みながら、思い出話をして過ごす――とても穏やかな未来。


「素敵。じゃあその時まで元気で、それに仲良しでいないとね」

「勿論だ」


 包み込まれるように後ろから彼に抱きしめられ、わたしは思わず笑い声をあげた。


「ふふ、まだ足りないの?」


 太陽の宮殿で過ごした最後の三日間は、ひたすらにわたしがくっついたり、隙あらばディオンが押し倒してきたり……お互いの体が離れていた時間の方が短かったくらいだ。

 あともう少しこの生活が続いていたら、ディオンはともかくわたしは絶対に駄目な人間になっていたと思う。悪戯の跡、帰るまでに全部消えるかしら。

 ……ニコラとエリッサがくれたプレゼントも、そう遠くないうちに出番がありそうだ。


「許してくれ。ただセシーリャのことが好き過ぎるだけなんだ。満たされたと思っても、またすぐにあなたが恋しくてたまらなくなる」

「……わたしも、いつだってディオンが恋しいわ」


 体の触れあいがすべてとは言わないけれど、やっぱり抱きしめてもらえると幸せをより感じられる。

 これから先も彼が隣にいてくれるなら、何が起きても乗り越えられる。わたしに勇気を与え、優しさで包んでくれる人。彼にとって、わたしもそうでありたい。

 いつかまた海の向こうの楽園を訪れる時には、両手に抱えきれないほどのたくさんの思い出を持って――最高の休暇を二人きりで。


「ディオン、大好き」


 わたしの言葉に世界で一番素敵な旦那様は、心からの笑顔ととびきり甘いキスで応えてくれた。

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