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春にして青く  作者: 月仁
3/3

新学期

新学期編です。

楢崎と教室で会った後、誰もいなくなった教室の黒板に貼られた座席表を見て、自分の席へ座った。

1番後ろから2番目の窓側の席だった。

この席はサッカーゴールがある校庭が目下にあり、授業中も暇をしないだろう。

僕はしばらくの間、ボーッと一人校庭を眺めていると、聞き覚えのあるやかましい声が頭の上から降りかかった。



「おっぱよ〜!葵!今年もよろしく♡

やっぱどんなに早く学校に来ても先に教室にいるのは葵だね。」



声の主は昨年同じクラスで共に行動していた、吉田咲人の声だった。彼は男にしては声が高く、身長も小さい、そしておしゃべりが得意だった。

四六時中しゃべり続け、三度の飯よりしゃべることで栄養補給しているのかと疑ったこともある。




「おはよう。

まず語尾にハートをつけるな。

それに今日は僕が1番に教室に来たわけじゃない。」と、僕は咲人に言った。



すると、咲人は驚いたようで

「えっそれは面白い。どんなやつか葵の相棒として拝めておきたい。朝起きの才能を我に与えよぉ〜ってね。」と、言った。



「まるであいつを朝起きの神様みたいに,,,」

僕は顔をしかめて答えた。




「おはよー葵。

どうしたのその顔。」



すると、ドアの方からこれまた聞き覚えのある声がした。第2の声の主は教室に入るなり、僕たちの方へは来ず、真っ先に座席表を確認しに行った。

彼女は咲人と同じく昨年同じクラスの女子で咲人の幼なじみの成田 穂希であった。彼女は咲人より落ち着きがあり、背も女子にしては高い。



「おはよう。別になんでもない。」僕は答える。



「新学期にして、もうすでに咲人に困ってるように見えたから」と穂希は笑った。



「ああ、どうにかしてくれ」僕がそう言うと



「無理よ。今年も咲人の世話よろしく。」

と穂希は真顔で答えた。



それを聞いた咲人は穂希に向けて舌を出した。

次に僕の方を向き直し



「今年も葵のサイドキックとしてどんなことがあってもついて行くぜ!」と言い放った。



僕はいつも通りの2人を見て、なんだか安心した。

そんなやり取りをしているうちに新しいクラスメイト達が教室にぞろぞろと入ってきた。

クラス担任の新垣先生は、僕達を始業式のため体育館へ誘導した。





そして、始業式は何も変わりなく行われ、流れるように学年集会がそれぞれ場所を変えて行われた。2学年は体育館に残り、学年主任の山田の挨拶で始まる。挨拶と言っているのに山田の話には終わりが見えず、山登りのように登っては下って終わりそうで終わらない。



「えー、皆に紹介する人がいる」



この言葉で僕は閉じそうになっていた目を開け、山田の方を見る。山田は手招きし、男子生徒が立って皆の前に出た。僕は息を飲む。



「えー、これから皆の仲間に加わる楢崎 瞬くんだ。東京の学校から新しくうちの学校へ転校してきた。軽く自己紹介できるかな。」



と、山田が転校生に聞き、皆が前を見る。

転校生は、はにかんで、赤髪を片手でおさえながら堂々と話し始めた。



「えっと、ミナサンおはようございます。

東京から転校してきた楢崎 瞬です。

ドウゾヨロシク。」



僕は口を半開きにし彼の自己紹介を聞いていた。

確かに見たこともないと思っていたが、朝のあいつが転校生だとは気づかなかった。

そんな僕を彼は大勢の中から見つけ、僕に向かってウィンクをした。すると周りの女子達が騒ぎ出した。




「凄い人気だね彼!それにあの髪色見たことがない,,,ってあれ?葵?大仏みたいに固まってどうしたんだい?」




と、咲人が近づいてきて囁いた。

僕は咲人の頭をノックするように軽く叩き、楢崎の行動ひとつひとつに左右されている自分におかしさを覚えた。




山田が締めくくり学年集会が終わると一斉に人が楢崎の方へ流れていく。男女関係なく集まり、先生も立ち往生していた。

僕と咲人が話していると穂希がよって来るなり



「楢崎くん人気凄いわね。これは先生も色々な意味でこれから大変でしょうね。」と、言った。



僕は楢崎の男子人気を不思議に思い

「確かに女子はわかる。あんな雰囲気の顔立ちも良い男なら大興奮だろう。

だけど、男子はなんなんだ?」と、聞いた。




すると、咲人が答えた。

「あの髪色でしょ。

こんな田舎じゃ東京では普通でもこの辺りでは目立つし、染めるのも先生に怒られる覚悟がある強者だけだ。」




なるほど。僕は思った。

そして、皆が楢崎の輝きにやられているのを見て、おかしくなっているのは僕だけではないと、安心した。なぜなら、先程までの奇妙な心地は僕の中の楢崎に対する羨望か、はたまた嫉妬みたいなものに結びつけておけば、浮ついた気持ちがおさまったからであった。





その時僕は知らなかった。

僕が楢崎に感じていたこの気持ちの正体と楢崎の放つこの輝きで彼が学校一の人気者になっていくことを。


















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