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9話 またケンカしました

「何考えてんの!?」

「……いや、特に深い意味はなくて…」


 その日の夜はフィリップが私の部屋を使い、私は詩織の部屋で彼女と一緒に寝ることにした。客が来る予定なんかなかったから、客間も用意してなかったんだよね。


 私がフィリップを連れて城に帰ったのを見た瞬間から明らかに不機嫌だった詩織は、私と二人きりになった途端、抗議と説教を始めてしまった。


「なんでエサにするつもりもない人間を家に連れ込んだわけ?この場所が人間たちに知られたら大規模な討伐隊が来るとは思わなかったの!?」

「…ごめん、そこまでは考えてなかった」

「はぁ…亜美さ、まだ人間気分が抜けてないんじゃないの?わたしたち、魔物だよ?人食いの魔物!人間の敵なんだよ?ちゃんとわかってる?」

「……」

「で、どうするのさ、彼」

「どうしよう、あんなこと言われちゃったし…」


 私の言葉に、詩織の表情がますます険しくなってきた。


 城についてから人間用の食べ物が何もないことに気づいた私は、改めて彼のために毒牙を使わずに魚を釣ってきて、人間が食べられる果物もいくつかとってきた。


 そして魚の素焼きと生の果物だけという簡素でワイルドな夕飯を食べてもらいながら、彼にこの森にやってきた経緯を話してもらった。


 彼は森の近くに領地を持つ貴族のご令息で、本人に次期領主になるつもりが全くないにもかかわらず、後継者争いに巻き込まれてしまったらしい。


 そして彼を排除したい兄一派の策略によって、上級の魔物が多数棲息すると噂のこの森の調査という、明らかに怪しくて必要性もよく分からない任務につくことを命じられた。


 その段階で、彼はどさくさに紛れて自分が暗殺される可能性を認識していたらしい。


 でも命令自体は領主である父から出ていたから拒否するわけにもいかなかったし、自分の腕にも自信があったから、暗殺の試みがあっても返り討ちにすれば良いと考えて、この森にやってきたと。


 本人が腕に自信があるというだけあって、魔物と私たちが設置した数々のトラップを物ともせず、森の最深部である湖までたどり着いたが、そこでもっとも信頼していた部下に裏切られて現在に至る、ということだった。


 彼は自嘲的な笑顔を浮かべて「もう僕に戻る場所はありません。きっと調査任務中にモンスターの襲撃によって死んだことになっているんでしょう」と悲しそうに言っていた。


 そして「すべてを失った僕に残ったのは、一人の騎士としての自分だけです。そしてアミ様さえ宜しければ、これからは命の恩人のアミ様に、僕に唯一残ったもの…つまり僕の剣を捧げたいと考えています」と言って、騎士が主君に対して行う片膝をつく敬礼をしてきた。


 いや、あの、フィリップさん。それ、私の前世では主にプロポーズの時に使うものでして…。超絶イケメンのあなたにそんなことされると私、ドキドキしちゃってどうしたら良いかわかんなくなるんですよ…。


 …と思ったけど、その姿を見る詩織の目があまりにも冷たくて、私は普通に喜んだり、照れたりすることができかった。私が一人で勝手にイケメンを拾ってきて良い感じになってるから、ちょっと嫉妬しちゃったのかな…?


「…あのさ、蛇はどうなのか知らないけど、蜘蛛はサイズさえ合えばなんでも食べちゃう生き物なの。彼がこの先も城に残るというならわたし、自分の本能を抑えきれるかどうかわからないけど?」

「なんでそんなこと言うの?詩織だって本当は人間食べるの好きじゃないじゃん。そんなこと言わなくてもよくない?」

「わたしがいつ人間を食べるのが好きじゃないって言った?大好きだけど?…わたしはね、亜美と違って自分が本当は人間だとか、心まで魔物にはなってないとか全然思ってないの!」

「……どうして心にもないこというわけ?てかなんでそんなに怒ってるの?私そんなに悪いことした?」

「別に悪いことしたとは言ってないでしょ?わたしは亜美に現実をちゃんと認識してほしいだけ!わたしたちはもう人間じゃないし、人間と一緒に暮らしていくのは無理なの!」

「そんなの私だってわかってるよ!!……もういい、寝る」


 売り言葉に買い言葉。生まれ変わって魔物になっても相変わらず幼稚な私たち。そして不貞腐れた私は、それ以上の話し合いを拒否して詩織に背中を向けた。


 …不貞腐れたというのもあるけど、幼稚な私たちは一度この状態になると会話を続けてもお互い感情的になって心にもないことを言うだけなんだよね。


 だからしばらく時間を空けて、お互いが冷静になったらもう一度話し合いをしてみよう。


 それにしても、なんか前世最後の夜も今回と全く同じような感じでケンカをしていたような気がするな。あの時はなんでケンカしたんだっけ…。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「なんで詩織にそんなこと言われないといけないわけ?ほっといてよ!私は幸せなんだからいいじゃん!」

「本当に亜美は今幸せなの?たまにすごく悲しそうな顔してんじゃん!亜美も薄々気づいてたでしょう?」

「気づいてたよ!でもなんで詩織にトドメを刺されないといけないわけ?てかなんで詩織が私の彼氏の浮気現場の写真なんか持ってるの?どう考えてもおかしいよね!あんた何なの?ストーカーなの?」

「…わたしは、亜美に幸せになってほしいと思ってるだけ!あんなクズのために亜美がこれ以上泣いてほしくないって思ってるだけだよ!」

「余計なお世話だよ!」


 その日、久しぶりに前世の夢を見た。そして思い出した。私が前世最後の夜に詩織とケンカをしてしまった理由…。


 その理由とは、私の彼氏の浮気現場の写真をなぜか詩織が持っていて、それを私に見せながら「いい加減目を覚まして」と私を説得してきたことだった。


 なぜ彼女が私の彼氏の浮気現場の写真を持っていたかは未だに謎だけど、それはともかく、今考えると詩織の意見は全面的に正しい。


 彼女が言っていた通り、私も薄々気づいていた。当時の私の彼氏は最低の遊び人で、私の他にも複数の女と付き合っていること。そして彼にとって私は本命の彼女でもなく、彼は私のことなんかほぼセフレのような存在にしか見ていないこと。


 だから詩織は、私が傷ついて苦しむのをそれ以上見たくなくて、私を心配して彼氏と別れろと言ってきてくれたのだろう。


 そして盲目になっていた私を正気に戻すために、何らかの方法を使って彼氏の浮気現場の写真まで用意してくれたんだ…。


 今考えるとありがたい話なんだけど、当時、イケメンの彼氏に夢中だった私は彼女の言葉に反発して受け入れようとはしなかった。


 …そして、翌日の帰りのバスで二人仲良く命を落としてしまった。

「…あのさ、蛇はどうなのか知らないけど、蜘蛛は最新話を投稿すれば必ずブックマークや☆評価をおねだりしちゃう生き物なの」

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