9.5話 女公とその取り巻きたち
――やっと見つけた。
カーネリアス城、自分の執務室へ向かう道中のユーディニアの脳裏に浮かぶのは、先ほどの剣術大会にて優勝をかっさらった男、ディオン・エインゼールの姿。
褒賞の授与の場で見せられた、仲睦まじい夫婦の様子。妻へ向ける、優しく温かい彼の視線。
――あれが欲しい。
「凄かったなぁ、今日の優勝者。騎士どもに見習わせた方がいいぜ」
ユーディニアの半歩後ろから声をかけてきたのは、彼女の縁者にして側近、リカード・ゼリンダルだ。
「……そうね」
呟くようにユーディニアが答えると、リカードは距離を詰めて彼女の隣に並び、顔を覗き込んできた。
「気に入ったんだな、あの男が」
リカードは察しがいい。ユーディニアが足を止めると、彼も立ち止まってにやり、と笑みを浮かべた。
「リカード、あの人のことを調べて。滞在先はもちろん、出身国、職業……彼に関わることなら何でも」
「仰せのままに」
ユーディニアは背後に控える、別の貴族たちの方に体を向けた。
「ニコラ、エリッサ。リカードを手伝いなさい」
「お、おう」
「分かり、ました……」
二人組の男女は戸惑いつつも、リカードに連れられて去っていく。残されたのはユーディニアと、もう一人の貴族の青年――カルロ・サヴォーナだ。
「えと……ユーディニア、何をするつもり……?」
遠慮気味に尋ねる声を無視し、ユーディニアは再び歩き出した。カルロが慌てた様子で後を追ってくる。
「あの人、奥さんがいるんだから変なこと考えたら駄目……」
「黙りなさい」
ぴしゃりとユーディニアが言うと、カルロは小さく息を飲んで口をつぐんだ。
「公国の頂点はわたしよ。あなたは余計な口を挟まないで」
気の弱いカルロはいつもおどおどしていて、それなのに時々こうしてユーディニアに意見するが、彼女が黙れと言えばすぐに何も言わなくなる。情けない男――ユーディニアは冷ややかな視線を彼に向けた。
「ここからはわたし一人でいいわ。ついて来ないで」
廊下に響くのは、ユーディニアの靴の音だけになった。